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ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

道理か利益か。道鏡を即位させなかった和気清麻呂の嘘。

日本史

奈良時代の話。

この時代は女性が天皇に即位することが多く、二度天皇になった孝謙天皇称徳天皇)もまた女性でした。現代も日本には天皇陛下がいらっしゃいます。歴代の天皇は全て男系、つまり、天皇陛下のお父さんのお父さんのお父さんの・・・と、ずっと遡っていけば初代の神武天皇にたどり着きます。

これだけ長きにわたり男系を維持できているのは驚きです。しかし、過去に男系が途絶えそうになったことがあります。男系どころか、天皇家の血を全く引いていない人が即位するかもしれないという事態が、孝謙天皇の時代に起こったのです。

道鏡を寵愛した孝謙天皇

孝謙天皇は、道鏡という僧を可愛がっていました。道鏡は、孝謙天皇に気に入られたことで出世していきます。

道鏡は一体どこまで出世していくのか。孝謙天皇は、皇位道鏡に譲るつもりでいましたから、彼は天皇にまで上り詰める可能性がありました。しかし、天皇の血を引かないものが即位することに反対する人たちはたくさんいます。そこで、孝謙天皇は神のお告げによって道鏡を即位させようと考えます。

孝謙天皇道鏡を即位させるようにと夢の中で宇佐八幡の神託を受けます。そして、それが真であることを確かめるために和気清麻呂宇佐八幡宮に遣わしました。きっと、和気清麻呂は、宇佐八幡宮の巫女にその神託が本物だと聞かされたはずです。

ところが、和気清麻呂孝謙天皇神託は嘘だと真逆のことを報告し、道鏡天皇になれませんでした。


「そんなはずはない」


孝謙天皇は、そう言ったことでしょう。なぜなら、道鏡を即位させる筋書きは孝謙天皇が作ったものなのですから。当然、和気清麻呂も一俳優として孝謙天皇の描いたシナリオ通りに「神託は本物でした」と報告すると思っていたはずです。和気清麻呂の姉の法均和気広虫)は孝謙天皇に可愛がられ、そのおかげで清麻呂も出世できたのですから、よもや自分を裏切るはずはないと。

和気清麻呂神託は嘘だったと孝謙天皇に告げたことで道鏡は即位できませんでした。でも、そのおかげで男系天皇が続いているので、和気清麻呂天皇の血が絶えるのを救った大英雄とされています。

和気清麻呂の本心はどうだったのか

それにしても、なぜ、和気清麻呂神託が嘘だと孝謙天皇に報告したのでしょうか?

彼は、宇佐八幡宮に赴く前に道鏡から「うまくいったら出世させてやる」と言われていました。しかも、当時は孝謙天皇道鏡が強い権力を持っていたので、2人に刃向うのは非常に危険なことでした。その危険を冒して正義を貫いたから和気清麻呂は英雄だとなるのですが。

作家の梅原猛さんの著書「海人と天皇」の下巻を読むと、和気清麻呂は実は自らの保身という目的からも神託が嘘だと報告したのではないかと思えてきます。

和気清麻呂も、自分が神託が真実だと報告したら天皇の血が絶えることはわかっていました。しかし、孝謙天皇道鏡に刃向うと、最悪の場合、死を命じられるかもしれません。それでも、和気清麻呂が嘘の報告をしたのは、そのうち2人は権力を失うと予想していたからではないかと。

今、女帝と道鏡は孤立している。しかしこの専制君主を恐れて、群臣たちは腫れ物にさわるように女帝と道鏡に接している。群臣たちはひたすら女帝の一日も早い死を願っている。たとえ道鏡天皇になったとしても、女帝が死ねば道鏡の権力はたちまち失墜する。当時の宮廷事情をよく知る清麻呂は、こう思ったに違いない。彼は全面的に女帝・道鏡側に立つ危険を十分に心得ていたと思う。
(198ページ)

そうは言っても、今この時に孝謙天皇道鏡の怒りを買って死んでしまっては意味がありません。和気清麻呂は、嘘の報告をしても死ぬことはないだろうと思っていたのでしょう。梅原さんは和気清麻呂が嘘の報告をした理由として、彼の後ろに藤原百川がいたのではないかと推測しています。

理とともに、利でもっても、百川は清麻呂を口説いたのであろう。もし清麻呂が女帝の筋書きどおりに事を運ばなかったら、彼は命の危険にさらされる。このことを百川も十分考えて、清麻呂の命を自分と永手が全力を挙げて救うこと、さらに流罪になった場合は、その間の生活を保証することを、清麻呂と約束したのではないか。
(200ページ)

和気清麻呂の予想通り、孝謙天皇崩御した後、道鏡も権力を失います。そして、和気清麻呂は中央政界に返り咲き平安遷都に尽力しました。

和気清麻呂の嘘の報告は勇気ある行為です。しかし、何の利益もなく死の危険にさらされる行為をできるでしょうか。梅原さんの指摘するように和気清麻呂は、何らかの保険をかけていたから強大な権力に刃向えたのかもしれませんね。


現在の天皇制は象徴天皇制です。象徴天皇となったのは敗戦後に起草された日本国憲法からとされていますが、「海人と天皇」を読むと、実はそうではないのではないかと考えさせられます。

海人と天皇 下 (朝日文庫)

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