ウェブ1丁目図書館

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社会が孤立すると文明は崩壊することをモアイが教えてくれている

世界には、数々の遺跡があります。

それらの遺跡の中に、高度に発達した文明を持っていながら崩壊した社会を見ることがあります。例えばマヤ文明とか。

高度な文明を持っていながら崩壊した理由には、その社会に特有の事情があったり、崩壊した社会に共通の事情があったりするはずです。

いったん崩れ出した文明が滅びていくのを食い止めるのは難しいのかもしれません。だったら、それを事前に予防する手段はないのでしょうか?

森林のないイースター島でなぜモアイを造れたのか

ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊(上)」では、太平洋に浮かぶイースター島の文明がどのように崩壊していったのかが解説されています。

イースター島と言えば、大きな石造のモアイが海岸沿いにたくさん並んでいるのをすぐに思い浮かべることでしょう。いったい、誰があのような大きな石造を造ったのか、造れたとしてもどうやって海岸線まで運んだのか、数々の疑問が思い浮かびます。

その昔、ロッヘフェーンが船でイースター島沖にやってきた時、イースター島は砂地の島に見えたそうです。荒れ果てた外観から、並はずれて痩せた不毛の地という印象しか受けなかったので、枯れた草地、牧草などが砂地に見えたのです。

そして、イースター島には、まったく樹木が見当たりませんでした。当然、森林も。

そのような島で、どうやって10メートルもあるモアイを動かすことができたのでしょうか?木材なしにこのような大きな石造を運搬するのは不可能に近いことです。そして、何より石造を造るためには、作業を組織化しなければならないのですが、18世紀から19世紀初頭のイースター島の人口はわずか2千人から3千人程度しかいませんでした。

たったこれだけの住民しかいない社会では、モアイを造ることはできないでしょう。そうすると、以前はもっと多くの人がイースター島に住んでいたはずです。

では、いったい彼らはどこに行ってしまったのでしょうか?

ヨーロッパによる搾取と虐待か

イースター島の島民たちが減少したのは、ヨーロッパによる搾取や虐待が原因だという説があります。

イースター島でも、島民たちを労働に従事させるための拉致、”いわゆる、黒人狩り(ブラック・バーディング)”が一八〇五年ごろから始まり、一八六二年から六三年に最盛期を迎えた。イースター島史上最も苦難に満ちたこの時代には、二十隻余りのペルー船がおよそ千五百人(生存者の半数)の島民を連れ去り、競売にかけて、ペルーの鉱山における鳥糞石の採掘を始め、さまざまな雑役を強制した。拉致された島民たちのほとんどは、囚われた状態のまま命を落とした。
(226ページ)

他にヨーロッパからの訪問者が、無菌状態のイースター島天然痘などの病原菌を持ち込んだことも、島民の数が減少した原因の一つだと考えられています。

このような説からは、ヨーロッパの惨忍な行為により、島が荒廃していったと思い込んでしまいます。イースター島民も研究者も、この考え方を信じているので、イースター島の文明崩壊はヨーロッパによる搾取と虐待だと広く知れ渡っています。

しかし、ジャレド・ダイアモンドは、イースター島の文明崩壊をこれが理由だとは考えていません。

島民自らによる自然破壊が文明崩壊を招いた

ジャレドは、太平洋の島々の森林破壊には以下の9つが影響していると考えています。

  1. 湿潤な島より、乾燥した島
  2. 赤道付近の温暖な島より、高緯度にある寒冷な島
  3. 新しい火山島より、古い火山島
  4. 火山灰が大気中を降下する島より、降下しない島
  5. 中央アジアの風送ダスト(黄砂)に近い島より、遠い島
  6. マカテア(珊瑚礁が地質的隆起によって海面から突き出したもの)のある島より、ない島
  7. 高い島より、低い島
  8. 近隣関係のある島より、隔絶した島
  9. 大きい島より、小さい島


イースター島の環境は、これらの条件が当てはまっているのです。

しかし、ヨーロッパからの侵略がイースター島の文明崩壊を招いたとする人々は、ロッヘフェーン以前の記録のないヨーロッパ人の訪問がもたらした何らかの侵害行為があったはずだと考えます。

また、森林破壊の原因が、干ばつやエルニーニョ現象など、自然の気候変動にあるとする説もあります。これは一理ありますが、2万年以上前からイースター島には、ヤシ、ハケケ、トロミロ、その他5種あまりの樹木が存在していたことから、イースター島の植物は何度も干ばつやエルニーニョ現象を経験して生き延びており、ある時期に同様の現象が起こって一斉に全滅したというのは不自然です。


では、どうしてイースター島から森林が消え去ったのでしょうか?

それは、イースター島民が自ら樹木を伐採し尽くしたからです。

これに対しては、自分たちにとって必要な森林が失われるのに樹木を根こそぎ伐り倒す愚かな行為を島民たちがするはずはないという反論があります。環境問題が深刻化している現代を生きている人々なら、誰もが同じ反論をすることでしょう。

わたしはよくこんなふうに自問した。最後のヤシの木を切り倒したイースター島民は、その木を切りながら何と言っただろうか、と。現代の伐採業者のように、「これは仕事なんだ。木じゃないんだ。」?あるいは、「テクノロジーが問題を解決してくれるから、心配はいらない。木に代わるものが見つかるさ」?あるいは、「もうこの島には木がないと証明されたわけじゃないんだから、もっと探してみないと。伐採を禁止するなんて早計だ。悲観論に踊らされているんだよ」?不用意に環境を損なってしまった社会については、例外なく、同じような疑問が取り沙汰される。
(232ページ)

人間は、現在自分がやっていることが愚かな行為だと気付かないのでしょう。いや、そう思いたくないのかもしれません。

他の社会との隔絶は文明崩壊の危険性を高める

ジャレドは、イースター島民は太平洋において、最も脆弱な環境の中で、最も高い森林破壊のリスクをかかえながら暮らしていたと述べています。

このような脆弱な環境下で暮らす民族が文明を維持するためには、他の社会から孤立してはならないでしょう。資源が不足してきたら、他から調達する、あるいは他の社会に逃げ出すといった選択肢を持たなかったことが、イースター島の文明が崩壊した理由のひとつではないでしょうか?

現代の日本は、他の多くの国々と貿易関係にあり、不足した物資は他国から輸入できます。また、他国で不足している物資を日本から輸出することもできます。したがって、今日明日、日本や日本と貿易関係にある国の文明が崩壊することはないでしょう。


しかし、世界規模で見た場合はどうでしょうか?

日本だけの環境悪化であれば、他国の援助や他国に逃げることで日本の文明や文化の維持は可能です。ところが、世界規模で環境の悪化が進んだ場合、現代人は昔のイースター島民と同じ道を歩むかもしれません。

先住ポリネシア人時代のイースター島は、現在の宇宙における地球のように、太平洋のなかで孤立していた。イースター島民には、窮地に陥ったときに逃げる場所もなければ助けを求める相手もいなかった。わたしたち現代の地球人にも、事態の深刻さが増したときに頼っていける先はない。
(241ページ)

誰もが、イースター島で、最後の木を伐り倒した島民を愚か者と思います。

しかし、もしも自分が世界で最後の木を伐り倒した時、それが最後の1本だとは思わなかったと言い訳をすることでしょう。

文明崩壊 上: 滅亡と存続の命運を分けるもの (草思社文庫)

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