ウェブ1丁目図書館

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担保で貸すか、事業で貸すか

金融業界では、しばしばオーバーバンキングという言葉が使われます。

オーバーバンキングは、お金を借りたいと思っている事業者よりも、銀行、信用金庫、信用組合の数が多すぎ、過剰な低金利競争を招いていることを意味します。早い話が、銀行が余っている状態がオーバーバンキングです。

しかし、銀行が余っているというのは本当なのか、疑問があります。資金繰りに困っている事業者はいくらでもいるのになぜオーバーバンキングなのか、不思議です。

世間と銀行との認識のずれ

無肥料無農薬のリンゴ栽培に成功した木村秋則さんや風で織るタオルで知られるIKEUCHI ORGANICは、将来性のある事業を行っていたのに金融機関から資金を借りることができませんでした。

オーバーバンキングが事実であれば、木村さんにもIKEUCHI ORGANICにも資金が融通されていたはずです。

共同通信社経済部記者の橋本卓典さんは、著書の「金融排除」で、世間と銀行との認識の食い違いを指摘しています。

世間は、銀行はまだお金を貸すことができるはずだと言います。一方、銀行は、もうお金を貸すところはないと言います。

いったい、どういうことなのでしょうか。

お金が必要な事業者は、銀行や信金信組に借り入れを申し込みます。銀行や信金信組は、その事業者にめぼしい担保があれば融資しますが、担保になるものがなく、保証人もいない場合には融資を断ります。

一見、当たり前のように思えますが、ここに事業者と金融機関の認識に食い違いがあります。事業者は、事業が順調だったり、将来性があったりと、今後の売上や利益が返済の担保になると考えて融資を申し込みます。しかし、金融機関は、担保となる財産がなければ融資できないと断ります。

すわなち、事業者はフローの安定性を説明しているのに対して、金融機関はストックの安定性を求めているから両者の認識にズレが生じているのです。そして、事業者は資金を調達できず、資金繰りに苦労し、最悪の場合には倒産してしまいます。

さすがに金融庁も、これを問題視し、2016事務年度金融行政方針に「日本型金融排除」を盛り込み、金融機関が顧客を必要以上に排除しすぎたため、金融仲介業務が正常に発揮されていないとの見解を示しました。

財務データに詳しくても事業内容は知らない

「金融排除」の中では、金融機関で働いている人が、自分が担当している会社の財務データは暗記するほど詳しいのに事業内容を何も知らない例が紹介されています。

こういったことは稀なのかもしれません。でも、財務データばかり意識しすぎた結果が、金融排除につながっているのでしょう。「担保や保証に依存した融資」ではなく、「担保と保証しか見ていない」実態を金融庁も認めざるを得ない状況まで金融排除は進んでいたのです。

金融庁が、2017年に中小事業者3万社にアンケート調査を行い、8,901社から回答を得ました。その内容は、担保・保証がないと貸してくれないと感じている割合が40%、債務者区分が「要注意先」にしぼると54%がそう感じているというものでした。また、要注意先になると、メインバンクから新規融資を受けたことがある割合は29%と低く、金融排除の実態が浮き彫りになりました。

地銀や信金信組は地域経済に詳しいはずですが、その知識が融資の判断に利用されにくくなっているのが、金融排除につながっているのでしょう。

地域経済と一体となって動く金融機関

金融排除の一方で、積極的に事業者に融資を行っている金融機関の例も、「金融排除」では紹介されています。

広島県信用組合は、金融排除を行っている銀行と同じことをしていては、いつか息詰まると考え、積極的に新規の資金需要の掘り起こしを行います。サービサーが債権を買い取った企業への融資です。このような企業は、担保がなく、保証付き融資が使えませんが、事業内容を分析することで、資金を供給できるようになりました。

また、保証協会の例では、担当者が金融排除を受けている工場の158アイテムもの利益率を手作業で調べ、その中の10アイテムで売上の73%を占めていること、13アイテムだけでロスの86%を占めていることを明らかにし、年間利益約87万円だったのをたった1年で約400万円まで増加させたことが紹介されています。

地銀や信金信組の役割は、本来こういうことではないでしょうか。

事業内容を理解し、どの商品の売上や利益が好調で、どの商品が不調なのかを知ること。事業のどこを改善すれば良くなるのか。その事業者が求めている人材の紹介。

事業者が直接求めているのは資金ですが、その裏には、どうすれば事業を継続させていけるのかといった悩みの解消があるはずです。担保や保証ばかりに意識がいっていては、事業者の悩みを解決する能力が身につかず、金融機関の業務が縮小していくだけではないでしょうか。

それが、金融機関がオーバーバンキングの意識を持つ原因となっているように思えます。


経済が回らなければ金融も成り立ちません。

すばらしい事業が、この世にたくさんあっても、そこに資金が融通されなければ衰退していきます。

事業者の存続は経済を発展させます。そして、経済の発展は金融の安定化にもつながります。なんとかペイに力を入れるよりも、金融排除をなくし、金融包摂を拡大することが、金融機関に求められているのではないでしょうか。