ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

奇抜さは記憶に残りにくい

お店で商品を手に取るとき、そこには、その商品が自分にとって必要かといったこともありますが、デザインに魅かれてつい手に取ってしまったということもあると思います。

人間が作り出したモノには、何かしらデザインが施されています。手の込んだものでなくても、人を惹きつけるデザインはいくつもあり、お店でつい手に取ってしまう商品も、実はそのデザインが気になったからということがあるでしょう。

価値や魅力を表現するデザイン

グラフィックデザイナーの佐藤卓さんは、ニッカ・ピュアモルト、ロッテキシリトールガム、明治おいしい牛乳など、様々な大量生産品のデザインを担当してきました。

佐藤さんは、著書の「大量生産品のデザイン論」の中で、商品は売れなければ意味がなく、パッケージデザインは売るためのデザインだと述べています。しかし、パッケージデザインの良し悪しだけで商品を売ることはできません。商品に魅力があってこそのデザインであり、その価値や魅力がデザインによって表現されていれば、自ずと売れるはずだとのこと。

食品のデザインであれば、美しさだけでなく、思わずよだれが出そうな「シズル感」も表現しなければなりません。

また、大量生産品は、売り場でどのように並べられるかも想像する必要があります。佐藤さんは、クールミントガムのデザインのリニューアルにも関わっています。

クールミントガムは、細長いガムが数枚、四角柱の形をした紙のパッケージに入っています。従来のデザインは、天面も側面も同じでした。箱に詰めて店頭に並べたなら、お客さんの目に入るのは、天面部分だけなので、側面を違うデザインにする必要性はありません。

ところが、コンビニの棚に並べられた場合には、天面部分と側面部分が同時にお客さんの目に映ります。そうすると、天面と側面を同じデザインにするのは、非常にもったいない。そこで、佐藤さんは、側面にペンギンが並んでいるデザインを施し、天面と側面の両方でクールミントガムをアピールすることにしました。

コミュニケーションが重要

大量生産品のデザインを手掛けるためには、その商品作りに関わっている人たちとのコミュニケーションが重要となります。

ところが、美術大学でデザインの勉強をしていると、自分が何かを作り出し、自分を表現することに憧れるようになります。しかし、大量生産品のデザインを担当する場合、それを市場でどう伝えるかが大切なので、自分を表現することばかりにこだわっていると、クライアントと話が合わなくなります。

だから、「どう伝えるか」を考える場合、クライアントの話を聞くことが重要であり、コミュニケーションを通じて、どのようなデザインにすべきかを検討しなければなりません。

このようにクライアントとのコミュニケーションを通じて誕生したのが、ニッカウヰスキーのピュアモルトです。ウイスキーは、長期間熟成させるほど高価になりますが、まだつくっていないウイスキーの呼称であるピュアモルトも、十分においしいウイスキーだと知った佐藤さんは、その商品化に向けて自主プレゼンを行いました。

自分を表現するだけのデザイナーだったら、ピュアモルトのような商品を企画することは難しいでしょう。

デザインと思われていないデザイン

佐藤さんは、「デザイナーがその存在感を消し、無名性のデザインを為すこと」が目指すべき方向だと考えています。つまり、デザインと思われていないデザインこそが理想的だと。

明治おいしい牛乳のデザインを手がけたことを知人に話した佐藤さんは、「あれのどこがデザインなんですか?」と聞き返されたそうです。白色に少しばかり青色が混ざっている明治おいしい牛乳の箱は、とてもシンプルです。確かにあれをデザインというのかと思う部分もありますが、それこそが佐藤さんの狙いだったのです。

明治おいしい牛乳の箱は、どこにでもありそうな牛乳の箱に思えます。でも、それは、「牛乳ってこんな感じだな」と誰もが思うようなデザインです。すなわち、明治おいしい牛乳の箱は、誰もが持つ牛乳のイメージとぴったり合っていて、無意識のうちに「牛乳=明治おいしい牛乳」と連想するようになっているのです。

佐藤さんは、このようなデザインを「デザインが消える瞬間」と述べており、「オリジナリティが高ければ高いほど、市場からの風化も早く訪れかねない」とも述べています。

長い時間を生き続けてきたデザインの代表と言えば、カルピスです。

水玉模様のTシャツを着ていようものなら、「今日の君は、カルピスみたいだね」と言われかねません。カルピスの水玉模様は、特にオリジナリティが高いデザインではないですが、それこそが理想的なデザインの代表なのでしょう。


自分を表現することを意識することは斬新さにつながります。しかし、斬新であればあるほど、廃れるのが早いのかもしれません。人々の記憶に残るためには、奇抜なことをしなければならないと思いがちですが、明治おいしい牛乳やカルピスのデザインを見ていると、そうではないことがわかりますね。