ウェブ1丁目図書館

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経営分析はビジネスのスピードを把握する道具となる

ある企業の株式を買うかどうかを決める際、何を基準にするでしょうか。

「最近、株価が上がっているから買いだ」とか、「このところ、ずっと株価が下がり続けているから、そろそろ買いだ」とか、株価を基準にする人が多いように思います。しかし、株価は、買い注文が入れば上がりますし、売り注文が入れば下がりますから、株価それ自体は企業の実力を測る指標とはなりません。

株式の価値を担保するのは、その企業の財政状態や経営成績です。どちらも株価を見ていてもわかりません。企業の財政状態や経営成績を知るためには、有価証券報告書経理の状況を見なければなりません。そして、ここに記載されている貸借対照表(財政状態計算書)や損益計算書を理解できる経営分析の力が必要になります。

経営分析の基本は決算書の理解

貸借対照表損益計算書は、決算書(財務諸表)と呼ばれます。

貸借対照表は決算日時点での、資産(財産)、負債(借金)、そして、両者の差額である純資産を記載しています。一方、損益計算書は、1年間(3ヶ月間)の売上高、費用、利益が記載されています。

これら貸借対照表損益計算書が何を意味しているのかを理解することが、経営分析の第一歩です。

慶應義塾大学ビジネス・スクール教授の太田康弘さんの著書『ビジネススクールで教える経営分析』は、経営分析の基礎を理解するのに適した内容となっています。貸借対照表損益計算書も、全く知らない人でも、読み進んでいける構成となっていますから、経営分析の初学者が最初に手に取る本としておすすめです。

貸借対照表損益計算書の大きさを比較

貸借対照表は、資産、負債、純資産を記載した決算書ですが、表の左側に資産、右側に負債と純資産が表示されています。右側の負債と純資産は、どこから資金を調達したのかを記したものです。負債は主に銀行などからの借入れ、純資産は株主からの出資と過去の利益であり、これらを元手にして経営が行われます。

そして、その元手をどのような形で運用しているのかを示したのが、貸借対照表の左側の資産です。メーカーだと、機械や工場といった長期に経営活動で使う固定資産が多くなりやすいですし、サービス業だと現金や売上債権が多くなりやすいです。

損益計算書は、顧客に商品を販売したりサービスを提供した際に受け取った代金の合計を売上高とし、その売上高を獲得するために払った費用を差し引いて、利益を計算した表です。

ビジネススクールで教える経営分析』では、貸借対照表の負債と純資産の合計(資産の合計)と損益計算書の売上高の大きさを比較するところから、経営分析の話が始まります。

例えば、ある企業の負債と純資産の合計が1,000万円、売上高が2,000万円だったとします。この企業は、1年間で2,000万円の売上高を得ていますから、単純に考えて1年間に2,000万円のお金が入ってきたことになります。これは、元手1,000万円の2倍です。

したがって、元手1,000万円を使って回収するのに半年かかったことを意味しています。売上高が1,000万円なら元手の回収に1年、売上高が500万円なら元手の回収に2年かかることになります。

このように貸借対照表の大きさ(負債と純資産の合計)と損益計算書の大きさ(売上高)を比較することは、その企業の経営のスピードを知ることになります。もちろん、元手の回収までの期間が短い方が、より効率的に資金を使っていることを意味しますから好ましいと言えます。ただし、経営のスピードは、業種によって異なるので、企業間で比較する場合は同業種の企業を選んで比較しなければなりません。

なお、元手が1年間にどれだけ回収されるかを示す指標を総資産回転率といい、それに12ヶ月をかけて出した月数を総資産回転期間といいます。

貸借対照表の右と左のどちらが重要か

経営分析を一通り理解すると、貸借対照表の右側(負債と純資産の合計)に意識が行きやすくなります。

それは、元手を調達する先を負債とするか株主からの出資にするかによって、株主資本利益率を変化させることができるからです。

株主資本は、簡単にいうと貸借対照表の純資産のことです。厳密には違うのですが、ここでは株主資本を純資産としておきます。

例えば、負債と純資産の合計が1,000万円で、1年間の営業活動により100万円の利益を獲得したとします。この場合、全ての元手に対する利益率(総資産利益率)は10%になります。


総資産利益率=100万円/1,000万円=10%


ここで、元手1,000万円の内訳が、負債500万円、純資産500万円だったとします。この場合、株主資本資本利益率は20%になります。


株主資本利益率=100万円/500万円=20%


仮に元手1,000万円の合計は変えず、負債と純資産の構成が変化した場合、株主資本利益率はどうなるでしょうか。例えば、負債800万円、純資産200万円とします。


株主資本利益率=100万円/200万円=50%


元手の合計が同じでも、負債の比率を高める(純資産の比率を下げる)ことで、株主資本利益率を上げることが可能になります。

このように元手の構成を変えることで、株主資本利益率に手を加えることができるので、経営分析を理解すると、つい貸借対照表の右側ばかりを意識してしまいます。

しかし、その企業の強みは、集めた資金をどのように運用し、利益を獲得しているかによって決まるのであり、それは、貸借対照表の左側(資産)を見なければわかりません。集めた資金を何に使うかが企業にとって重要な課題だということを忘れてはいけません。

これは、味の悪いラーメン店が、キャッシュレス決済を導入すれば客数が増えると考えるのと同じです。真っ先に努力すべきはそこではないですよね。まず、ラーメンの味を良くすることが先です。


経営分析は、株式投資をする人だけでなく、企業で働く人なら身につけておきたい知識です。自社の経営分析だけでなく、取引先の経営分析もできるようになることで、いくらまでなら掛け売りしても大丈夫かなどを判断できるようになります。

また、経営分析に興味を持ったら、簿記も勉強することをおすすめします。簿記3級程度の知識があれば、決算書をより理解できるようになります。

なお、企業の有価証券報告書(決算書)は、その企業のウェブサイトやEDINETからダウンロードできます。決算書を見ずに株を買うのはやめましょう。