小学校で習う算数は、必要な知識だと多くの人が思っているでしょう。一方で、中学校で習う数学は何の役に立つのかわからないと思っている人も多いと思います。
大人になって、方程式や関数を使う場面は少なく、中学校で習った数学が社会で生かされているように感じない人も多そうです。
数学は、思考力を磨く科目のように思えても、中学校では、問題に出てくる数字を暗記した公式に当てはめて計算する単純作業のようなテストが多かったので、思考力が高まったように思えませんでした。でも、大人になってから、中学校の数学に触れてみると、中学生の時とは方程式も関数も見え方が違ってくるのが不思議です。
三角形の面積比は面積がわからなくても求められる
数学科講師として30年間、代々木ゼミナールで、多くの生徒に数学の講義を行ってきた定松勝幸さんの著書『こんなふうに教わりたかった!中学菅区教室』は、中学生、高校生、大学生、大学院生、社会人、教師と、どのような人でも、中学校の数学に興味が持てるように工夫されています。
特に社会人にとっては、中学時代の謎が時空を超えて解決されるような推理小説に触れる感覚を味わうことができます。
中学校の数学で、面積がわからない2つの三角形を見て、両者の面積比を求めさせる問題に遭遇したことがあるかと思います。
面積比を求める問題なら、2つの三角形の面積を計算すれば解決します。ところが、問題文は、どう工夫しても面積が求められないようになっています。与えられているのは、2つの三角形の底辺の比か高さの比だけ。
こんな状況でどうやって2つの三角形の面積比を求めるのだと、中学時代は悩んだものです。でも、この問題、三角形の面積を求める式をじっくりと見れば解くことができます。
三角形の面積は以下の式で求められます。
三角形の面積 = 底辺 × 高さ × 1/2
上の式の底辺と高さは三角形によって異なります。でも、一番後ろにある「1/2」は、すべての三角形の面積を求めるのに共通の数字です。
ということは、「1/2」は無視しても構わないのでは?
そう、そこに気が付けば、解答に1歩近づきます。上の式で残っているのは、「底辺」と「高さ」だけ。問題文には、2つの三角形の「底辺」か「高さ」のどちらかの比が同じであることが記されています。仮に底辺が同じだったとしましょう。すると、上の式の「底辺」と「1/2」が、2つの三角形で共通ということになります。
先ほど、「1/2」は共通だから無視しましたよね。それなら、「底辺」も共通なので無視して構わないはずです。
そうすると、2つの三角形で異なっているのは、「高さ」だけです。つまり、高さの比がわかれば、面積比が求められることになります。
例えば、底辺が同じ三角形が2つあり、一方の高さが4、もう一方の高さが2であれば、両者の面積比は2:1になります。
三角形の面積比 = 4 : 2 = 2 : 1
「なるほど!」と納得できた人もいるでしょうが、まだ、「?」となっている人もいると思います。
では、2つの三角形の底辺がともに1だったと仮定し、面積を求めてから面積比を計算してみましょう。
高さ4の三角形の面積 = 1 × 4 × 1/2 = 2
高さ2の三角形の面積 = 1 × 2 × 1/2 = 1
高さ4の三角形の面積 : 高さ2の三角形の面積 = 2 : 1
面積を求めてから面積比を計算しても、2:1になっていますよね。
共通しているものは無視して良い
2つの三角形の面積比を求める問題は、「共通しているものは無視して良い」ことを教えてくれています。
中学校の数学の授業では、「底辺が等しいときは高さの比が面積比」となり、「高さが等しいときは底辺の比が面積比」になると教わったのではないでしょうか。
これは、正しいことを言っているのですが、社会人としては、共通しているものをすべて無視していき、「最終的に残った違いに着目する」と教えてもらった方が理解しやすいと思います。
例えば、ある2つのプロジェクト案があった場合、どちらを採用した方が、より多くの利益を得られるかを会議で検討していたとします。この場合、2つのプロジェクトのどちらを採用しても必ず発生する費用は無視します。そして、それぞれのプロジェクト固有の費用を集計していき、両者の費用の差を求めます。最後に各プロジェクトから得られるであろう収益を見積り、予想される利益を計算します。
仮にプロジェクトをA案とB案とした場合、各プロジェクトの予想利益は以下の計算式で求めることになります。
A案の予想利益 = A案の見積収益 - A案固有の費用
B案の予想利益 = B案の見積収益 - B案固有の費用
そして、どちらのプロジェクトが有利かは、A案の予想利益とB案の予想利益を比較して決定します。A案の予想利益が多ければA案を採用し、B案の予想利益が多ければB案を採用します。
ただし、仮にA案を採用するとなった場合でも、最後にA案とB案に共通する費用を差し引いた後の最終利益がプラスにならなければ、A案は採用されません。
中学校で習う三角形の面積比の問題は、底辺か高さのどちらか共通している方を探し出すことが優先され、異なっているものを探すのは後回しにしました。一方、プロジェクト案の選択では、共通しているものは無視し、異なっているものを探すのが優先されます。
共通しているものを優先する場合も無視する場合も、最終的には異なるものを見つけ出すことになります。
中学校では、こんなこと全く気づきませんでした。
大人になって様々な経験をすると、中学校の数学の景色も違ったものに見えるんですね。中学時代に数学に挫折した人でも、今なら、意外と簡単に理解できるかもしれません。
数学に苦手意識がある方でも、頭の体操くらいの気持ちで『こんなふうに教わりたかった!中学数学教室』を読むことができますよ。