ウェブ1丁目図書館

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最終レースは人気馬を買うのが吉

競馬は、1日に12レース行われます。

11レースまで順調に馬券を当てた人は、12レースの馬券を買わずに帰宅することもあります。でも、11レースが終わった時点で損をしている人は、最終12レースで損を取り返そうと考えます。損を取り返せるチャンスがあるのなら、チャレンジしたくなるのが人の性。もちろん、これ以上傷口を広げないために12レースの馬券は買わずに帰宅する人もいます。

ところで、最終12レースにチャレンジする人は、どのような馬券を買うのが良いのでしょうか?

伝統的経済学が想定する人間像

最終12レースの馬券を買おうとする人は、合理的に物事を考えなければなりません。

そう、伝統的経済学が想定する人間のような行動をする必要があります。伝統的経済学が想定する人間像は、以下のようなものです。

  1. 計算能力が高く、情報を最大限に利用して、自分の利益を最大化するための合理的な計画を立てて実行する。
  2. 今決めたことは、時の経過と関係なく実行に移す。
  3. 利己的である。
  4. 計算能力が高い。


馬券の購入は、将来の結果を予想する行為ですから、情報収集能力や計算能力が高くなければなりません。そして、何よりも合理的に行動することが大切です。

しかし、実際に11レースまで損をしていて、12レースの馬券を購入するとなると、ほとんどの場合、合理的な思考ができなくなるものです。でも、それこそが人間らしさと言えます。

行動経済学を専門とする大竹文雄さんは、著書の「行動経済学の使い方」で、行動経済学における人間像を示しています。

  1. 人間は、意思決定の際に利得と損失を非対称に感じたり、ある事象が発生する確率をそのまま使わない。
  2. 嫌なことは先延ばししがち。
  3. 人間は利他性や互恵性も持っている。
  4. 計算能力が不十分。


行動経済学が前提する人間像は、割と我々の性格に近いものがあります。「嫌なことを先延ばししがち」というのは、当てはまる人もいれば当てはまらない人もいるかもしれませんが、「計算能力」が不十分というのは、多くの人に当てはまるでしょう。どんなに計算が得意な人でも、最終的な意思決定は直感に頼ってしまうことがあると思います。このような直感的意思決定をヒューリスティックスといいます。

低い確率を高く見積もってしまう。

馬券を的中させるためには、そのレースの全出走馬が1着になる確率を知る必要があります。しかし、そのような確率を計算するのは困難です。

過去に行われたレースのデータを収集していれば、ある程度の確率はわかるかもしれません。それでも、レースに出走する馬は毎回違うので、出走馬の力関係を把握するのは困難です。

そうは言っても、馬券を買う際は、自分なりに馬の力関係を考える必要があります。

行動経済学の研究で、人間は、客観的に見て発生確率が高い事象については確率を低く見積もって行動し、客観的に見て発生確率が低い事象については確率を高く見積もって行動する傾向があるとわかりました。例えば、客観的に見ると1%の発生確率でしかないのに10%の確率に見積もってしまうということです。

最終12レースの馬券を購入する際は、ここに注意しなければなりません。人気がない馬が勝つ確率は、自分が思っているよりもずっと低い確率のはずだと、自分自身に言い聞かせましょう。

また、確率は、言い方によっても高く感じたり低く感じたりするものです。

  1. 新型コロナウイルスの感染が広がると、最悪の場合、日本人の42万人が死亡する。
  2. 最悪の事態が発生しても、日本人の125,747,000人には命の危険はない。


「1」だと、新型コロナウイルスの感染が拡大すると、自分も死ぬのではないかと不安になりやすいです。でも、「2」だと、すぐに読めないほど多くの人が、最悪の事態になっても死ぬことはないので、大したことがないように思えます。

総務省統計局が発表している2019年10月1日現在の日本の人口は、1億2616万7千人なので、上の2つは、全く同じことを言っているにすぎません。

最悪の事態が発生すると、「日本の人口の0.33%が死亡する」と言うのも、「日本人の99.67%は命の危険がない」と言うのも全く同じです。しかし、確率の提示のされ方で、受ける印象は違いませんか。これこそが、人間が合理的に行動できない証だと言えそうです。

参照点をどこに置くか

我々人間は、何かを基準にして未来の行動を決定する癖を持っています。

例えば、転職する場合。

転職先の会社でもらう給料が、今働いている会社でもらっている給料よりも少なくなると、転職を避けたくなります。

これは別に問題ないのですが、運悪く失業した場合には、ちょっと困る場合が出てきます。失業理由は、何でも構いませんが、次の仕事を探す際、以前勤めていた会社の給料を基準にすると、多くの場合、次の職場での給料は下がってしまうので、再就職を決断できなくなります。

今現在の無収入という状態を基準に考えれば、再就職先は見つけやすくなるはずです。ところが、以前の会社でもらっていた給料が基準となると、再就職先を見つけにくくなります。

このように参照点をどこに置くかで、意思決定は違ったものとなってきます。

朝、競馬場に行った時には、財布の中に1万円入っていたとします。でも、11レースが終わった段階では、3千円しか財布に入っていません。

参照点を1万円にした場合は、最終12レースでは、的中した時に7千円以上の配当が付く馬券を買う意思決定をするはずです。

でも、3千円を参照点にすれば、的中した時の配当は掛金以上であれば良いと意思決定するはずです。100円の馬券を買って110円返って来れば、10円しか儲かりませんが、所持金は3千円よりも多くなります。


最終12レースを予想する人の多くは、参照点を競馬場に来る前に財布の中に入っていた金額にしているはずです。11レースまでに損をしていれば、損を取り返すような馬券を買うことでしょう。つまりは、最終12レースで、穴狙いをする人が多くなると考えられるのです。

穴狙いをする人が多くなれば多くなるほど、穴馬の配当は低くなっていきます。一方、実力のある馬を買う人の割合が低くなっているので、1番人気や2番人気の馬の配当は高くなっているはずです。

それなら、12レースこそ、手堅く人気馬を買った方が、得する期待値は高まります。

しかし、12レースになると、16番人気の馬が妙に強そうに見えてくるんですよね。

行動経済学の使い方 (岩波新書)

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