ウェブ1丁目図書館

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死亡時画像診断(Ai)導入で困るのは警察でも医師でもなく製薬会社かもしれない

日本では、毎年100万人以上の方が亡くなります。

その中で原因不明の死亡、すなわち異状死は、2007年時点で15%に達すると言われていました。我々国民の側からすると、こういった異状死に対しては、死因を究明して事故か病気か、はたまた殺人事件かを明らかにして欲しいと思います。

そして、こういった期待から異状死の多くは、解剖などの手続きによって死因が解明されているのだろうと想像してしまいますが、実は、解剖が行われているのは、毎年100万人以上の死者に対して、たったの2%程度でしかありません。

これでは、警察が他殺を自殺や病死として処理するのも仕方がないでしょう。ただ、体表を見ただけで死因を判断するのですから。しかし、犯罪を野放しにしておくのは、国民にとって不本意なこと。警察は、しっかりと仕事をしろといった声も聞こえてきそうです。

死因究明に効果を発揮するのはAiだ

チームバチスタの栄光などの作品で知られる海堂尊さんは、著書の「死因不明社会」で、異状死の死因究明に死亡時画像診断を利用することを提案しています。

死亡時画像診断は、オートプシーイメージングのことでAi(エーアイ)と略されます。

Aiは、患者の死亡後にCT、MRI、超音波検査などの画像診断を行い、結果を正確な剖検につなげ、死因解明に役立てるシステムのことです。

死体を外から見ただけでは、どこに異常があるのか判断しづらいことがあります。例えば、若い男性が道端に倒れて死んでいたとしましょう。でも、外傷は見当たりません。この場合、事件なのか事故なのか病死なのか体表を見ただけでは判断できないでしょう。

現場にやって来た刑事が、長年の勘でこれは殺人事件に違いないと判断したら、死体は解剖に回されます。しかし、解剖を担当する医師にとっては、見た目に外傷がない死体を解剖するとなると、どこから手をつけて良いのかわかりませんよね。全身くまなくメスを入れて、遺体を切り刻むと、今度は遺族が精神的苦痛を受けることになります。

そこで登場するのがAiです。

外傷がない死体は、何が死因か見た目で判断するのは困難です。その死体を解剖するのも手間がかかります。でも、死体をCTやMRIで画像診断をすれば、メスを入れる前に怪しい部分を発見できる場合があります。脳に異常がみられる、胸部に異常がみられるとなれば、その部分だけを解剖すれば、それで死因を究明できるのです。

必ずしも、Aiだけで死因を究明することはできないでしょうが、解剖の前のとっかかりとして利用すれば、異状死の死因の究明に大きく貢献するはずです。

Aiを実施しなければ病死になっていたかも

ある時、心肺停止状態で病院に搬送されてきた男性がいました。男性の体にはかすり傷しかありません。

この男性は、その後、亡くなったのですが、体表に大した傷がなかったことから、その死は原因不明。なので、解剖しましょうとなるところですが、遺族や関係者が拒否すれば解剖は難しくなります。彼らの意思を無視して解剖に踏みきり、何も出てこなかったら、きっと遺族に文句を言われることでしょう。

そこで、男性が搬送された病院では、Aiが実施されました。この時のAi画像について、チームバチスタシリーズでおなじみの白鳥さんと別宮さんの会話を聞いてみましょう。

別宮 わ、肝臓が傷ついている
白鳥 素人でもわかるでしょ。所見は、肝左葉外側区挫傷、腹腔内出血、大動脈虚脱、腹腔内遊離ガス像、右背側肋骨骨折、右気胸、第一・第二腰椎の圧迫骨折などの多発性外傷性変化を認め、解剖してみると、エーアイの所見通り、肝臓がまっぷたつに断裂していた(184~186ページ)

これは、同僚が掘削機械と地面の間に被害者を挟みつけて起こった事故でした。もしもAiがなかったら、内因性急死と診断されていたかもしれません。適当に体表をみて、心筋梗塞で片づけられていた可能性が高いということですね。


全死亡者の15%が異状死で、しかも、解剖されるのは全死亡者の2%だけ。この2%がすべて異状死の解剖だったとしても、残り13%の異状死は、死因を究明されずに火葬されてしまうと思うと恐ろしくなります。

警察はAiを求めている。Aiは医師の手間も減る

警察官が、死体を見て、これは病死だと判断した後に、遺族からの強い要望でAiを実施し解剖が行われて他殺だとわかると、警察の責任問題が浮上してきます。

だから、警察にとっては、死体をAiで隅々まで調べられると困るのではないかと思ってしまいますが、「死因不明社会」の中では、実は警察の側もAiの導入を求めていると述べられていました。やはり、警察も個々の警察官の責任問題よりも、事実究明の方が重要だと認識しているのでしょう。

また、Aiの導入は医師の手間が増えると思いますが、解剖の前にCTやMRIを使って異常がありそうな死体とそうでない死体を選別するので、解剖の結果、何もなかったという疲労感だけが残る解剖が行われることも少なくなるはずです。

こういったメリットがあるのにAiの導入が進まないのは、それをされると困る人がいるのではないかと疑ってしまいますね。

製薬会社は遺体を調べられたくないのかも

Aiの導入を拒むのは、医療ミスが白日の下にさらされる危険があることから、病院や医師なのではないかと思います。

でも、医療ミスを起こす危険のある医師よりも、僕は、製薬会社の方がAiが導入されると困るのではないかと思うんですよね。

例えば、肺がんで亡くなった患者全員にAiを実施したとしましょう。その時、特定の抗がん剤を投与された患者にだけ、脳に異常が見つかったらどうなるでしょうか?

肺がんと最後まで闘って亡くなったのではなく、抗がん剤の副作用で亡くなったという事実が発見されると、これは製薬会社にとっては死活問題です。


「そう言えば、亡くなる3日ほど前から頭が痛むと苦痛を訴えていました」

なんてことを多くの遺族が口にし始めると、さらにその副作用が疑われることでしょう。


肺がんで亡くなっていたと思われていた人々が、実は抗がん剤が原因で亡くなっていたのですからね。その後にいろいろと、その製薬会社を調べていくと、論文の捏造なんかも発見され、集団訴訟に発展し、最終的には倒産ということになるかもしれません。そうなったら、その製薬会社の経営陣も刑事責任を問われます。

これは仮定の話なので、実際にはそのようなことはないのでしょうが、Aiの導入で薬の副作用が明らかになっていく可能性は十分にありますね。


海堂さんは、本書で年間100万人の遺体にAiを実施するには、年間3,000億円ほどの費用が必要になると試算しています。これくらいなら、医療費を削減すれば簡単にねん出できそうですね。

例えば、毎年1万5千人ほどの方が新たに人工透析を受けています。人工透析の一人あたりの年間費用は500万円ほどなので、合計750億円となります。今年、750億円が発生し、来年もまた750億円が追加で発生していくという連鎖を断ち切れば、年間3,000億円程度の節約はそれほど難しくないでしょう。

そのためには、将来のメタボ予備軍であるスイーツ男子の意識を変えさせなければなりませんが。でも、僕は、たったそれだけのことで人工透析を新たに受ける人が9割は減るんじゃないかと思うんですけどね。


いずれにしても、Aiの普及は、死因究明だけでなく、今後の医療の発展や医療費の削減に大きな効果を発揮してくれるはずです。