ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

金融化した経済は社会に何をもたらすのか

金融とは、文字通りお金を融通することです。

修行して一人前の料理人になったけど、お店を出すための資金がない。そんな時には、銀行から資金を借りれば、早期にお店を持てます。借金は、毎月の売上の一部で返済すれば良いので、料理人としての腕を活かしながら生活できます。

もしも、金融がなかった場合、こうはいきません。お店を出すためには、どこかで別の仕事をして給料の一部を貯金に回し、まとまった資金ができてから独立しなければならないので、多くの時間を資金調達に費やす必要があります。金融のおかげで、多くの人が、自分の才能を早期に発揮できることは、社会にとっても有益なことです。

ところが、いつしか金融は社会の秩序を危うくする存在になりました。不景気は、金融危機が発端となることがあり、しかも、それが長期化することさえあります。

経済の金融化

経済活動において金融は従たる存在です。

しかし、金融が経済に与える影響が大きくなりすぎた現代では、「経済の金融化」が起こっており、権力の配分、収入の配分、富の配分を大きく変え、経済成長のあり方をも変質させました。

アメリカの大学で社会学部や政治学部の教授をつとめたロナルド・ドーアさんは、著書の「金融が乗っ取る世界経済」で、以下の4つの現象が金融化が段々と進んでいることを示していると述べています。

  1. 先進工業国・脱工業国の総所得において、金融に携わる人々の取り分が大きくなっている。
  2. 金融派生商品デリバティブ)などによって、家計や企業など貯蓄する主体とモノやサービスを生産する主体との間の仲介活動が、複雑、怪奇、投機的になっている。
  3. 財産権を人権の中で最も重要とみなす結果、ステークホルダー(利害関係者)よりも株主に対する企業責任者の社会的責任が絞られている。
  4. グローバル化の一環として、国際的競争力の強化が各国政府の政策の優先順位となり、国民に対して証券文化の奨励が重点化している。


金融が発達し、資金を必要としている個人や組織に資金が提供されているのなら、経済に良い影響がありそうです。個人や組織がモノやサービスを生み出すために資金を使い、消費者もその恩恵を受けられるのですから。

ところが、株式市場がイノベーションに必要な資金を供給しているかと言えば、そのようなことはなく、新規の資金調達は株式取引のわずか1%程度でしかありません。

ポール・クルーグマンは、アメリカの国内総生産に占める金融業の割合が5%から8%に高まったことについて、増加分の3%は無駄・詐欺に費やされたものだと述べています。新規の資金調達に大して貢献していない株式市場は、マネーゲームの場であり、そこには多くの無駄な取引が存在していることは容易に想像できるでしょう。

経営者の役割の変化

かつてのビジネス・スクールは、「社会に対して責任感を持つ行動が期待されている」プロフェッションの育成に力が注がれていました。

経営も立派なプロフェッションであり、医者や弁護士と同じような社会的役割を果たし、自分の知識・技術に基づく権威・権力を乱用しないような自己規制能力を持つ人材を育てることがビジネス・スクールの役割です。

しかし、経済が金融化すると、経営者は本来の役割を果たせなくなってきました。経営者は株主の期待に応えることを優先しなければクビになるので、前年以上の利益や配当を出すことに注力していくようになります。その結果、利益追求のための人員整理は気軽に行われるようになりました。

従来のM&A(企業の合併と買収)は、技術取得、ブランド取得、規模の経済、ノウハウのシナジー、市場シェアの拡大を目的に行われるのが当たり前でした。ところが、金融化の進展により、上場会社の株式を取得してから上場を廃止、そして、リストラを行って利益が出るようになったら再上場して株式を売却し、多くの利益を得るというM&Aが行われるようになっています。このようなM&Aは、富の少ないものから富の多いものへの再分配と言えます。

経営者は、もはや投資家の言いなりになるだけの存在であり、社会に対して責任感を持つ行動をできなくなったのです。

モラル・ハザード

経済が金融化した結果、金融機関が大規模化していきました。

金融機関は大規模化する過程で、トレーダーに成果報酬を与えるようになります。トレーダーは、大きな利益が出れば自分の報酬が増えるので、リスクの高い投機的な取引をしようとします。

投機的取引は、投資に失敗すれば大きな損失を出すので、トレーダー自身も大きなリスクを負うことになります。だから、トレーダーは、リスクの高すぎる取引をしないと思われがちです。

しかし、トレーダーはギャンブル的取引を行います。

あまりに大きくなり過ぎた投資銀行は、破綻すると社会に大きな影響を与えます。そのため、政府は公的資金を注入して投資銀行を救済します。このような状況では、トレーダーはハイリスク投資で失敗しても税金で救済されますから、積極的にハイリスク投資をして利益追求しようとします。

大き過ぎて潰せない状況は、トレーダーをモラル・ハザードに走らせる危険があるのです。


国の経済力の指標にGDP国内総生産)があります。GDPが伸びれば景気が良くなったことを示しますが、GDPに占める金融取引の割合が高まっているのであれば、無駄・詐欺的な取引が増加している可能性があります。

モノやサービスを生み出すために助力する金融は社会の発展に寄与しますが、将来手放して利益を得る目的で行われる金融取引は時に社会の発展を妨げる危険があるのです。