ウェブ1丁目図書館

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世界中の不便を解消している中国IT企業の活躍を阻むのは政治

現代の国際社会でITの先頭を走っているのは、アメリカと中国です。

これまで、世界の経済や政治をけん引してきたのはアメリカでした。しかし、ITの急速な普及により中国がアメリカに追いつき追い越そうとし、近年、両国の間でハイテク覇権を握るための競争が激化しています。

アメリカと中国のITを巡る競争は、経済的にどちらが優位に立つかという問題だけではありません。民主主義と共産主義のさらなる対立へと発展する危険性も持っているのです。

アメリカの覇権が脅かされている

アメリカと中国のハイテク覇権の争いについては、2019年にNHKスペシャルBS1スペシャルで放送されています。さらに両番組に追加取材をくわえて書き下ろされた書籍が、『米中ハイテク覇権のゆくえ』です。少々古い内容になりますが、アメリカと中国がIT分野で熾烈な争いを続けている背景を知ることができます。

アメリカが貿易戦争を仕掛け、中国の産業スパイの摘発を強化したり、中国の通信最大手「ファーウェイ」の締め付けを強化しているのは、このまま中国の技術革新が進むと、アメリカが握っている「ハイテク覇権」「金融覇権」「軍事覇権」が脅かされかねないとの危機感が背景にあるからです。

中国政府は、アメリカで働く優秀な若者に企業資金の援助、家賃や税金の優遇、都市部での戸籍を取りやすくするなどのメリットを与え帰国を促しています。この中国政府のやり方を知ったアメリカのトランプ大統領は、「中国はアメリカの人材や技術を盗んでいる」と批判しました。

これに対して中国のビジネスパーソンは、アメリカは世界中から優秀な人材を集め、これだって技術を盗んでいるに等しいのだと反論しています。現在のアメリカは、最先端技術の独占で優位な立場を維持しています。アメリカは、このままの状態を維持したいでしょうが、経済発展を成し遂げたいと思っている国々にとっては、このようなアメリカの姿勢は望ましいものとは見えないでしょう。

国家の機密が中国に漏れる危険

中国がIT分野で発展していくことは、アメリカだけでなく、ヨーロッパや日本などの民主主義国にとって大きな脅威となり得ます。

その理由は、中国国家情報法が、中国の個人と団体に国家の情報活動への協力を義務付けているからです。中国企業が構築したITのインフラを利用すると、国家の機密を中国政府に盗まれる危険があると各国政府は懸念します。

アメリカは、中国が官民挙げて国家機密を盗み出そうとしていると疑念を抱いており、それが、ファーウェイをアメリカ市場から締め出そうとする動きになっています。ファーウェイの創業者は、中国政府に情報を渡していないと述べています。それは事実なのでしょうが、中国国家情報法の存在が、ファーウェイ製品の普及に懸念を抱かせる結果となっているのです。

僕は、ファーウェイ製のルーターを使っています。日本メーカーのルーターより安いし通信も安定しています。製品そのものは非常にすばらしいです。ただ、中国のメーカーということに何となく不安を感じるのは事実です。ファーウェイに不安はないですが、中国共産党の独裁体制に世界の秩序が脅かされるのではないかとの不安は感じています。

中国のIT企業は世界中の不便を解消している

日本でも、IT企業が社会に大きな影響を与えていますが、中国のIT企業は世界から不便をなくし続けています。

その代表がアリババです。

香港には、他国から出稼ぎに来ている外国人が多くいます。その外国人は働いて稼いだお金を故郷の家族に仕送りしているのですが、従来の銀行を介した送金だと、多くの手数料と長い時間がかかります。

ところが、アリババが運営するアリペイは、スマホを介してたったの3秒で国際送金が可能です。フィリピンから香港に出稼ぎに来ている人は、アリペイを使って家族に送金しています。故郷の家族は、お金をスマホを使って受け取ることもできますし、両替所に行けば現金で受け取ることもできます。

日本だと、ATMがいたるところにあるので、現金を受け取るのに不便を感じることはありません。しかし、貧しい国では、まだ銀行もATMも十分な数がなく、海外から仕送りをしても、なかなか現金を手にできない不便さが残っています。

この状況を変えていっているのがアリババです。国際送金にはブロックチェーンの技術を使っており、東南アジアの国々では、スマホさえあれば銀行が必要ない社会になりつつあります。

中国のIT企業の活動は、洗濯機や冷蔵庫を作り、家庭内の不便さを解消していった高度成長期の日本企業と似ている面があります。貧しい暮らしをしている人々を今よりも豊かにしようとしているのですから、世界的に見れば、中国IT企業が社会に果たしている役割は大きな意義を持っています。消費者と店の間に入ってショバ代を取るような発想で、キャッシュレス決済の普及を推し進めているどこかの国のIT企業とは大違いです。


中国がハイテク覇権を握ることは、民主主義国に脅威を与える危険があります。だから、アメリカは、中国に対して強硬な姿勢を取ります。一方で、発展途上国にとっては、中国のIT企業は社会を豊かにしてくれるありがたい存在でもあります。

中国の政治的脅威がなくなれば、中国IT企業の活躍により、世界はもっと便利にもっと豊かになっていくはずです。