今やネットを使えば、あらゆる情報を見つけられるようになっています。
と、誰もが思っていることでしょう。確かにネットの普及で、地図など、これまで書店でお金を支払わなければならなかった情報を無料で入手できるようになり、情報収集が格段に便利になりました。
しかし、ネットの普及と無料が組み合わさったことで、偽(フェイク)ニュースにアクセスする機会が増え、逆に事実や真実の情報を見つけ出すのが難しくなっています。
マスメディアのニュース独占
ネットがなかった時代にニュースを発信する主体は、新聞、テレビ、雑誌といったマスメディアでした。
ニュースを作れるのは、事件現場に足を運んで取材したり、大臣や国会議員に直接会って話を聞いたりできるマスメディアの記者だけというのが、かつての常識でした。
そして、マスメディアのニュースは、お金を支払って見たり読んだりするものであり、それを当たり前のものだと誰もが思っていました。しかし、マスメディアによるニュース独占は、マスメディアによって破壊され始めます。
ジャーナリストの藤代裕之さんは、著書の「ネットメディア覇権戦争」の中で、新聞社がニュースをタダにしたことで、ネット上に偽ニュースが生まれたと指摘しています。
今でも、紙の新聞は有料ですが、ネット上では同じ内容のニュースが無料で読めます。この不思議なビジネスモデルが誕生したのは、1996年に国内でサービスを開始したポータルサイトのヤフーと関係があります。
2000年前後まで、ネットに接続して最初に見るのはヤフーという人は多く、ヤフーから他のサイトへアクセスするのが基本でした。そのため、ヤフーは、多くのページビュー(PV)を集めることができました。
そして、ヤフーは、多くの新聞社から記事を安く買い配信するサービスを始めます。この時は、ニュースの作り手は新聞社であり、マスメディアがニュースを独占していました。
プラットフォームかメディアか
ヤフーがサービスを開始したころ、新聞社も自前のウェブサイトを持っていたので、ヤフーにニュースを売る必要はなかったように思えます。
しかし、各新聞社が集められるアクセスは微々たるもので、ネット部門が収入を得るためにはヤフーからの配信料とアクセス誘導に頼らざるを得ませんでした。また、ヤフーにしても、コストもリスクも高いニュースを安く調達できるので、両者にとって、このビジネスモデルは、デメリットよりメリットの方が大きかったようです。
ただ、日経新聞は、ビジネスパーソンを対象としていたことから広告単価が高く、ヤフーにニュースを配信していませんでした。ウェブサイトには、紙の新聞の3割の記事しか載せないというルールも作り、ネットとの距離を置いていました。
もともとヤフーは、新聞社にニュース発信の場を与えるプラットフォームに徹していました。しかし、ヤフーは、やがて、Yahoo!ニュース個人というサービスを開始し、ジャーナリストやブロガーが執筆した記事を配信し始めるメディアの顔も持つようになります。
ニュースを作れるのは訓練された記者や編集者だけだとの新聞社の考えが崩されることになったのです。
プラットフォームの展開
ネットが普及し始めた当初は、ヤフーが代表的なプラットフォームでしたが、2000年代に入るとライブドアなど様々なプラットフォームが誕生しました。
スマートニュースやグノシーといったキュレーションサイトも登場し、ニュースを知る媒体は、新聞やテレビといったマスメディアだけではなくなりました。むしろ、ニュースを配信する場を提供しているプラットフォームでニュースを読むことが当たり前となっている状況です。
プラットフォームが、マスメディアのニュース配信の場の提供に徹している時には、両者は良好な関係を維持できます。しかし、プラットフォームが、情報を発信するメディアとなった時、両者の関係は悪化し、さらには偽ニュースがネット上を飛び交うようになります。
プラットフォームの大きな収入源は広告です。広告収入は、PV数に比例して増えていきます。プラットフォームは、ニュースに対してユーザーがコメントを書き込めるようにし、このコメントがひとたび炎上すると、PVが一気に跳ね上がり、広告収入も増加します。
大衆は難しいニュースは読みません。芸能のような軽めの記事にPVは集中し、不倫問題を扱えば、ドカンとPVが増加します。誰かのコメントが炎上しようものなら、SNSにまで波及し、次々とプラットフォームにトラフィックが流れます。偽ニュースやネコも同じで、これらを扱うことで、多くのPVを稼げます。
SNSでシェアされてもURLはクリックされにくい
記事のURLがSNSでシェアされた場合、その記事へのアクセスが増加しますが、ツイッターでシェアされた記事のURLは、59%がクリックされないという研究結果があります。
「人はまとめ、あるいはまとめのまとめに基づいて自分の意見を形成し、深掘りしようとしない」(217ページ)
誰かの大喜利のようなコメントを見て、シェアするだけで、元記事を見ようとしない人が多いのですから、偽ニュースがネット上にあふれるのは当然のことと言えます。
芸能人Aが不倫した記事をSNSでシェアし、「きっと芸能人Bも不倫をしているに違いない」とコメントを書くと、そのコメントだけを見たフォロワーが「B芸能人が不倫している」と断定的なコメントを書きます。コメントにさらにコメントをつけて拡散する人が増えれば、元記事がいったいどこにあるのかもわからなくなることでしょう。
かつて、ニュースはお金を出して買うものだったのが、今や無料で読むものに変わっています。
しかし、無料でニュースを提供するメディアは収入を得られません。だから、PVに応じて増える広告料を収入源とするのですが、政治や経済のようなまともな記事では、なかなかPVが増えません。
戦時中に新聞社が、戦争をあおって部数を増やしたのと同じで、ネット社会では、プラットフォームやメディアが、炎上を狙ってアクセスを得ることが有効な収益増加策となっています。
ユーザーが、ニュースの真偽を見極めるためには、キュレーションサイトから自動的に送られてくる無料の情報ばかりに触れていては難しいでしょう。
ネット社会では、お金を出して新聞や書籍から情報を入手することが、これまで以上に重要となるのです。