ウェブ1丁目図書館

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キャッシュレス社会の到来でタックス・ヘイブンへの送金が簡単にできるようになる

自分が納める税金は少ないに越したことはないと思う反面、他人が少ない税金しか納めていないのを知ると腹立たしく感じます。

稼ぎが同じくらいなのにどうして自分よりも税金が安くなるのか。

節税したのか、あるいは脱税したのか、はたまた租税回避をしたのか、いろいろと勘繰ってしまいますが、ほとんどの場合は節税でしょう。それも、手術などで医療費が高額になったとか、マイホームをローンを組んで購入したとか、納税額が少なくなる合理的な理由が存在しているはずです。

しかし、世の中には、こういった合理的な理由がないのに税金を著しく少なくしている人がいます。それも、超が付くほどの富裕層の方々です。彼らは、なぜ税金を少なくできるのでしょうか。

その答えは、タックス・ヘイブンを利用した租税回避です。

節税、脱税、租税回避の違い

金融監督庁国際担当参事官兼 FAF 日本国メンバー、特定金融情報管理官兼 FATF 日本国メンバーなどを歴任し、タックス・ヘイブンの実情に詳しい志賀櫻さんは、著書の「タックス・ヘイブン」の中で、タックス・ヘイブンの実態について述べています。

納税額を少なくする行為は、必ずしも悪ではありません。節税は合法的に認められている納税額を少なくする方法ですから、その行為が節税と認められれば、文句を言われる筋合いはありません。例えば、土地を4年保有してから売却するよりも、5年保有してから売却する方が適用される税率が低くなるので、5年経過してから売却して納税額を少なくする行為は節税に該当します。

脱税は、脱法行為によって納税額を少なくする方法です。したがって、脱税は社会的に認められない納税額を少なくする方法です。経費の水増し、売上の隠ぺいなどが脱税の具体例です。

節税なのか、脱税なのか、判断が難しい納税額を少なくする行為は租税回避と呼ばれます。租税回避は、外見は法的要件を満たしているので合法なのですが、そのやり方はちょっとずるいんじゃないかと感じる納税額を少なくする行為です。相続税を納めたくない場合、相続税がない国に居住して日本で相続税を納めなくても良いようにするのが租税回避の具体例です。法的には、相続税を納めなくても問題なさそうですが、海外に居住するだけで相続税を納めなくても良くなるのはずるい気がします。

この租税回避は、タックス・ヘイブンを利用して行われることが多いので、さらに厄介な問題となります。

タックス・ヘイブンはどこにあるのか

タックス・ヘイブンとは、そもそも何なのでしょうか。

多くの人がタックス・ヘイブンに持つイメージは、税金がない国もしくは税額が著しく安い国で、カリブ海に浮かぶ小さな島だと思います。途上国が、経済発展のために税金を安くして海外企業を誘致することは悪くなさそうですから、タックス・ヘイブンがあっても良さそうに思うかもしれません。

ところが、タックス・ヘイブンは、ケイマン諸島のようなところだけでなく、先進国の中にも存在するのです。その代表が、イギリスやスイスです。

1998年にOECD租税委員会が公表した「有害な税の競争」報告書では、タックス・ヘイブンに当たるかどうかの判断基準が4つ示されました。

  1. まったく税を課さないか、名目的な税を課すのみであること
  2. 情報交換を妨害する法制があること
  3. 透明性が欠如していること
  4. 企業などの実質的活動が行われていることを要求しないこと


この中で、特に重視されたのが2番目と3番目です。つまり、有害な税の競争で問題となるのは、租税や金融取引に関する情報が何も出てこないこと、情報の不透明性や閉鎖性だと指摘されたのです。

スイスの銀行が、情報を外部に提供しないことは有名ですが、それが犯罪組織やテロリスト集団への資金の流入を許すことになります。

また、イギリスの金融センターであるシティは、オフショア・センターと呼ばれており、タックス・ヘイブンと大差ありません。国外の取引者同士の間で行う外外取引について、特別の優遇措置を受けられるのがオフショア・センターです。イギリスのシティでは、外外取引に規制をしないので、多くのマネーが流入します。オフショア・センターを通せば、税金を安くできるというメリットもありますし、情報が漏れにくいというメリットもありますから、かつては日本企業もわざわざロンドンまで行って、新株引受権付社債ワラント債)の発行や購入をしていました。

マネー・ロンダリングに使われるタックス・ヘイブン

汚い手段で手にした資金は使いにくいものです。その資金を使って、何か買い物をすれば、犯行がばれる危険がありますから、そのままでは使い勝手が悪いです。

そこで、出所の汚いマネーを清廉潔白なマネーに換えてしまうマネー・ロンダリングを行います。

マネー・ロンダリングの最も古典的な手口は、汚い手段で手にしたマネーをタックス・ヘイブンの金融機関に持ち込んで預け、貸付を受けた形にするものです。このようなマネー・ロンダリングは、秘密を洩らさないタックス・ヘイブンだからこそやりやすいのです。

しかし、タックス・ヘイブンにどうやってマネーを持ち込むかが問題になります。現金を持って出国するとなると、税関で引っかかる危険が高くなります。海外に一度に持ち出せる現金には上限があるので、100億円や1,000億円といった巨額のマネーをタックス・ヘイブンに持ち込むためには、何回も現金を持って出国するか、多くの人に現金持たせて出国させるかしかできません。

ところが、出入国を何度も繰り返していれば見つかる危険は高くなりますし、たくさんの人を雇った場合も誰かから情報が漏れる危険もあります。そのため、現金を持って出国することには限界があります。

仮想通貨やキャッシュレス決済はマネー・ロンダリングに使われやすい

そうすると、巨額の資金を海外に送金する場合には、その回数を少なくする必要があります。

最近だと仮想通貨を使えば、簡単に海外に送金ができます。また、キャッシュレス決済が普及すれば、さらに海外への送金が楽になるでしょう。

海外プリペイドカードも送金に使えます。特殊詐欺の受け子や出し子のように多くの若者を雇って、海外プリペイドカードを持って出国させれば、多額のマネーを国外に持ち出せます。中には当局に捕まる若者もいるでしょうが、犯罪組織は彼らを使い捨てにするだけなので、黒幕が誰なのかを知ることは容易ではありません。

キャッシュレス社会の到来は、今以上に犯罪組織に多くの資金を提供する危険があることを知っておく必要があるでしょう。安全に取引をするなら、いつも必ず現金決済。もちろん、商品と交換での支払いです。

小銭を出すのが面倒だからキャッシュレス決済を利用するというのは、犯罪組織の資金集めをやりやすくすることに貢献しているのです。

キャッシュレス決済だと履歴が残るから犯罪組織を摘発しやすくなると考えるのは、情報弱者の極みです。履歴が残ったところで、いったんマネーがタックス・ヘイブンに入ってしまえば、浄化されて清らかなマネーに変わるのです。送金者は当局に捕まるかもしれませんが、やはり黒幕は捕まることはありません。

タックス・ヘイブンが消費税率を引き上げる

日本は、所得税累進課税を採用しているので、稼げば稼ぐほど多くの所得税を納めているはずです。ところが、実際はそのようなことはなく、超が付く富裕層になれば所得税の負担率が低くなります。それには、様々な節税商品を利用しているという理由がありますが、タックス・ヘイブンに所得が移転されている可能性も否定できません。

国は、所得税収が思ったほど増えないとなると、消費税などの間接税の増税で税収を確保しなければならなくなります。タックス・ヘイブンへの所得の移転が繰り返されれば、消費税は10%から20%、20%から30%に税率が上がる可能性すらあります。最も割を食うのは、正しく納税している最高税率が課された国民でしょう。


タックス・ヘイブンは、犯罪組織の資金集めに利用されます。送金が簡単になればなるほど、タックス・ヘイブンへの送金もしやすくなります。

キャッシュレス社会は、非常に危うい社会なのです。