ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

固定相場制の方が海外旅行が便利になるんだけど

現代の通貨制度には、固定相場制と変動相場制があります。

先進国では変動相場制が採用されていますが、途上国のように固定相場制が採用されている国もあります。

固定相場制は、通貨と通貨が交換されても、為替レートが変動しない通貨制度です。1ドル=360円と決めてしまえば、円が売られても、ドルが売られても、1ドル=360円のままです。

一方、変動相場制では、円が売られれば円の価値が下がるので、ドルの価値が相対的に上がります。反対にドルが売られた場合には、円の価値が相対的に上がります。毎日のように1ドルが110円になったり、109円になったり落ち着かないのは変動相場制を採用しているからなんですね。

でも、なぜ、固定相場制ではいけないのでしょうか。変動相場制だと、海外旅行に行くときに為替相場の影響を受けて、旅費が高くなったり安くなったりして不便です。

国際金融のトリレンマ

現代の先進国が変動相場制を採用している理由は、20世紀以降の国際金融の歴史を見るとわかってきます。

一般向けに変動相場制について説明している書籍の中では、国際経済学を専門とする伊藤元重さんの著書「どうなる世界経済」がわかりやすいです。同書は、2015年に伊藤さんが行った5回の講義内容をおさめた書籍です。生徒との対話を通し、国際経済の基本的内容を解説するとともに今後の世界経済がどのように進んでいくのかが解説されています。

通貨制度を理解するためには、国際金融のトリレンマを知っておく必要があります。トリレンマは、3つのうち、2つは同時に成立しても、残る1つは成立しない、なんとももどかしい状況を意味します。

国際金融では、以下の3つは同時に成立しないとされています。

  1. 為替レートを固定する
  2. 独自の財政金融政策を実行する
  3. 自由な貿易や投資を認める


1929年の世界恐慌では、その名の通り、世界中の国々が不景気になりました。失業率はとても高くなり、各国は景気対策に乗り出します。

その時に行われたのが関税の引き上げによる輸入の制限です。海外から安い製品が国内に入って来ると、国内産業が打撃を受けます。国内産業を保護するためには、外国製品が国内で流通しないようにすれば良い。それなら、外国製品に関税をかけて、国内製品を相対的に安くしてしまえば、国内産業を保護できます。

このようなことをアメリカやヨーロッパ諸国が行いました。これをブロック経済といいます。

さらに自国の製品を海外でたくさん売るために各国は通貨の切り下げを行いました。通貨を切り下げれば、海外で自国の製品の価格が下がるので、輸出を増やしやすくなります。

しかし、関税の引き上げと通貨の引き下げを同時に行うことは、他国の利益を犠牲にして自国の利益を追求する行為となります。これを近隣窮乏化政策といいます。

そこで、第2次世界大戦後、IMF国際通貨基金)を設立し、各国が固定相場制を採用することにしました。こうすれば、各国が自由に通貨の切り下げをできなくなります。このIMFを中心とした国際通貨体制はブレトン・ウッズ体制と呼ばれ、貿易や国際投資が少なかった当初はうまく機能しました。

しかし、貿易や国際投資が活発になって来ると、為替相場を固定することに弊害が出てきます。日本はアメリカに工業製品を輸出していましたから、お客さんからドルで受け取った代金を円に交換するドル売り円買いが進みます。売られるドルの価値は相対的に安くなっていくはずですが、固定相場制では1ドル=360円のまま微動だにしません。そうすると、日本は円安を利用して、工業製品をアメリカにいくらでも輸出できてしまいます。

為替レートを固定することは、貿易に規制をかけた状況だとうまく機能するのですが、自由に貿易できる状況では適しません。だから、「為替レートを固定すること」と「自由な貿易や投資を認めること」を同時に成立させることは難しいのです。

ドル買いで為替相場を支えられるか

アメリカがベトナム戦争で疲弊し財政が悪化してくると、アメリカではインフレが進み始めます。

そうすると、実質実効レートがドル安になり、アメリカの競争力が弱くなっていきます。それなのに1ドル=360円を維持していると、日本製品アメリカ国内に入ってくるのを止めることができず、相対的に日本の競争力が増していきます。そして、日本にはドルがたくさん入って来るので、それを円に交換する動きも進み、次第に1ドル=360円から、350円、340円とドル安の方向に為替相場が動き始めます。

しかし、日本は1ドル=360円±1%で為替相場を維持しなければならないので、ドルを円に換えても、すぐに円をドルに換えてドル安を食い止めなければなりません。

すると、市場には多くの円が出回るので、日本銀行は金融緩和をしている状態になります。市場に円が出回りすぎているから引き締めようと思っても、固定相場を維持するためにドル買いをし続けなければならないので、引き締めることができません。つまり、「独自の財政金融政策を実行する」ことができないのです。

したがって、貿易の自由を認め、独自の金融政策もできるようにするためには、変動相場制を採用するしかないのです。

その後、ニクソン大統領が、これ以上固定相場制を維持するのは無理だとし、アメリカが金とドルを交換することを止めると言い出して、ブレトン・ウッズ体制は終わりを迎えました。そして、新しいスミソニアン体制では、円は、1ドル=308円に切り上がりました。しかし、スミソニアン体制も長く続かず、1973年に主要先進国は否応なしに変動相場制に移行したのです。


固定相場制を維持するためには、「独自の財政金融政策」か「自由な貿易や投資」のどちらかを捨てなければなりません。でも、どちらも捨てるわけにはいかなかったので、固定相場制を諦め、変動相場制に移行したんですね。

よくよく考えてみると、海外旅行に行くことはそうありません。反対に日々の買い物で輸入製品を購入することはよくあります。

日々の買い物を犠牲にしてまで、たまに行く海外旅行の両替の手間を省く理由はないですね。