ウェブ1丁目図書館

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家族農業に経営の視点

人間は食事をしなければ生きていけないので、食料生産は全人類にとって重要な産業です。

そして、食料生産の中心となっているのは農業ですから、農業をおろそかにする国は自然災害、国際紛争が起こると、国民が食料を入手できなくなる危険性が高まります。だから、国民が食べる食料は国内でまかなうのが理想なのですが、日本では食料自給率が約40%と低く、吹けば飛ぶようなもろい社会となっています。

日本の食料自給率が低い理由はいろいろとあるでしょうが、農業が儲からないことが大きな原因かもしれません。

農業にも経営が必要

百姓の横森正樹さんは、著書の「夢の百姓」の中で、農業には経営が重要だと述べています。

横森さんは、若い頃、アメリカに農業留学し、アメリカ人と日本人の仕事の仕方の違いを知りました。日本では、終業時間を過ぎても切りの良いところまで作業を続けるのに対して、アメリカでは終業時間になると、作業が中途半端でもその時点でピタッと仕事を終えます。アメリカでは日本人の時間の感覚は通用しません。終業時間を過ぎても、切りが良いところまで作業するのは時間管理ができない者だと言われます。

その代りアメリカ人は、朝礼から今日の作業の終わりまで、30分の休憩がある以外は、ぶっ通しで作業をします。それ以外の休憩はありません。

この農業留学は、横森さんに大きな影響を与えます。

特に自分で作った農作物を直接販売することは衝撃的でした。日本では、農家が作った作物は農協に渡し、後のことはすべて農協に任せきりが当たり前だったからです。

このような日本の農業では、農家に儲けの感覚が育ちません。儲かった時のやりがい、損した時の原因究明。これらの感覚が育てば、日本の農業は家業ではなく経営に転換できます。そして、経営に転換した農業は儲かることを横森さんは実感し帰国しました。

木酢液で連作障害を克服

帰国した横森さんは、しばらくの間は別の仕事をして生計を立てていましたが、ある時期から野菜作りを始めます。

最初はうまくいっていた野菜作りでしたが、白菜作りをしていると連作障害が発生しました。化学肥料を使ったり、有機質資材で堆肥を作って畑に入れたりしましたが、連作障害が発生ます。

横森さんは、ある日、講演会を聞きに行きました。そこで紹介されていた炭と木酢が連作障害に効果があるかもしれないと思い、実際に試してみました。すると、効果はすぐに現れ連作障害は起きなくなりました。

木酢液が効果を発揮したのは、それが生の堆肥の発酵を促す発酵促進剤の役目を果たしているからでした。

横森さんは、豚糞を道路近くに野積みしていたのですが、ある日、大雨が降り道路に流れ出そうとしていました。他の農家に迷惑をかけてはいけないと思い、横森さんは泣く泣く生の豚糞を自分の畑に撒きます。生の堆肥を入れた畑では農作物が育たないというのが当たり前のように言われていましたが、横森さんの畑では、なんと農作物が育ちました。

木酢液が堆肥の発酵を促進し、土中に多くの微生物を育てることができたことがその理由です。

横森さんは、農業の原点は土づくりだと述べています。化学資材や機械を否定しないけども、土づくりや農産物が何かを見失った瞬間から農業経営は成り立たなくなるとのことです。

日本に向くのは家族農業

横森さんは、農業経営には忘れてはならない3つの前提があると言います。

  1. 農産物の値段はしばらくは上がらない。
  2. 大規模経営は日本に向かない。最終的には「家族農業」が生き残る。
  3. 「有機」「ブランド」といって高く売れる時代は終わった。これからは、「いかに安く売って儲けるか」である。


農産物の値段が上がらないのは、海外から低価格で農産物が輸入されてくることも理由ではありますが、日本の人件費が高すぎることが問題です。賃金や給料が全然上がらないと嘆いている人は多いですが、それは高度経済成長期に欧米に追い着こうと無理して人件費を急激に上げたからです。海外の農産物よりも国産の農産物の方が割高になるのは、急激に上げ過ぎた人件費が原因ですから、輸入相手国の人件費が上がってくるまでは国内で作った農産物の価格が上がることは期待できません。


大規模経営も日本の農家には不向きです。農地が狭いこと、一年中農業をできる地域が限られていることが理由です。このような地理的気候的条件では、会社形態で農業を行っても、従業員に安定した給料を支払うことは厳しいです。大規模化すれば投資も増えますから、ますます儲かりにくくなります。家族でできる規模の農業が日本では適しているのです。


最近では、有機栽培やブランド商品が高い価格で売れるようになっています。横森さんもかつては「有機野菜」と表示して販売していましたがやめています。農業の基本は土づくり。有機資源を集めて循環型農業をするのが百姓本来の姿です。つまり、有機栽培は当たり前の農業をしているという意味です。「有機野菜」と表示することは、自動車メーカーや家電メーカーが「不良品ではありません」と表示して製品を売ることと同じなのです。「高く売って利益を上げる」のではなく「安く売って利益を上げる」ことが、これから求められると横森さんは述べています。そのためには、農業にも経営が重要になってきます。


横森さんは、農業経営についてこう述べています。

農業は太陽、土、水といった自然の恩恵を受けている。そこに人間の労力が加味されて、野菜や果物、穀物や畜産物といった製品が生まれる。製品は消費者に届いてはじめて、お金という形に変わり、それが再生産のための資金になる。ということは、農業経営がきちんと回るためには、自然、労働、お金がすべて、再生産可能な形で循環しなければならない。もちろんこの三者は密接に関係している。
(中略)
その結果できる優れた農産物には合理的な値段がつくので、資金はきちんと戻ってくる。労力はかけねばならないが、何も大規模化だけが答えではなく、私は家族経営でも十分に成り立つことを実証してきた。
(237ページ)

農業は、他の産業とは異質に見えますが、経営という視点から見れば他の産業と同じだということですね。

日本では大規模農業は難しいですが、経営があれば小規模農家でも十分に利益を出せることを横森さんが教えてくれています。

夢の百姓―「正しい野菜づくり」で大儲けした男

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