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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

「第二」を決めない「第一」では意味がない。優先順位を明確にする経営学。

よく「○○第一」という言葉を聞くことがあります。その言葉をよく使うという方も多いのではないでしょうか?

例えば、製造業や建設業に従事している方なら「安全第一」という言葉を目にする機会が多いでしょう。社是としている会社もあるはずです。また、小売業やサービス業なら「顧客第一」を掲げて、毎日、仕事をしているのではないでしょうか。個人なら「健康第一」や「家庭第一」などですね。

でも、「○○第一」と言っている人の多くが、「第二は何ですか?」と問われても答えることができないように思います。「第一」があれば「第二」があるはずですよね。

ヤマト運輸の会長であった小倉昌男さんは、経営においては、「第二」を決めない「第一」では無意味だといった趣旨のことを著書の「経営学」の中で述べています。

木工工場で気づかされた安全第一の意味

小倉さんは、ヤマト運輸を宅急便事業で大きくした経営者として有名です。

宅急便が全国的に普及した理由はいくつかありますが、僕は、小倉さんがある木工の工場に見学に行ったとき、そこの社長さんが言った言葉が、今のヤマト運輸を育てた大きな要因になっているのではないかと思います。


小倉さんは、若いとき、ヤマト運輸の子会社の静岡運輸に出向していました。静岡運輸は、労災事故が多い会社で、小倉さんは労働基準監督署に呼び出されたことがありました。

そこの総務部長が、静岡運輸は管内で際立って労災事故が多いから、木工工場を見学して参考にするように言います。小倉さんは、木工業では、運送業の参考にならないのではないかと疑問を持っていましたが、せっかくの話を無視するのも悪いと思い、その木工工場を訪れます。

木工工場には大した設備もなく、安全のために大げさな投資をしているようにも見えません。でも、工場の壁には、「安全第一、能率第二」と大きな字で書かれた紙が貼ってありました。

工場の経営者はこう言った。
―前は、本当に労災事故が多かった。でも、人命の尊さを考えたとき、何としても事故を減らさなければならない。それで考えたのは、能率を上げることだけを言っているうちは事故はなくならないだろうということだった。―
その気持ちを表すために、「安全第一、能率第二」という標語を工場内に掲げた。時間が経つにつれて安全の実績は徐々に上がったが、能率は決して落ちなかったという。
「安全も能率も、どちらもしっかりやれと言っていた時分は、結局どちらも中途半端でしたね」(143~144ページ)

木工工場から帰ってきた小倉さんは、すぐに静岡運輸の幹部を集めて、これからは「安全第一、営業第二」をモットーにして仕事をすることを宣言しました。

「第二」なくして本当の「第一」はない

当時の静岡運輸では、車で2晩寝て3日目に自宅に戻るのが通常の勤務形態となっていました。しかし、臨時の仕事が入った時には、3日間の勤務を終え、自宅に帰る番の運転手にもう一仕事やってもらうことがよくあったそうです。

これだと車で4泊して5日目に帰宅になってしまいます。これを「トンボ」と言っていたとのこと。

トンボは、会社にとっては運転手の不足を補えるし、運転手も手当てが増えるから恒常的に行われていました。しかし、労働災害の原因の一つは過重労働にあることは間違いありません。すなわち、トンボが頻繁に行われれば、それだけ、労災事故も増えるということです。

そこで、小倉さんは、トンボをやめさせるために、壁に「安全第一、営業第二」のポスターを貼り、いくら営業からの要請があっても、過重労働になる仕事は断るように運転手に指示しました。

ポスターの効果から、労災事故は少しずつ減っていきました。また、運転手の長時間労働が減ることで、営業の業績が以前よりも悪くなるかと思われるところですが、そのようなこともなく、むしろ活発になっていったそうです。


売上目標を掲げたはいいけど、期の終わりに近づくと利益が目標より低いので、売上目標は無視され利益が優先される。安全月間になると「安全第一」の号令が下る。製品のクレームが来ると、今度は「品質第一」に方針転換。

これでは、いったい何が「第一」なのかわかりません。

”第二”がなく、”第一”ばかりあるということは、本当の第一がない、ということを表してはいないだろうか。
なんでも”第一”の社長は「戦術的レベル」の社長である。うちの会社の現状では何が第一で、何が第二、とはっきり指示できる社長は、「戦略的レベル」の社長である。
社長の役目は、会社の現状を正しく分析し、何を重点として取り上げなければならないかを選択し、それを論理的に説明すること、つまり戦略的思考をすることに尽きると思う。(146ページ)

宅急便1本で勝負

小倉さんの「安全第一、営業第二」の言葉は、ヤマト運輸の業務の随所で見ることができます。

「サービスが先、利益は後」「車が先、荷物は後」「社員が先、荷物は後」などです。サービスの質を高めれば利益は後からついてくるとはよく言われますね。「車が先、荷物は後」は、十分な数の車をまず用意することが先で、積み荷の数を増やすことは後ということです。「社員が先、荷物は後」も同様です。要するにこれらの言葉は、投資が先に行われなければならず、そうしなければ後から利益がついてこないということですね。


ヤマト運輸は、現在の個人宅配を行う前、他の運送業者と同じように業者を相手とした運送を主として行っていました。でも、小倉さんは、個人宅配がこれからは伸びると確信を持っていたので、業者を相手とした運送から一切の手を引き、個人宅配、つまり宅急便1本で勝負する決意をします。

そう決意させたのは、吉野家が当時、牛丼1本で経営をしているのを知ったからでした。

取扱品目を削って、一つに集中するというのはなかなかできることではありません。それまでの売上も利益も捨てることになるのですから。しかし、小倉さんが、そのような選択をできたのは、「第二」を明確にして「第一」を決定する考え方を身につけていたからではないでしょうか?


ビジネス書を読んでいると、「成果を上げるために何を犠牲にするのか決める」「やるべきこととやらないことを決める」などの言葉をよく目にしますが、どれも漠然としているように思います。でも、小倉さんの言う「安全第一、営業第二」という言葉は、優先順位を決めるという点で、とてもわかりやすいですよね。

日々の仕事の中で、10個も20個も順番を決めるのはしんどいですし、それを守ることは面倒でしょう。でも、「第二」を明らかにし「第一」を決定することは、それほど難しいことではないはずです。

仕事でも、私生活でも、まずは「第二」を明確にしてみてはどうでしょうか?そうすることで、真の「第一」が見えてくるかもしれませんよ。

小倉昌男 経営学

小倉昌男 経営学