ウェブ1丁目図書館

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非特異的生体防御と特異的生体防御で病原体から身を守る

我々人間は、常に外界からの侵入者の脅威にさらされています。その侵入者とは、細菌やウィルスといった病原体です。

これら病原体は、空気中を浮遊していたり、土の表面にいたり、水の中に生息していたりと、人間も含め多くの動物や植物の命を奪おうとしています。彼らにそのような意思はなかったとしても、体内に入って来られると不都合が生じます。

しかし、脊椎動物には、病原体から身を守るシステムが備わっていますから、そう簡単に感染症にかかることはありません。人間も含めた脊椎動物は、非特異的生体防御と特異的生体防御という2つの生体防御システムによって病原体から身を守っています。

非特異的生体防御システム

人間が持つ2つの生体防御システムについては、講談社の「カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第3巻 分子生物学」で解説されています。

2つの生体防御システムのうち、最初に働くのは非特異的生体防御です。

非特異的防御(自然防御)はさまざまな種類の病原体から生体を防御する生まれつき備わったシステムである。非特異的防御は迅速に反応することが可能であり、皮膚といった外界とのバリア、侵入者を非特異的に傷害する分子、侵入者を非特異的に取り込む貪食細胞などがある。脊椎動物無脊椎動物などほとんどの動物や植物には、この非特異的生体防御システムが存在する。
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例えば皮膚。人間の体の表面を覆っているだけのように思えますが、皮膚があることで、病原体が体内に侵入するのが難しくなります。皮膚と同じ体表バリアには、鼻毛や粘液、胃液もあります。病原体が、鼻毛の草原を抜け、粘液の攻撃をかわし、鼻や口から入って食道を通り胃にたどり着いても、そこでは高濃度の塩酸やタンパク質分解酵素が待ち受けています。そう、胃とは病原体にとって地獄なのです。

他にも、非特異的生体防御システムには、貪食細胞やインターフェロンなどの抗菌タンパク質があります。

その名の通り、非特異的生体防御システムは、侵入者を区別せずに排除する防御機構なのです。

特異的生体防御システム

病原体の中には、非特異的生体防御システムをかいくぐって体内に侵入する輩もいます。

このような場合には、特異的生体防御システムが発動して病原体をやっつけます。

特異的生体防御(適応防御)は、ある特異的な病原体のみを標的とする。この防御システムでは、例えば、血中に侵入したウィルスを認識し、結合し、破壊する抗体が用いられる。この防御システムは脊椎動物のみに存在する。このシステムの構築には時間がかかるが、いったんできあがれば、長期に維持される。
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特異的生体防御システムには、抗体を産生する液性免疫と感染細胞を除去する細胞性免疫があります。簡単に言うと、液性免疫は病原体をやっつけ、細胞性免疫は病原体に侵された細胞を破壊するということです。

特異的生体防御では、B細胞とT細胞からなるリンパ球が主要な役割を果たします。

体内に入って来た病原体(抗原)は、B細胞が産生する抗体によって目印がつけられます。B細胞には様々な種類があり、ある病原体に目印をつけたB細胞がその病原体を駆逐します。細菌やウィルスの種類は多いですが、B細胞は役割分担をして自分がやっつけられる病原体に目印をつけて攻撃します。

目印をつけたB細胞は、自己のクローンを増殖し、その中のエフェクター細胞と呼ばれる攻撃部隊が病原体を袋叩きにします。しかし、増殖したクローン全てが戦闘に参加するわけではありません。その一部はメモリー細胞として体内に保持され、次回、同一の病原体が侵入してきた時に速やかに攻撃に移れるように待機し続けます。

過去に多種類の病原体に侵入された人は、体内のメモリーB細胞のレパートリーが豊富です。最近では、免疫力を高めるために過度に清潔にするべきではないと言われます。少々不衛生な方が、適度に細菌やウィルスの侵入を許すことでメモリー細胞の種類を増やせますから、この提言には一理ありますね。

免疫記憶とワクチン

特異的生体防御システムの発動には、数日から数週間かかります。B細胞が病原体に目印をつけるのに手間取れば、感染症を発症しますし、さらに遅れれば重症化することもあります。

でも、過去に侵入を許した病原体については、メモリー細胞が覚えているので、初回よりも速やかに病原体を駆逐できます。これを免疫記憶と言います。そして、免疫記憶を利用して感染症を防ぐのがワクチンです。

ワクチンは、弱毒化あるいは無毒化した特定の病原体を意図的に体内に入れることで、メモリー細胞を作っておき、将来、同じ病原体が侵入しても感染症を発症する前や重症化する前に駆逐できる態勢を整えておくことです。防災訓練と発想は同じです。万が一、地震が起こっても防災訓練を経験しておけば、大きな被害を受けずに済む確率が高まります。同様にワクチンも、いったん病原体のやっつけ方を覚えることで特異的生体防御システムの発動が速くなります。

特異的生体防御システムの仕組みをみればわかるように、ワクチンはコンピュータウィルスの侵入を防ぐファイアウォールのようなものではありません。したがって、ワクチンを接種したと言っても、病原体が体に付着することを防がないので、自分が病原体の運び屋にならないというわけではありません。ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」を読めば、感染症が世界中に拡散した理由がよくわかります。


以前にワクチン接種を拒否する人は無人島に隔離すべきだと述べているブログがありました。このブログを書いた方は、おそらく特異的生体防御システムをご存知ないのでしょう。ワクチン接種で特定の病原体に対するメモリー細胞を体内に作っても、病原体の侵入を防ぐわけではないですし、自分が他の人に病原体をうつす危険性を低くできても完全に防ぐことはできないのです。

インフルエンザが流行する季節にワクチンを接種する方もいるでしょう。でも、ワクチンを接種したからと言って、他人にインフルエンザをうつさないわけではありません。ワクチンを接種しても、人ごみを避ける、マスクを着けるといった配慮は必要です。