ウェブ1丁目図書館

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生かされている感覚が地球環境を守る

現在、世界の国々は様々な環境問題に直面しています。温暖化、砂漠化、地下水の枯渇、動植物の絶滅など、地球規模で環境が変化していると警告する識者は多いです。そして、これら環境問題は、どうも人間の活動から惹き起こされているのではないかと考える科学者が少なくなりません。

地球規模の環境の変化にどれだけ人間の活動が影響を与えているのか、まだわからないことはありますが、とりあえず人間の努力で環境破壊を食い止めれる可能性があるのなら、何らかの取り組みを行っておいた方が良いでしょう。

人間中心主義か全体主義

人類の環境保護の取り組みのひとつに温暖化対策があります。地球温暖化は、人類が排出する二酸化炭素の量が増えすぎたことが原因で起こっていると考えられていることから、世界規模で二酸化炭素の排出量を減らしていくべきだと指摘されています。

作家の五木寛之さんは、著書の「天命」の中で、環境問題はヨーロッパ的なキリスト教的文明観では解決できず、アジア的な思想の方がこれからの環境問題には可能性があるといったことを述べています。

欧米人の考え方の伝統には人間中心主義があり、人間は神に次ぐ第一の主人公であると考えます。この世のものは、動物も植物も、水も空気も人間に奉仕するために存在するのだと。

そうした考え方のなかから生まれる環境問題の発想というのは、やはり人間中心です。つまり、われわれはあまりにも大事な資源をむちゃくちゃに使いすぎてきた。これ以上、水や空気を汚し樹を伐り自然環境を破壊すると、最終的にいちばん大事な人間の生活まで脅かすことになってしまう。だからわれわれは、もっとそうしたものを大切にしなければいけない。―これがヨーロッパ流の環境主義の根源にある発想だと思います。
あくまでも主役は人間である。その人間の生活の豊かさを保障するために、限られた自然を大切にしようという考え方です。
(212~213ページ)

多くの日本人は、この考え方に違和感を持つのではないでしょうか?結局、環境保護といっても、それは最終的に人間が搾取して得するためにやってるだけのような感じがします。

一方、アジア的な思想はどうでしょう。こちらは、すべてのものに尊い生命があるから、むやみにそれを奪ってはならないと考えます。「一寸の虫にも五分の魂」という言葉があるようにすべての生命を尊重すべきだと言われた方が、日本人は納得するように思います。

そうした考えかたから出ている環境意識とは、川にも命がある、海にも命がある、森にも命がある、人間にも命がある。だからともに命のあるもの同士として、片方が片方を搾取したり、片方が片方を酷使するというような関係は間違っているのではないか、もっと謙虚に向き合うべきではなかろうか、というものです。こういう考えかたのほうが、新しい時代の環境問題には可能性があると私は思うのです。
(213~214ページ)

二酸化炭素排出権取引に違和感を覚える人もいるはずです。排出権を売買したところで、二酸化炭素は排出されるのだから温暖化を抑止できないのではないかと。

でも、欧米的な考え方であれば、世界中で排出される二酸化炭素は今よりも減らせるのだから、人間が環境から利益を得られる期間は何もしないよりも長くなるので良しとするのでしょう。あとは、決められた排出量の中で自国の排出割合を多くするための交渉に勝てば、自国は今まで通りの二酸化炭素の排出量を維持できる。うまくいけば今以上の排出権を手に入れ、余った分は他国に売って利益を得られる。

そういう考え方を日本人は何となく良くないと思うことでしょう。

何かの一部であるという感覚

自分も何か大きなものの構成員であるという感覚がアジア的な考え方の根底にあるのでしょう。だから、二酸化炭素排出権取引に違和感を覚える日本人が少なくないのだと思います。

全員が二酸化炭素の排出量を減らすことで、地球環境を守れ、あらゆる生命を保護できるではないか。このような考え方は、人間が第一で、その他のものは人間に奉仕するために存在するという思想からは出てきにくいでしょう。

人間も地球環境の一部だと思えれば、環境破壊は自傷行為だと考えられます。


自分が世の中の一構成員と感じることで心が安らぐと、五木さんは述べています。

自分が孤立して生きている、と考えることは心細いものです。何か大きな、たしかなものの一部として自分が生きている、と感じることは、こころ安らぐところがあります。
天命にしたがう、というより、天命によって生きるという感覚でしょうか。
(141~142ページ)

生かされていると思えるから環境を大切にしようと思うのでしょう。人間中心主義からは、このような感覚にはなりにくいですね。

天命 (幻冬舎文庫)

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