ウェブ1丁目図書館

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論理的に伝えるためには数学的に思考する

昼食時に街を歩いていて、行列ができているラーメン店を見つけると、どれくらい儲かっているのかなと、つい考えてしまう人は多いのではないでしょうか。

でも、金額にして1日にどれだけの売上がありそうかを計算する人は少ないはずです。なんとなく、1日に100万円は売上があるんだろうなと考える程度でしょう。

店の前に出ているメニュー、外から見えるテーブルやイスの数、行列の人数をざっくりと把握すれば、ランチタイムの売上くらいなら、それなりに計算できるのですが、そこまでする人はあまりいないと思います。

別に通りかかったラーメン店の売上がいくらかがわからなくても日常生活で困ることはありません。でも、何気なく目にした景色から、数量をざっくりと計算できる力は、仕事や買い物で役立つことが多いものです。

素早く概算してみる

買い物をする前、目的の品物がいくらするか正確にわからなくても、ざっくりと金額を知りたいことはよくあるはずです。

急にテレビが故障して買い替えなければならなくなったとしましょう。新品のテレビがいくらするのか、電気店に電話して問い合わせたところ、「大きさやメーカーによって値段は違います」と言われても困りますよね。

「売れ筋の32型の液晶テレビだと5万円くらいです」と、ざっくりと値段を教えてくれた方が、これからテレビを買おうと思っている人には役立つはずです。

ビジネス数学の専門家の深沢真太郎さんは、このような場面では、正確な計算よりも素早くざっくり概算することが望ましいといったことを著書の「数学的コミュニケーション入門」で述べています。

テレビが故障して電話したお客さんは、テレビの購入に必要な予算を早く知りたいと思っているでしょうから、このような場合には、メーカーごとにカタログを用意して来店を促すよりも、電話で「5万円くらいです」と伝える方がお客さんは助かるはずです。

このようにざっくりと数字を知りたい場面は、日常的によく訪れます。人に聞いてわかるのなら良いのですが、誰も知らない場合には、自分でざっくりと計算できるようにしておいた方が何かと便利です。

298円で40グラム×4パックのハムと258円で36グラム×4パックのハムなら、どちらが得かといった小さな悩みも、概算できればすぐに解消できます。この場合だと、36グラムは40グラムよりも10%少ないのだから、値段が10%以上安い36グラムの方が得だと計算できます。わざわざ1グラム当たりの値段を計算する必要はないですね。

深沢さんは、ざっくり概算するコツは、掛け算を使うことだと述べています。上のハムの例でも、298円に0.9を掛けて268円と計算し、258円と比較すれば、どちらが安いかわかります。ざっくり計算するなら、298円という正確な値段ではなく300円と丸めた金額に0.9を掛けて270円と計算しても、同じように258円のハムが得と結論を出せます。

定義と比較

「数学的コミュニケーション入門」というタイトルの通り、本書は数学的な思考を用いて物事を伝達する方法が紹介されています。

「数学的」と聞くと、何か複雑な数式を使わなければならないのかと思うでしょうが、そのようなことはありません。数学的な思考で大切なのは、以下の2つです。

  1. 定義する
  2. 比べる


整数という言葉を使って物事を説明するのなら、最初に整数という言葉の定義を示しておかなければ、相手に話をしても伝わりません。最近では、ソーシャル・ディスタンスなど英語を使った言葉がよく使われますが、ソーシャル・ディスタンスがどのようなものかを定義していなければ相手に話が伝わりません。

「ウイルス感染を防ぐために人との間隔を2メートル空けること」をソーシャル・ディスタンスと定義しておくから、その後の会話で、ソーシャル・ディスタンスを使えるのであり、全く説明がなければ相手に意味が伝わりません。

比べることは、数字に大小があるから可能になります。重さ、高さ、長さ、値段の大小関係は数字で比較した方がわかりやすいですよね。

グラフを使えば一目瞭然

数学的思考の補助として役立つのがグラフです。

数字は、大小関係の比較に役立ちます。しかし、2つのうちどちらが大きいかの比較は、数字を見ればすぐにわかりますが、20個も30個も数字が並んでいると、すぐに大小関係を把握するのは困難です。

47都道府県に1つずつ支店を持っている会社が、1年間の支店ごとの月別売上高の表を作成すると、そこには564もの金額が縦横に並びます。さすがに564もの金額の大小関係を一瞬で把握するのは不可能でしょう。

でも、グラフを使えば、どの支店の何月の売上が最も多いかを素早く視覚的に捉えることが可能です。また、グラフは異常値を見つけるのにも役立ちます。

使うグラフの種類は、棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフが基本です。

大小比較なら棒グラフ、推移を見るなら折れ線グラフ、比率や割合を知りたいなら円グラフが適しています。これらのグラフは、パソコンの表計算ソフトを使えば、クリック一発で作成できます。本書では、エクセルを使った初歩的なグラフの作成方法も解説されているので、グラフを作ったことがない方は参考にすると良いでしょう。

グラフの特徴は、大小比較が一目瞭然であることです。自分の理解だけでなく、相手にわかりやすく物事を説明するためにもグラフは便利です。グラフには、散布図、バブルチャート、レーダーチャートといったものもあるので、わかりやすい資料作成のためにこれらの特徴も抑えておくと良いですね。


グラフは、とても便利ですが、それを作ることで自己満足してはいけません。グラフを多用して数十枚の資料を作るより、概要をまとめた数枚の資料の方が、相手に伝わりやすいものです。また、伝える相手によっては、グラフではなく数字だけでも構わない場合があります。

深沢さんは、仕事をしたように見せかけるアリバイ作りのためにグラフを利用すべきではないと述べています。グラフは、相手が理解しやすくするためにあるのです。

そもそも相手はあなたの話を聞きたいとは思っていないという大前提を忘れないこと。(200ページ)

聞き手にとっては、有名人でもない限り、話し手は誰だって良いのです。プレゼンでもセミナーでも、聞き手は、その内容を知りたいし理解したいと思っているのですから、話し手は、聞き手の理解を深めるように努めることが大切です。

相手にわかりやすく伝える道具として、数学的思考ができるようにしておきたいですね。お店に入った時には、1日に売上がどれくらいか、概算するところからトレーニングしてはいかがでしょうか。