ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

糖質からタンパク質を生み出すバイオテクノロジーは飢餓をなくすことに貢献する

バイオテクノロジー

それは、近代的な科学技術のように思われがちですが、その起源は紀元前数千年前にさかのぼると言われています。人類が、バイオテクノロジーを使って最初に手に入れたものは、微生物を用いたチーズ、パン、ビール、ワインなどの発酵食品で、現在もこれらは世界中の人々が口にしています。

そう、バイオテクノロジーは、古今、人類の食や生活環境の維持にとても重要な役割を果たしてきたのです。

微生物から栄養補給

微生物は、あまりに小さすぎて目に見えません。それゆえ、我々人間は、日常生活の中で微生物から助けられていることを意識することがほとんどありません。

しかし、我々の皮膚にも、口の中にも、腸管内にも多くの微生物が生息しており、その数は人間の細胞数37兆個よりも多い100兆個とも言われています。1人の人間が100兆個もの微生物と共に生活しているのですから、彼らは、目に見えなくても最も身近な存在と言えるでしょう。

微生物は、その活動から人間にとって有意義な食べ物を作り出してくれるだけではありません。ベトナム戦争で米軍が撒いた枯葉剤を分解する微生物もいれば、石油タンカーの事故で汚染された海洋を浄化する微生物もいます。さらに我々人間は、彼らを食べて栄養補給することもできるのです。

香港科学技術大学教授のラインハート・レンネバーグさんの著書「カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書 上」では、食料としての微生物について興味深いことが紹介されています。

1kgの動物タンパクをつくるためには5~10kgの植物タンパクを必要とします。動物に餌を与えるために植物が必要になるからです。さらに農作物の収穫、輸送、貯蔵の過程で害虫によって大量のタンパク質が失われます。

一方で、これら損失は微生物を食べることで補うことが可能です。微生物には、タンパク質、脂質、糖質、ビタミンなど様々な栄養素が含まれているので、彼らは重要な栄養源ともなり得るのです。

錬金術のように糖質をタンパク質に変える

微生物を食料とするようになったのは、第1次大戦中のこと。

この頃、ドイツ帝国は、酵母を増殖させて菌体タンパクを大量に製造しました。食糧不足を補うためにソーセージとスープの水増し用にパン酵母が大量に培養されたそうです。

酵母は、糖分を含んだ廃液で増殖します。酵母はタンパク質ですから、安価な糖質を高価なタンパク質に直接変換したのと同じです。糖質は、食べることはできますが、人間にとって必須の栄養素ではなく、食べ続けていれば肥満の原因になります。一方、タンパク質は人間にとって必須の栄養素です。タンパク質(アミノ酸)がなければ遺伝子発現が行われませんから、人間はタンパク質を常に食事から十分な量摂取しなければ健康を維持できません。

酵母を培養して、糖質を価値あるタンパク質に変換する技術はまさに錬金術と言えるでしょう。

さらに1960年代に入ると、ヨーロッパで微生物タンパクの生産設備が作られるようになりました。タンパク質の需要が増えたことが理由です。

増え続けるタンパク質需要に応えるように糖質だけでなく炭化水素を含む原油成分のアルカン(パラフィン)やメタノールで増殖する微生物が発見されます。動物はアルカンを消化できませんが、この微生物はアルカンを有効なタンパク質に変えることができるのです。

微生物タンパクの生産

英国のRHM社とICI社の子会社のマーロウ・フーズのキノコタンパクは、ヒット商品になりました。

なんとキノコタンパクを魚や食肉の模造品に変えることに成功したのです。日本だとカニカマのようなものでしょうか。しかし、キノコタンパクは、カニカマよりも圧倒的に栄養価が高いです。

RHM社の研究者が見つけたフザリウム・ベネナツムという菌は、小麦の根腐れ病の原因菌として知られていました。

このフザリウムを食品にしようとしたのがすごい。消費者は、微生物タンパクに偏見を持っていましたが、RHM社はそれを熟知し、フザリウムはマッシュルームと同じ糸状菌であり、安心して食べられるトリュフのようなものだと強調したのです。

根腐れ菌と言われると食べようとは思いませんが、トリュフのようなものだと説明されれば何か高級な食材のように錯覚します。

フザリウムのすばらしいところは、無味無臭であり、食品の模造品として理想的なことです。さらに乾燥重量の50%がタンパク質であり、その組成はステーキに似ているのだとか。


細菌細胞と比較して糸状菌細胞を生産する利点は、サイズが大きいことと培養液から分離が容易なことにあります。しかし、細菌より生育が遅く、重さが2倍になるのに細菌だと20分で済むところが、糸状菌だと4~6時間もかかるそうです。ただ、これは欠点でもあり利点でもあります。生育が遅いと、最終産物に含まれる核酸プリン体)が少なくなります。プリン体の摂り過ぎは、痛風になるとも言われていますから、プリン体が少ない糸状菌は安心して食べることができます。

この糸状菌は、スープ、ビスケット、鶏肉、ハム、子ウシの肉まで、あらゆる種類の模造品に加工できるそうです。そのうち、日本のコンビニで売られているサラダチキンの原料にフザリウムが使用されるようになるかもしれませんね。


糖質からタンパク質を生み出せるバイオテクノロジーはとても魅力的です。

糖質を多く含む米や小麦をそのまま食べれば、脂肪の塊になるだけですが、これらを使って微生物を培養できれば良質なタンパク質の確保が可能になるかもしれません。

世界中では、タンパク質不足の人々が大勢います。彼らの栄養状態の改善にも、バイオテクノロジーは役立つはずです。

カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書(上) (ブルーバックス)

カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書(上) (ブルーバックス)