期限が迫っている仕事を終わらせるために残業をした経験があるという方は、多いのではないでしょうか?
その仕事が期限までに終わらなければ、社内はもちろんこと、取引先にも迷惑をかけることになります。だから、何が何でも終わらせなければなりません。仮に残業代が支給されなかったとしても、自分を犠牲にして夜遅くまで会社に残って仕事をし、期限までに満足のいく仕事をするのでしょう。
僕にもそういう経験があります。
ところで、残業をした場合、罰金を科すという会社があると聞いてどう思いますか?
おそらく、人権無視だという反対意見もあれば、与えられた時間内に仕事を終えない方が悪いから仕方がないという意見もあることでしょう。
残業は連帯責任にしてボーナスをカット
残業をした従業員に罰金を科す会社なんてあるのかと思うでしょう。しかし、下着メーカーのトリンプでは、実際に残業に対して罰金を科しています。
元代表取締役社長の吉越浩一郎さんは、著書の「2分以内で仕事は決断しなさい」の中で、残業に対して罪の意識を持ってもらうために残業をしたら、罰金としてボーナス予算から差し引くと語っています。
働けば働くほど、収入が減るのなら、働かない方がましだと思うでしょうが、残業代は、しっかりと支給されます。なので、残業をしたからといってサービス残業となるわけではありません。
罰金が科せられるのは、残業をした従業員ではなく、その従業員が所属する部門全体に対してです。つまり、連帯責任ということですね。
僕は、残業に対して連帯責任を科すというのは、良いと思っています。というのも、同じ部門で働いている他の従業員が、仕事に時間がかかっている従業員をサポートするようになるからです。
残業したら、本人は残業代を支給されますが、それ以外の部門の構成員は、ボーナスが減ってしまいます。だから、仕事が遅い同僚がいるのをわかっていても、手伝わずに無視することは、自ら収入を減らす行為になります。それなら、残業している従業員を無視するよりも、部門全体で協力して、仕事が遅い従業員をサポートした方がいいですよね。
また、こういう協力を繰り返すことで、社内の連帯感も強まっていくのではないでしょうか。
全ての業務にデッドラインを設ける
吉越さんは、仕事で重要なことはスピードだと述べています。
現在のように変化の激しい企業環境では、もたもたとしていたのでは生き残れないというのが、その考え方の背景にあります。
トリンプの会議では、議題は2分で結論を出すそうです。普通なら、こんなに早く結論を出すのは難しいですね。普段からスピードを意識しているから、議題を2分で解決することが可能なのでしょう。
スピードにこだわっているトリンプでは、ファイルは仕事の種類ではなくデッドライン(締切)で分けているそうです。
通常の会社だと、ファイルに綴じられる内容は、案件ごとや業務内容ごとになっていることが多いですよね。しかし、このような綴じ方をしていると、仕事に取り掛かるときにどちらの案件が重要かということをいちいち考えなければなりません。
でも、デッドラインごとにファイルを作っておくと、締切が近い順番に仕事をしていけばいいので、業務に取り掛かるときに思案する必要がありません。だから、案件ごとにファイルを作るよりもデッドラインごとにファイルを作った方が、仕事に取り掛かる時間を短縮しやすいんですね。
今日中にやらなくてはいけないもの、明日までのもの、明後日までのもの。すべての仕事にデッドラインがついているので、その日付順に仕事を分けていくのです。
仕事の内容は、まったく考慮しません。会社の行く末を左右する重要な案件も、趣味と実益を兼ねた夜のおつき合いも、無条件にデッドラインで切っていきます。(19ページ)
飲食店ではデッドライン順で仕事をするのは当たり前
締切順に仕事をすると、大きな案件よりも小さな案件が優先されてしまうことがあり、会社にとって良くないのではないかといった意見もあることでしょう。
例えば、受注金額1億円の仕事と100万円の仕事なら、1億円の方が会社にとって重要な案件なんだから、まずはこちらを優先すべきだと考えるわけですね。
でも、私生活での約束だとどうでしょうか?
多くの人は、先に約束をした人を優先し、後から誘いを受けた方を断りませんか?中には、交友関係に甲乙をつけて、自分が大事にしたいと思っている友人を優先するという人がいるかもしれませんが、多くの場合は先に約束した方を優先しますよね。
仕事の場合も、それと同じではないでしょうか?
優先すべきは先に注文を受けたお客さんにするはずです。飲食店の場合ならわかりやすいですよね。先に入店したお客さんよりも、後から入店したお客さんの方が、先に料理が出てくるなんてこと普通はないでしょう。
調理に時間がかかるといった理由があるのならともかく、注文した料理が高いか安いかなんて基準で、調理する順番を決めていては、後回しにされたお客さんは、二度と来店しようとは思いません。
これは、企業間の取引でも言えるはずです。
「がんばるタイム」で仕事のスピードアップ
吉越さんは、トリンプの社長をしていた時、「がんばるタイム」という時間を設けたそうです。
がんばるタイムは、午後12時30分から2時30分の2時間の間、私語を一切禁止し、電話もダメ、オフィス内を歩き回るのもダメとするものです。つまり、従業員は机に向かって、2時間、無言で仕事をしなければならないということです。
こんなことをしたら、取引先と電話でやり取りできなくなるから、かえって仕事が遅くなってしまうと思う方もいるでしょう。でも、吉越さんは、がんばるタイムが午後に2時間設定されていることで、仕事がはかどると述べています。
例えば、明日の早朝会議までがデッドラインの仕事があったとしましょう。
もしも、取引先に電話をして確認しなければならない事項があった場合、がんばるタイム後に先方に連絡を入れると、仮に先方の担当者が会議中だったら、終業までに連絡をとれない可能性があります。トリンプでは残業が禁止されているので、終業時間までに連絡を取れなかった時点でアウトです。
だから、トリンプの従業員は、午前中に取引先と連絡をとっておくようにします。仮に先方の担当者が会議中だったとしても、後で折り返し電話をいただけるようにお願いしておけば、終業時間までには、連絡をとることができるでしょう。
「がんばるタイム」があることで、一日の中に「午前中、がんばるタイム、定時の六時まで」という三つのデッドラインができるということです。
それぞれのデッドラインを守ろうとすれば、当然、無駄なことをしている余裕はなくなります。「午前中は気が乗らないから、まずコーヒーでも」とか、「昼食後は眠くなるのでのんびり仕事を」などど言っていると、たちまち仕事が行き詰まる。「がんばるタイム」は、一日の仕事をスムーズに進めるためにも効果的な方法なのです。(80ページ)
残業したら罰金を科すことの是非をもう一度考える
ここで、もう一度、残業をしたら罰金を科すという制度の是非を考えてみましょう。
仕事の順番を案件の重要性の順にすると、後回しにされた仕事が締切に間に合わなくなる可能性があります。こういった優先順位の付け方を認めている会社で、残業に罰金を科すのは良くないと思いますね。こういった事態になるのは、経営者が、仕事の締切を守れるようにする施策を講じていないのですから。
でも、仕事の順番を締切順とし、細かくデッドラインを決めて、その進捗状況を上司がチェックし、遅れている時には助けを出すという施策を講じているのなら、残業に対して罰金が科されても仕方ないと思います。この場合、担当者だけでなく、仕事をチェックした上司も連帯責任となりますから、やむを得ないでしょう。
もちろん、どう考えても期限に間に合いそうにない注文を受けた場合にまで、残業に罰金を科すのはかわいそうですが、その場合は、仕事を受けた営業担当者のボーナスも減らされることになるので、無理な注文を受ける危険性は下がるのではないでしょうか?
とは言え、業績が悪い会社の場合、無理な注文を引き受けてしまうことがあるでしょうね。
結論。
残業に罰金を科す場合には、経営者は、残業をしなくても仕事を終えることができる体制を構築しておく必要があります。
- 作者:吉越 浩一郎
- 発売日: 2005/04/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)