ウェブ1丁目図書館

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経験することの必要性と体験を捨てることの重要性-優柔決断で進み続ける。

「ぐずぐずして決断がつかないこと」

これを優柔不断といいます。飲食店に行って、メニューを見ても、なかなか何を食べるか決まらない状況が最も身近な例でしょう。

優柔不断は、あまり良くない印象があります。でも、前半の優柔だけをとってみると、「優れた柔軟性」と解釈できると、元プロ野球選手の古田敦也さんは、著書の「『優柔決断』のすすめ」の中で語っています。古田さんは、情報収集は大切なことだと述べるとともに経験することの必要性も強調しています。

情報過多で動けなくなっている現代人

現代が情報化社会といわれるようになって、随分と長い期間が経過しています。それまでは、知ることができなかった情報が、今やテレビ、ラジオ、新聞、書籍にとどまらず、インターネットの普及で、一個人の小さな体験談までも知ることができる時代となりました。

これは、非常に素晴らしいことだと思います。ただ、あまりに情報が多すぎることがマイナスとなっていることもあります。それは、自分で経験しなくなっているということです。

飲食店で、メニューを見て、あれにしようか、これがおいしいかなと迷うことは、メニューに掲載されている料理の美味しさが事前にわからないから起こる状況です。もしも、事前に飲食店のレビューサイトを見ていれば、こういった迷いは少なくなります。レビューに、このお店のあの料理は美味しくなかったと書かれていれば、それを信じて選択肢から除外するからです。レビューを見たことで、もうその料理はおいしくないという結論が出ているんですね。食べたことがないのに。

他人の経験を活かすことは素晴らしいことだと思います。でも、何も自分で経験せずに結論を出してしまうのはどうなのでしょうか?

情報過多で頭でっかちになり、経験する大切さを知らないのです。若いのだから当然といえば当然ですが、じつはこれが最大の問題です。経験する前から頭の中で結論が出来上がっていて、それが固定観念となっている。だから「どうせ無理」「やっても意味がない」などと、挑戦したがらないのです。(9ページ)

せっかく多くの情報を吸収しても、行動しないのでは意味がありません。

柔軟に情報を吸収し決断する優柔決断

現代人は、多くの情報を吸収しています。だから使える知識が豊富なはずですが、行動する内容はワンパターンであることが多いようです。なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?その理由について、古田さんは、以下のように述べています。

いまの若者は情報過多で頭でっかちだとお話ししたばかりですが、過多といっても、「前にこれでうまく行ったから」と、一つの成功体験を得ただけで、ほかの情報はいっさい受け付けなくなってしまうことがじつは多い。これでは情報を拒絶しているのと同じです。(11~12ページ)

こういった人こそ、情報を柔軟に採り入れていくことが大切だとのこと。そして、柔軟に収集した情報を活かした決断をしっかりすること。最終的には、やってみなければわからないのですから、「やる」勇気が必要なのです。

これが、古田さんのおっしゃる優柔決断ということです。

ダメなバッターほどヤマ張りに徹する

古田さんが、ヤクルトスワローズに入団した時の監督は、野村克也さんでした。野村さんは、バッターを以下の4タイプに分類しています。

<Aタイプ> ストレートを待ちながら、変化球に対応して打つ。
<Bタイプ> アウトコースを打つか、インコースを打つか、コースにヤマを張り、どちらかにしぼりこんでで打つ。
<Cタイプ> インコースに来ようがアウトコースに来ようが右に打つというように、方向を決めて打つ。
<Dタイプ> 真っ直ぐか、カーブか、スライダーか、球種にヤマを張って打つ。
(112ページ)

上の4つのパターンだと、何となくDタイプが最も優れたバッターのような気がしませんか?

ピッチャーが投げてくる球を見抜いてヒットにするのですから、まさに勝負師といった感じがします。得点圏打率の高い勝負強いバッターなんかは、プレッシャーに強い強心臓と天性の勘を兼ね備えているので、凡人には真似ができないように思いますよね。

でも、下手くそなバッターほどDタイプを選ぶべきだということです。

ストレートを待ってカーブが来ても打てるというのは特殊な能力がなければできません。長嶋茂雄さんやイチロー選手のような人ですね。Bタイプはどうかというと、これもインコースアウトコースか、来る球を見極めるのは難しいとのこと。Cタイプのようにどんな球が来ても自分が決めた方向に打つのは至難の業なので、難しいようです。

そうなると、下手くそなバッターほど、Dタイプを選ぶべきということになります。最初は、なんか腑に落ちなかったのですが、じっくりと考えてみると、これこそが古田さんのいう優柔決断だとわかりました。

現在のプロ野球では、ピッチャーがどんな球種を持っているのか、どういうときにどの球種を投げたのかという情報を各球団で収集しています。だから、対戦するピッチャーやリードするキャッチャーの癖を分析することが可能です。

2ボール1ストライクのカウントになると、スライダーを投げることが多いというデータがあれば、それにヤマを張って待ち、後は覚悟を決めてバットを振る。

ヤマが外れたら仕方がありません。でも、何も考えずに打つよりも、安打になる確率は高くなるはずです。プロなので、どの選手も素晴らしいバッティングセンスを持っていることは間違いありません。でも、そのような人たちでも、柔軟に情報を集めて、ここぞというときは腹をくくって行動しなければ、結果を出せないのですから、一般人は、なおさら優柔決断の態度が重要なのではないでしょうか?

同じことはいつまでも通用しない

しかし、過去のデータを収集し、覚悟を決めてバットを振ってヒットを打てたとしても、同じことはいつまでも通用しません。相手もプロなのですから、打たれたバッターについて研究をしてきます。

古田さんがヤクルトスワローズに在籍していた頃、優勝争いをする相手チームは読売ジャイアンツでした。

当時は、ジャイアンツに松井秀樹秀喜さんが在籍しており、入団1年目の頃は抑えることができたのですが、松井さんが経験を積むにつれて抑えにくくなっていったそうです。

優勝するためには、松井選手のようなホームランバッターと勝負をしなければならない場面が何度も訪れます。松井さんは、引っ張ってホームランを打つことは得意でしたが、流してボールをスタンドに運ぶのは苦手でした。

だから「いままでいちばんホームランの少ない外寄りに投げれば、ホームランの確率は減るだろう」というデータがぼくの頭の中にはあった。そして困ったときほど、どうしてもそれを頼りに勝負をしてしまうんですね。
そうしたら、あるとき、もののみごとにレフトのポール際にスタンドイン。
数年前に抑えたときのデータに安易に頼ったのがまちがいなのであって、役に立たないものはさっさと捨てるべきだと痛感させられたのです。(43ページ)

人は、どうしても、過去の成功体験に頼ってしまいます。でも、野球というのは、相手があるスポーツなので、いつまでも同じ方法が通用することはありません。相手も、自分の弱点を克服するためにありとあらゆる手段を講じてくるからです。血のにじむような練習をすることもあるでしょう。

また、古田さんは、長所よりも短所を克服することが重要とも述べています。

プロ野球の世界では、相手の得意な球を打ってやろうという選手が多いそうです。だから、得意球で勝負に行ったところをガツンと打ち返されてしまうことがあります。こうならないためには、バッターに狙い球を絞らせないことが大切です。だから、苦手な球種に磨きをかけた方がいいのです。そうすれば、例えば速球が得意なピッチャーの場合、新たにフォークを加えれば、バッターは狙い球を絞りにくくなります。

足の速い選手は、さらに速力に磨きをかけて盗塁の数を増やそうと思いがちです。でも、どんなに練習してもスピードには限界があります。だから、速力だけを磨いていても、盗塁の数はそれほど増えません。それなら、苦手なバッティングを練習した方がいいのです。1本でも多くヒットを打てれば、それだけ盗塁を試みるチャンスが増えるのですから、成功する数も増やしやすくなります。

最近は、長所を伸ばすことが強調されますが、対戦相手がいるような世界では、必ずしも長所を伸ばすことが良い選択とは言えません。


柔軟に情報を収集しながら行動して経験を積む。そして、成功体験を得ても、いつまでもそれにしがみつかないこと。

これが大切なことだとは思いますが、実践するのはなかなか難しいですね。特に成功体験を捨てるのが最も難しいのではないでしょうか?

「優柔決断」のすすめ (PHP新書)

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