ドラマ、小説、漫画などの作品の中で、何か揉め事が発生する時、その原因は、金か色恋沙汰ということが多いです。
どちらも、視聴者や読者のウケが良いから、物語の中で使われるのでしょう。
金や色恋沙汰をテーマにした物語は、日本では随分と古くからあり、平安時代の今昔物語でも、よく出てきます。
財産を乗っ取ろうとして命を失う
作家の杉本苑子さんの著書「続今昔物語ふぁんたじあ」では、今昔物語の短編が16収録されています。どれも現代風の文章でアレンジされているので、古文なんて忘れたという人でも、すらすらと読めます。
本書に収録されている「犬がしらの絹」は、夫の財産を乗っ取ろうと企てた妻の話です。
夫の安麻呂には、雉女と鶴女という二人の妻がいました。その中の雉女は、李朋昌という男性と浮気をしており、やがては毒を使って夫を殺害し、財産を乗っ取ろうと考えていました。
安麻呂は、養蚕を事業としており、もう一人の妻の鶴女が、蚕の世話をしていたのですが、雉女はまず鶴女を追い出すために蚕に毒を仕込んで殺してしまいました。蚕が全滅していることを知った安麻呂は、カンカンに怒り、鶴女の世話に問題があったのだと言って、家から追い出します。
ただ1匹だけ生き残った蚕がいるのに気づいた鶴女は、その蚕を連れて実家に帰ることに。しかし、飼い犬が生き残った蚕を食べてしまいました。鶴女は、飼い犬を怒りましたが、顔をよく見ると鼻から糸が出ているのに気づきます。それを引っ張ってみると、きれいな絹の糸が延々と出てきました。
この絹糸で作った織物は、見事な仕上がりで、雉女と李朋昌は奪い取ろうとします。しかし、二人が織物を手にした途端、織物は大蛇のように首に巻き付き、二人は死んでしまいました。
蚕の恨みが織物となって二人を絞め殺したという話です。
遺産目当ての殺人
保険金や遺産目当ての殺人事件も、ドラマや小説で使われることが多いですね。
「狩人と僧」という短編は、遺産目当ての殺人事件を描いています。
ある時、狩人の兄弟が、母が鬼女になったと慌てて僧侶に報告しました。僧侶が、兄弟と母が住む家に向かうと、鬼女になった母は死んでいました。兄弟に事情を聴いたところ、鬼女になった母が襲ってきたので殺したと言います。
でも、僧侶は、母親が1ヶ月ほど前に訪ねてき、「息子たちが自分の土地を狙っている」と聞かされており、地券を母親から預かっていました。だから、僧侶は、息子たちの言っていることは嘘だとわかっていました。
兄弟たちの犯行は、すぐにばれそうなものですが、物語は意外な結末を迎えます。