ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

バイオテクノロジーは食料生産に貢献するし生命も誕生させる

生命は、親が子を産み、子が孫を産むといった具合に誕生していきます。哺乳類であれば、雌雄1組のペアが生命誕生には必要です。

自然の摂理の中で、生命は誕生するというのが多くの人の当たり前の感覚だと思います。しかし、20世紀に人工授精により生命を誕生させるバイオテクノロジーが発達したことから、将来的には、生命は人為的に作り出すのが当たり前と考える人が増えていくかもしれません。

乳牛の産乳成績を飛躍的に上げた人工授精

香港科学技術大学教授のラインハート・レンネバーグさんの著書「カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書」の下巻では、人工授精の歴史が紹介されています。

人工授精は、つい最近の技術のように思われがちですが、1780年頃にラッザロ・スパランツァーニによって、人工授精によるイヌの繁殖が行われており、意外と古い歴史を持っています。

1940年代には、ウシの人工授精技術が確立され、1950年代に乳牛1頭あたりの産乳量が年間1,000L程度だったのが、現在では年間8,000L以上まで飛躍的に伸びています。我々現代人が、安価で牛乳を手に入れ飲むことができるのは、人工授精のおかげですね。もしも、人工授精が行われていなければ、牛乳の小売価格は現在の8倍、1Lあたりで約1,500円はする高価な飲み物になっていたかもしれません。

絶滅危惧動物を救う

人工授精などのバイオテクノロジーは、絶滅危惧動物の繁殖にも貢献してくれます。

米国オハイオ州シンシナティ動物園は、1984年にホルスタイン種ウシを代理母として、絶滅の恐れのあるガウルを誕生させました。また、1985年には、エランドアンテロープ代理母として、ボンゴアンテロープも誕生させています。

ただし、子ボンゴは、アフリカで生き抜く術を持っていません。そこで、米国の凍結ボンゴ胚をケニアに空輸して、現地で同じ方法で子ボンゴを誕生させ野生に放ちました。その子ボンゴは、行動科学の専門家によって小型無線送信器で追跡調査が行われているとのこと。

他に香港ではイルカの体外受精にも成功しています。

しかし、これら人工授精によって作り出されたクローン動物は、遺伝的に全く同じ動物のコピーを作ることになることから、その是非について激しい論争が起こっています。

自然界に存在しない動物も作り出せる

バイオテクノロジーは、自然界に存在しない動物を作り出すことも可能です。

例えば、ヒツジとヤギを合体させた動物の作製はすでに行われています。このような、いくつもの動物の部分からなる動物をギリシャ神話に登場するキメラにちなみ、キメラ動物と呼びます。

現在では、万能細胞の胚性幹細胞(ES細胞)を使ってキメラ動物を作り出すことも可能となっています。ヒトについては、治療目的でES細胞から正常細胞を作り出すことは有意義であるものの、クローン人間を作り出せる可能性があることから論争は絶えません。

また、キメラ動物は、畜産業に役立つかどうかもわかっていません。キメラ動物を畜産業に利用できれば、食料生産が飛躍的に向上するかもしれませんが、現在では想像できない不都合も発生するかもしれません。

成長ホルモンを使って動物を育てる

食料生産の視点からは、成長ホルモンの投与によって動物の発育を促す方法があります。

成長した乳牛に遺伝子組換えウシ成長ホルモンが投与されていますが、これにより産乳量は10~25%増えます。そして、飼料は6%の増量で済むことから、遺伝子組換えウシ成長ホルモンを投与した方がコストダウンになります。しかし、遺伝子組換えウシ成長ホルモンの投与についても激しく議論されています。

同じようにブタにも成長ホルモンを投与して成長を促しましたが、筋肉の発育が速く脂肪含量は低かったものの、腎臓や皮膚の異常、関節の炎症が見られました。一方、ヤギやヒツジの場合は健康上の問題はなさそうとのこと。

成長ホルモンの投与は魚の養殖にも使われています。

ニジマスの稚魚にサケの遺伝子組換え成長ホルモンを注射すると、普通のニジマスの2倍の大きさになります。

しかも、魚の遺伝子組換えは、哺乳動物よりもはるかに簡単に行えます。魚は体外受精なので、胚は母体ではなく、海や湖、川などの底で発生します。そのため、卵の採取が簡単で、代理母に移植する手間もありません。ただ、魚卵に注入操作を行うだけです。

しかし、人間の操作によって生まれた魚も、野生種との交雑が危惧されています。そこで、遺伝子が拡散しないように不妊化したトランスジェニック魚の作製が検討されています。

クローン動物は子供を作れるのか

人間が作り出したクローン動物で最も有名なのは、ヒツジでしょう。1990年代に作られたクローンヒツジはドリーと名付けられ、世界中で話題となりました。中には、クローン人間の誕生を恐れた人もいるでしょう。

このドリー。短命であったことから、やはりクローン動物はどこかに不具合があるのだと思う人が多いです。

しかしながら、ドリーは、存命中に6頭の子ヒツジを産んでいます。それも、自然に妊娠して出産しているのです。したがって、クローン動物であっても繁殖は可能であり、絶滅危惧動物のクローンを作ることで種の保存に役立てられる可能性があります。

バイオテクノロジーによって動物を作り出すことに不安な面はあります。しかし、ヒトの体外受精も行われるようになっているので、今後は、さらに人間によって動物の誕生や成長の操作は行われていくと思います。


世界中には、まだまだ飢餓に悩まされている人がたくさんいます。バイオテクノロジーは、そういう人々を救う手段となることでしょう。

ただし、バイオテクノロジーの暴走により、予期せぬ事態が発生する危険もあります。増え続ける世界人口を支えるためには、必要なリスクテイクなのでしょうか。

カラー図解 EURO版 バイオテクノロジーの教科書(下) (ブルーバックス)

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