ウェブ1丁目図書館

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町工場初の株式上場を果たすことができた驚異の短納期

2003年3月にジャスダックに町工場が初めて上場しました。

その町工場は、エーワン精密という会社で、コレットチャックとカムを製造販売しています。

町工場は、大手メーカーの下請けが主な仕事内容で、受注条件は大手メーカーの決めたものとなることから、大した利益が得られないといったイメージがあります。しかも、景気が悪くなると値下げ圧力に耐え切れず、さらに業績が悪化していき、生き残るのがやっとという印象が強いですね。

しかし、エーワン精密は、37年連続で売上高経常利益率が35%を超えるというのですから、町工場との比較はもちろんのこと、誰もが知っているような大企業と比較しても負けていません。それどころか、大手でも、こんなに高い利益率を達成しているところは、あまりないですね。

エーワン精密が、このような高利益率を達成しているのには、他社が真似できない驚異の短納期が理由のひとつです。

図面を見せると製品が出てくると思われるほどの短納期

エーワン精密の創業者の梅原勝彦さんは、著書の「経常利益率35%超を37年続ける町工場強さの理由」の中で、利益の源泉は、高品質、短納期、適正価格の3つの製造業の基本を愚直に実践することだと述べています。

この3つの基本の中でも、エーワン精密が特に優れているのが短納期です。


エーワン精密が製造しているカムとコレットチャックは、自動旋盤に使用する部品です。

カムは、自動旋盤の回転軸に取り付けて、運動の方向を変え、刃物の動きを抑制する治具です。コレットチャックは、自動旋盤で金属製品を削る際に加工物を挟んで固定するもので、シャープペンシルの先についている芯を挟む部分のようなものです。

どちらも顧客が使用している自動旋盤に合わせて加工する必要があるため、製品に独自性を持たせることができません。また、品質で勝負するにしても、業界では一定の評価を得ている企業も存在しているので、この部分で差をつけるのも困難です。

そうなると、値下げして低価格を訴求するしかないと思いますが、安売りをすると、大手に値下げ競争を挑まれたら、新規参入の企業が勝てるはずもありません。


エーワン精密のような後発企業が、業界でトップになるにはどうしたら良いか?

梅原さんは、考えに考え抜き、短納期という結論を出しました。

依頼してくる企業に「じっくり時間をかけていいものをつくってよ」などどいうところはまずありません。そんな悠長なことをいっていたら、その会社自体が厳しい競争を勝ち抜いていけないからです。カムにしてもコレットチャックにしても、注文する方は一刻も早く完成品がほしい。だったら、他社に勝るとも劣らない高品質で、価格も割高でなく、なおかつ同業者のどこよりも早く納品できれば、これは絶対に競争に勝てるにちがいありません。(24ページ)

このようにエーワン精密が短納期にこだわるようになったことから、今では、「どうも、図面をみせると製品が出てくる機械を使っているらしい」と誠しやかに噂されるようになったとのこと。実際にはそのようなことはないのですが。

短納期が可能な理由

エーワン精密の短納期がどの程度かというと、注文を受けたら、その日のうちに仕上げて発送するという驚異の短さです。

先ほども述べましたが、カムもコレットチャックも発注した会社の自動旋盤に合わせたものを造る必要があります。そのような製品を造ろうと思ったら、他社の場合は1週間ほどかかるそうです。下手をすると1ヶ月もかかるとか。

エーワン精密が、注文を受けたその日に発送まで終えることができるのは、作業に取り掛かる時間が極端に短いことが理由です。本社で注文を受けてから工場で作業に取り掛かるまでの時間は、たったの5分というのですから驚きです。

なぜ、こんなに早く作業に取り掛かれるのでしょうか?

それは、他社が当たり前のように行っている工程管理や納期管理といった作業を一切やらないからです。

そもそも工程管理や納期管理が必要になるのは、たくさんの受注残を抱えているから、つまり、先に受けた仕事が片付いていないからです。今日受けた仕事はいつ取りかかればいいのか。そういった情報を知るためには、過去に受けた仕事がどれだけ残っているのか、その仕事がいつ終わって、どのラインがいつから使用可能になるのかといったことを確認しなければなりません。

この作業が無駄なわけです。

エーワン精密が、注文を受けてすぐに作業に取り掛かれる理由の一つは、注文伝票をファックスで送っているからです。作業現場では、注文票を作業指示書として使い、それに手書きで必要な内容を記入していきます。

ファックスをインターネットにしたほうが、もっと効率よくできると考えたくなりますが、私はそうは思いません。(中略)
それよりも、注文伝票をファックスで送るというスタイルなら、その注文伝票を、現場でそのまま作業指示書として使える。これが実に便利なのです。ひとつの製品を完成するまで、だいたい二五工程くらいかかるのですが、材料と一緒に注文伝票兼作業指示書が回ってくれば、各工程で随時それをみて、内容を確認しながら作業ができるじゃないですか。私はいまのところ、これに勝る効率的な方法はないと思っています。(94~96ページ)

とは言え、エーワン精密は全てがアナログということではありません。入金管理や売上管理などはオフコンを導入し、完璧なIT化を施しています。何でもかんでもアナログがいいとか、デジタルがいいとかいうことではなく、場合に応じて使い分けることが大切なんですね。


このように作業に取り掛かる時間を短縮したことで、エーワン精密では、他社よりも2倍の時間をかけて製品を造りこみ、高い品質を維持しているということです。

いい仕事をしていても利益が出るわけではない

よく質の高い仕事をしていれば、利益は後から着いてくると言われます。

しかし、梅原さんによると、それだけでは不十分とのこと。

経営者が利益を追求するのは当たり前のことです。中小企業の経営者の多くは、いい仕事をしていれば利益が出ると勘違いしていますが、そもそも利益にこだわった仕事の仕方や経営をしなければ利益は出ません。

下請けの場合、どうしても大手メーカーの値引き要求に耐えることができず採算を度外視した価格で仕事を受けてしまいます。しかし、そういうことをしていたのでは、24時間設備をフル稼働させるようなことをして原価を下げざるを得ません。そうすると、10年使える機械を5年で買い替えなければならないといったことになり、ますます資金繰りが悪化します。

だから、材料費、人件費、設備投資資金などを上乗せした適正価格でなければ、仕事を受けないようにする努力をしなければならないのです。

好況時の利益には不況時の「しのぎ代」も織り込む

梅原さんは、景気は好況と不況が繰り返されるので、好況時にはしっかりと利益を出して不況時に備えなければならないと主張しています。

そのためには、不況の時に耐え忍ぶだけの「しのぎ代」も価格に上乗せしておくことが大切です。もちろん、このような価格設定なので、エーワン精密の製品は他社製品よりも高価となっていますが、37年間1回も値上げはしたことがないそうです。

30年以上も価格を維持できている理由は、エーワン精密が作業効率を高める努力をしているからです。そのためには、生産性の高い機械をどこよりも早く導入しなければなりません。しかし、製造業の多くは、最近の不況の影響もあり、なかなか最新設備への買い替えができていないのではないでしょうか?


梅原さんは、不況の時こそ設備投資をすべきだと語っています。

不況の時は、銀行も融資先を探しているので、低金利で設備資金を借りやすくなります。また、機械メーカーも売れなくて困っている時期ですから、価格交渉もしやすくなり、特殊仕様の注文も受けてくれます。

反対に好況時には、借入資金の金利は高くなります。機械メーカーも強気の価格設定をしてくるので、同じ機械でも割高になってしまいます。

梅原さんが、好況時の利益には、不況時の「しのぎ代」も織り込まなければならないというのは、これが理由なんですね。


他社よりも早く作業に取り掛かることで短納期を実現できます。それにより、製造にかける時間を増やすことができ品質が良くなります。

そして、適正価格で販売し利益を確保することで、例え不況でも新設備の導入が可能となり、作業効率が高まります。そうすると、販売価格を上げなくても利益を維持することができます。


高品質、短納期、適正価格という3つの基本を実践するための努力が、製造業にとって最も重要なことなんですね。