ウェブ1丁目図書館

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悪人は悪人のまま

犯罪を描いた物語の終わりは、大体こんな感じです。

  • 犯人が最後に改心する
  • 犯人が正義の味方に成敗される
  • やむを得ない理由で悪事に手を染めた犯人に慈悲を与える


多くの場合、物語の終わりとともに悪者がいなくなるのが定番です。このような展開が、ウケが良いのでしょうね。でも、今昔物語では、悪者が最後まで悪者という話が多く、現代人の感覚からすると、そんな終わり方はありかと思ってしまいます。

結婚詐欺が成功する

作家の杉本苑子さんの著書『続々今昔物語ふぁんたじあ』には、今昔物語の中の12作品が収録されています。

その中の「穴に落ちた花嫁」は、結婚詐欺の話です。

野鍛冶の左近丞は、34歳まで結婚していませんでした。彼は、面食いだったので、美人としか結婚する気がなかったのです。だから、いつまで経っても結婚できなかったのですが、ある日、彼が理想とする女性と出会い、とんとん拍子に結婚が決まりました。

この辺りで、胡散臭いなと読んでいて思ったのですが、案の定、彼女は詐欺師でした。美人で家事もこなす申し分のない妻と信じていた左近丞でしたが、3日後には、財産を彼女とその兄に持ち去られてしまいます。

見た目で人を評価してはいけないと言いますが、左近丞は、見た目で人を評価したため、財産以上に大切なものまで失ってしまいました。

きっと、彼女は、その後も同じような手口で人々から財産を奪っていったことでしょう。

使えないお金

「板きれの謎」は、美談のような話ですが、最後に驚きの展開になります。

ある時、夫が不慮の事故で亡くなりました。夫は、息を引き取る前に妻に遺言します。


家は絶対に売ってはいけない。
5年後に陰陽師安倍晴明が村を通過するので、彼に貸した金を返してもらいなさい。


妻は、飢饉が発生し、生活が苦しくなっても夫の遺言通り家を売らずに耐え忍びます。そして、5年後に本当に安倍晴明が村にやってきたので、妻は、証文を持って貸付金を返して欲しいと安倍晴明を訪ねました。

すると、安倍晴明は、夫のことも知らなければ借金もしていないと言います。そして、妻が持参した証文を確認すると、そこには夫が生前に残したお金の隠し場所が陰陽師にしか読めない文字で記されていました。

夫は、妻のために財産を残していたのですが、これが、他人様に言えない経路で入手した砂金だったので、妻は使うに使えませんでした。

物語はここで終わります。

その後、妻はどうなったのでしょうか。砂金を使えば逮捕されますし、使わなければ貧しい暮らしを続けなければなりません。現代の小説なら、「夫が残した財産で妻の暮らしは良くなりました」で終わりそうなものですが、今昔物語の世界では、不幸な人はいつまでも不幸のままということでしょうか。

遺産を独り占め

現代でも遺産相続でもめる家があります。

今昔物語でも、遺産相続の話が出てくるので、相続でもめるのは、人間社会の宿命なのかもしれません。

「女と山伏」という話では、叔母の命が残りわずかとなった時に遺産相続の問題が発生します。

叔母には、子がいませんでしたが、甥や姪はたくさんいました。その中の葛麻呂の妻は、叔母の遺産を独り占めできないかと考えます。そんな時、山伏が妻を訪ねてきました。妻は、山伏に叔母の遺産をどうにかして手に入れられないか相談すると、山伏は妙案を思いつきました。

叔母の命は残りわずか。でも、身代わりになる者がいれば寿命が延びると、山伏は、叔母や従妹たちの前で述べます。

そこで、葛麻呂は、自分が身代わりになるから、遺産は妻に相続させるように約束して欲しいと頼み、叔母は承諾し、遺言を書きました。しかし、叔母の寿命は延びることなく、遺産は葛麻呂と妻のもとに転がり込んできました。

現代でも、このようなことが起こったら、遺言は有効なのでしょうか。富を独り占めするために嘘をつく人がいるのは、昔も今も変わらないようですね。


現代の物語の世界では、犯罪者は裁かれたり、真人間に生まれ変わったりするものですが、今昔物語の世界では、悪者は悪者のまま話が終わることが多いです。

現実世界でも、悪いことをする人は、逮捕されなければ悔い改めることはそうそうないでしょうから、今昔物語の世界の方が実際の人間社会に近いのかもしれませんね。