ウェブ1丁目図書館

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海外の視点で日本史を見る

自国の歴史を学ぶ際、教える側は自国民であることが多いです。日本史であれば、日本人教師が、児童や生徒に教科書を使いながら教えます。どの国でも、自国の歴史は自国民から学ぶのが当たり前です。

だから、他国から自国の歴史を見るとどのように映るのかは、あまり意識されず、国内から見た自国の歴史こそが正しい歴史だと思いがちです。しかし、どの国も、海外と関わってきていますから、自国の歴史をより深く理解するためには、国内の視点だけでなく海外の視点も取り入れる必要があります。

日本の近代化を支えた自然環境

作家でコンサルタント佐藤智恵さんが、ハーバード大学の日本史に関わる先生方にインタビューした内容を収録している『ハーバード日本史教室』は、アメリカ人が、どのような視点で日本史を見ているのかを知ることができます。

江戸時代を終えた日本は、明治となり急速に近代化していきます。西洋諸国に追いつくため、当時の日本人は、西洋から電気や鉄道などの知識や技術を学び、国内を発展させていきました。

これが、現代日本人が持つ一般的な日本の近代化の知識です。でも、環境史という視点で見ると、日本が急速に近代化できた理由が、別のところにあったことがわかります。

比較帝国論、環境史、日本史を専門とするイアン・ジャレッド・ミラー教授は、九州の自然環境が急速な近代化に大きく貢献したと述べます。

九州の鉱山が低い海岸地帯にあったこと、その鉱山に豊かな炭層があったことが近代化を後押ししたのだと。水に近い場所に鉱山があったことで、比較的安く、大阪や東京といった遠方まで石炭を運搬することが可能でした。もしも、日本の石炭が、内陸部にあり、採掘や運搬に手間がかかっていたら、日本の近代化はもっと遅かっただろうと考えられます。

また、日本が世界一のスピードで電化できたのも、東京の人口密度が高かったという環境と関係があります。人口密度が低ければ、人々に電気を届けるまでのコストが高くつきます。でも、人口密度が高い東京では、人々に電気を届けるまでのコストが低く抑えられたのです。

近代化した日本は、やがて第二次世界大戦を経験しますが、環境史から見れば、その本質は石油戦争となります。1941年8月にアメリカが対日石油輸出を禁止したことで、日本は同年12月に真珠湾攻撃を行いました。

トルーマンの原爆投下の正当性

第二次世界大戦は、広島と長崎に原爆が投下されたことで終わりました。

原爆投下を決定したのは、トルーマン大統領です。日本人なら、彼を原爆を投下した非人道的な大統領だと思っていることでしょう。一方で、トルーマンは、原爆投下こそが戦争を終わらせるために必要なことだと考えていました。マネジメントを専門とするサンドラ・サッチャー教授は、その根拠として以下の3つを挙げています。

  1. 功利主義
  2. 戦争は地獄
  3. スライディング・スケール


功利主義は、本土上陸作戦よりも原爆投下の方が戦争を早く終わらせることができ、結果として犠牲者が少なくなるという考え方です。原爆投下が正しいものだったとの主張で、よく聴く根拠です。

戦争は地獄は、一方的に戦争を仕掛けられた方は、選択の余地なく地獄の戦場に赴かなければならないので、勝つために何をやろうと非難されるものではないとする考え方です。日本は真珠湾を攻撃し、一方的に戦争を始めたのだから、アメリカが勝つために原爆を使ったとしても、罪はないというものです。

スライディング・スケールは、正義の度合いが高いほうが、より正しいとする考え方です。これも、先に戦争を仕掛けた日本より、アメリカの方が正義の度合いが高いので、原爆投下を正当化する根拠として使われました。

しかし、これら3つの根拠は原爆投下を正当化するものではないとする見解もあります。

戦争で最も重要なルールは、非戦闘員の保護ですが、広島と長崎への原爆投下は、非戦闘員を巻き込んだものなので肯定することはできません。原爆を投下するにしても、非戦闘員への避難勧告を行う必要がありますが、トルーマンは非戦闘員を保護するための最大限の努力をしていません。

また、過度の危害を与えることを禁止する比較性のルールにも反します。原爆投下は、危害の大小と目的への貢献度を把握しないまま投下されました。

トルーマンの原爆投下については、意思決定の過程に問題があったと考えられます。そして、トルーマンは、原爆の破壊力をよく理解していなかったようです。人種差別的な理由から原爆投下を決定したのではなく、手続きの未熟さから原爆投下が実行されたのです。


本書では、日本に長期間継続する老舗と呼ばれる企業が多いこと、日本の識字率の高さが仏教文化と関係していることなども解説されています。日本人だと意識することなく見過ごされてしまうようなことに実は日本の歴史の特徴が表れていることを知ることができます。

海外からどのように見られているのかを知ることは、自国の文化や歴史をより理解するために必要なことですね。