2011年3月11日の福島原発事故以来、これらの言葉をよく目にし、耳にするようになりました。これら3つの単語は、全て同じ意味として使われることが多いですが、実は3つとも違う定義があることをご存知ですか?
おそらく、多くの人が、これらの言葉を単に健康被害をもたらす目に見えないものといった意味で使っていると思います。
原子とは何か?
物質は、少数の例外を除けば分子からできています。
分子とは何なのか?中学校で習っていることと思いますが、忘れている人も多いはず。そういう人は、もう一度中学校や高校のテキストで化学を勉強し直すことになりますが、それはとても面倒です。こういう時は、専門家が一般向けに分かりやすく書いている本で、さらっと復習するのがおすすめです。
有機化学、物理化学、光化学、超分子化学を専門とする斎藤勝裕さんの著書「やりなおし高校化学」は、一つの項目を2ページで端的に解説しているので、比較的、化学を復習しやすい構成となっています。ただ、ちょっと難しい部分もあるので一読しただけではわからない個所もあると思います。
やりなおし高校化学を読み進みながら、放射能、放射線、放射性物質がどういったものなのかを見ていきましょう。
コップに注いだ水は、細かく分解していくと水分子という粒に行きつきます。この水分子は、水素Hが2個と酸素Oが1個くっついたものです。そして、水分子は、さらに2個の水素Hと1個の酸素Oに分解することができ、これらを水素原子、酸素原子といいます。
つまり、物質は分子の集合体であり、分子は原子の集合体と言うことができます。
原子核と電子
分子を分解すると原子になりますが、原子もまた構造を持っています。
しかし、原子の形を正確に見ることは原理的に不可能です。でも、過去の実験結果から、原子は雲でできた球のようなものと考えられています。雲のように見えるのは電子からできた電子雲であり、その中心には高密度の重たく小さい1個の原子核があります。
原子核の直径は、原子の1万分の1ほどの大きさしかありません。しかしながら、原子核は原子の重さの99.9%を占めています。
我々が原子を見た場合、見えるのは中心の原子核ではなく外側の電子雲です。したがって、「化学は電子の科学である」とされています。
我々が見ることのできない原子核は、さらに陽子と中性子という下部構造を持っています。陽子はプラスの電荷を持っていますが、中性子は電荷を持っていません。ちなみに電子はマイナスの電荷を持っています。
原子核反応
分子や原子は反応して変化します。同じように原子核も変化して他の原子になることができます。この原子核の反応を特に原子核反応といいます。
ウランのような大きな原子が壊れて小さくなった場合、余分なエネルギーが放出されます。このエネルギーが核分裂エネルギーです。
一方、原子がくっついて行くときにエネルギーが放出されることもあります。例えば、水素が合体して大きくなっていくときに発生するエネルギーがそれで、核融合エネルギーといいます。
核分裂エネルギーの具体例が原子爆弾、核融合エネルギーの具体例が水素爆弾です。
原子核反応には、いくつか種類がありますが、よく知られているのは核分裂反応です。
例えば、原子力発電ではウラン235の核分裂によって大きなエネルギーを発生させます。中性子がウラン235の原子核に衝突すると、核分裂エネルギーとともに原子核の砕けた破片が飛び散ります。この破片は核分裂生成物といい、小さい原子の原子核で、大きなエネルギーを持っています。このエネルギーを放射線として放出し安定な原子核に変化します。
核分裂した原子核は、2個が4個、4個が8個といった具合に枝分かれ的に増えていき、やがて爆発します。この原理を用いたのが原子爆弾です。原子力発電の場合も、この連鎖反応を利用していますが、無限に反応が進むと大事故を起こしてしまいます。そのため、原子炉は、中性子の数を適当な個数に制御する仕掛けがしてあり、余分な中性子を取り除くために制御材が用いられています。
放射性物質
原子核反応には、核分裂反応や核融合反応の他に原子核崩壊という反応があります。
原子核崩壊は、原子核が放射線を放出して他の原子核に変化する反応のことです。このような定義を読んだだけでは、原子核崩壊をイメージしにくいですが、斎藤さんは野球を例にわかりやすく説明されています。
ピッチャーが投げたボールがバッターに当たって怪我をしたとしよう。バッターが被害者、ボールが放射線、ピッチャーが放射性物質、そしてピッチャーとしての能力が放射能である。当たると痛いのはボール(放射線)であって、放射能ではない。(30ページ)
野球で例えると、時速130kmのボールを投げるピッチャーと時速150kmのボールを投げるピッチャーでは、ボールが当たった時の痛さが違います。この速度の差が放射能の差と言えます。そして、ピッチャーは全て放射性物質であり、どのピッチャーもボールを投げることができるので放射能を有しています。ピッチャーが投げたボールが放射線ですね。
放射線の指標
野球のピッチャーの能力は、投げるボールのスピードで評価できます。カーブやフォークなどの変化球もありますが、ここではストレートしか投げないことを前提にします。
放射線もピッチャーが投げるボールのスピードと同じような評価指標があります。しかし、単位がいくつもあるので、一般人には原発事故が起こった時の放射線の危険度がどれくらいかを認識するのが難しいです。
放射線の指標には、ベクレル、グレイ、シーベルトの3つがあります。
ベクレル
1秒間に何個の放射線が放出されるかを表す数値。放射線の種類やエネルギーについては何も示しません。身近な例だと重さの単位のようなものですね。100グラムのパン、100グラムの金、100グラムの時計など、全て同じ100グラムですが用途は違います。
グレイ
生体に吸収されたエネルギーの量を表す数値。1J/kgのエネルギーが吸収される状態が1グレイ。放射線の種類は問いません。
シーベルト
グレイに線質係数をかけた数値。同じエネルギーの放射線でも種類によって生体に与える影響が違います。この違いを考慮したものが線質係数です。線質係数にグレイをかけたシーベルトは、放射線の害を直接表す指標として用いられます。したがって、原発事故が起こった時の危険度がわかりやすいのはシーベルトです。
被ばくの程度が150ミリシーベルトであれば軽度のむかつきで済みますが、1,000ミリシーベルトではリンパ球減少、5,000ミリシーベルトで下痢や出血、一時的な脱毛といった症状が出ます。1万ミリシーベルトだと意識障害、5万ミリシーベルトだと48時間以内にに死亡するそうです。
放射能、放射線、放射性物質の違いがわかったので、これで原発事故のニュースの内容を理解できるようになったはずです。
でも、これらの用語を一般人が知らなくても済むように原子力発電所が安全に運転されれば良いのですけどね。

- 作者:勝裕, 齋藤
- 発売日: 2016/05/09
- メディア: 新書