ウェブ1丁目図書館

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DNA修復機構と突然変異

生物は遺伝子を持っています。そして、生物にとっての遺伝物質はDNAです。

DNAは、体を作るための設計図のようなもの。もしも、設計図に間違いがあれば、生物は本来の姿形とは異なってしまいます。設計図の間違いにより病気になることもありますし、場合によっては死に至ることもあります。

しかし、DNAの複製は必ずしも正確ではなく、10万分の1の確率でエラーが発生するとされています。ヒトの細胞だと、分裂のたびに約6万の変異が起こるとされていますから、生まれてから年老いて死ぬまでにとてつもなく多くの変異を経験するはずです。

3つのDNA修復機構

「カラー図解 アメリカ版大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学」では、DNAの複製エラーがどのように修復されているのかが解説されています。生物が生命活動を維持するためには、さすがにDNAの複製エラーを放置しておくわけにはいかないので、3つのDNA修復機構が備わっています。

その3つは、校正機構、ミスマッチ修復機構、除去修復機構です。

1.校正機構

DNAは、ヌクレオチドと呼ばれる紐状の物質が2本らせん状に絡まっています。ヌクレオチドには、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)の4つの塩基が並んでいます。この4つの塩基の配列が遺伝暗号となっており、タンパク質合成のための設計図の役割を果たしています。

二重らせんは、DNAポリメラーゼによってほどかれ、ヌクレオチドの遺伝暗号が複製されます。しかし、DNAポリメラーゼが複製を失敗することがあります。この失敗を見つけ正しく修復するのが校正機構です。

校正機構は、DNAポリメラーゼが複製時に間違えたときに修復する。
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DNAポリメラーゼは、複製時に常に公正機能を働かせています。複製過程でのエラー率は1万塩基対に1対程度となり、複製全体のエラー率は10億塩基あたり1塩基にまで下がるとのこと。

2.ミスマッチ修復機構

校正機構で、複製エラー率を下げても、完璧にDNAを複製できるわけではありません。なので、校正で見逃した複製エラーを探し修復する必要があります。これがミスマッチ修復機構です。

ミスマッチ修復機構は、DNAが複製された後すぐにスキャンして誤った塩基対合(ミスマッチ)を修復する。
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DNA複製の1ヶ所に複製エラーが発見されると、ミスマッチ修復タンパク質が、その塩基と周囲の塩基を切除します。そして、DNAポリメラーゼⅠが正しい塩基を加え、複製エラーが修復されます。もしも、ミスマッチ修復が失敗すると、DNA配列は変異します。

3.除去修復機構

細胞分裂の過程で、何らかの原因でDNA分子が損傷を受けることがあります。高エネルギー放射線、化学物質、自然に起こる化学反応がDNAを傷つけることがあるのですが、この損傷に対処するのが除去修復機構です。

除去修復機構は、化学的な損傷のために生じた異常な塩基を取り除き、有効な塩基に置き換える。
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損傷を受けた塩基は、除去修復タンパク質によって、その周囲の塩基とともに切除されます。そして、DNAポリメラーゼⅠが正しい塩基を複製し、修復が完了します。


このような修復機構が生物には備わっているので、我々の体は、DNAが損傷を受けてもおかしなことにはならないのです。

突然変異は起こる

DNAの複製エラーが3つの修復機構によって修正されると言っても、それは完全ではないでしょう。生物の突然変異からも、複製エラーの修復が完ぺきとは言えないはずです。

DNA複製時のエラーは、どんな細胞でも細胞周期ごとに起こりうるし、そうした突然変異は娘細胞へと受け継がれていく。多細胞生物での突然変異には、体細胞で起こる体細胞突然変異と、配偶子を作る生殖系列細胞で起こる生殖細胞突然変異の2種類がある。
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すべての突然変異は、DNAのヌクレオチド配列の変化で、点突然変異と染色体の突然変異に分類されます。

点突然変異は、単一の塩基のみが変化した変異です。対して、染色体の突然変異は、染色体のある部分が欠落したり、重複したり、他の染色体と結合したりする大規模な遺伝子変異です。

点突然変異

点突然変異には、サイレント突然変異、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異、フレームシフト突然変異の4種類があります。

1.サイレント突然変異

遺伝暗号、A、T、G、Cは3つの組み合わせで20種類のアミノ酸を指定しています。例えば、GGCと塩基が並んでいれば、アミノ酸プロリンを指定します。タンパク質はアミノ酸の連なりですから、塩基の3つ組が正しく並んでいなければ、指定されるアミノ酸がおかしくなり、タンパク質が上手く合成できなくなります。

例えば、GGCの3つ組がGGAと突然変異したとします。この場合、指定されるアミノ酸は前者も後者もプロリンなので、できあがるタンパク質(表現型)には変化が現れません。このように遺伝暗号(塩基の3つ組)の重複のため、塩基の1個が他の塩基に置き換わっても、アミノ酸が変わらない変異をサイレント突然変異といいます。

2.ミスセンス突然変異

サイレント突然変異と同じように1個の塩基が置き換わり、アミノ酸に変化を与える変異をミスセンス突然変異と言います。

例えば、CCTと塩基が並ぶとアミノ酸アスパラギン酸が指定されますが、CCAと塩基が1個置き換わるとバリンが指定されます。このような置換が起こると、できあがるタンパク質も変わってしまいます。

ミスセンス突然変異は、タンパク質の機能を完全に失わせる場合もありますが、その機能の低下で済む場合もあります。

3.ナンセンス突然変異

ナンセンス突然変異は、1個の塩基が置き換わることで、タンパク質の合成が途中でストップしてしまう突然変異です。

塩基の3つ組には、これ以上アミノ酸をつなげていく必要はない終了を意味する終止コドンと呼ばれる3つ組もあります。ナンセンス突然変異は、塩基の配列の途中で1個の塩基が別の塩基に置き換わる点は、サイレント突然変異やミスセンス突然変異と同じですが、置き換わったことで途中に終止コドンができてしまい、以後のタンパク質合成が行われない点で異なります。

例えば、塩基配列の途中にACCの3つ組があり、これがATCと置き換わると終始コドンができてしまい、タンパク質合成が中途半端に終わります。このようなタンパク質は大抵機能を持ち合わせていないので、ナンセンス突然変異は深刻な変異です。

4.フレームシフト突然変異

フレームシフト突然変異は、塩基配列のどこかに新たに塩基が挿入されたり、塩基が欠失したりする突然変異です。塩基が1個挿入されれば、以降の3つ組が変わってしまうので、指定されるアミノ酸も以降は全く別のものになってしまいます。塩基の欠失の場合も同じです。

ナンセンス突然変異と同じく、フレームシフト突然変異も、できあがったタンパク質は大抵機能を持っていません。


このような点突然変異は、全体から見れば、それほど大きな変化ではありません。しかし、染色体の突然変異は遺伝物質に大きな変化を与えます。

染色体の突然変異には、染色体の一部の領域が除かれる欠失、相同染色体同士が異なった場所で切断され互いに相手の断片と再結合する重複、切り出されたDNA領域が逆向きに挿入される逆位、切り出されたDNAが違う染色体へと挿入される転座の4種類があります。


突然変異は、生命活動にとって危険なものです。しかし、突然変異がなければ進化もあり得ません。生物進化には、常にリスクがつきまとっているんですね。