「神様とは、私たちがもっている能力を最大限に引き出してくれる存在である」
こう述べているのは、「知っておきたい日本の神様」の著者の武光誠さん。
日本で神様に願い事をする場所は神社ですが、闇雲に神社を訪れてお参りをしても、叶えて欲しい願い事を聞いてくれるとは限りません。なぜなら、神社に祀られている神様には得意分野があるからです。だから、自分が叶えて欲しい願い事にあった神社を選んでお参りする必要があります。
商売繁盛なら稲荷神社
全国に2万社あるといわれている稲荷神社は、商売繁盛のご利益を授けてくれます。稲荷神社に祀られている神様は、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)です。
宇迦之御魂は、稲に宿る精霊を指す言葉です。この稲に宿る神様が、人間に食物を与えてくれると信仰されているのです。これが、やがて五穀豊穣をもたらす神様とされます。
もともとは農耕神として崇められていた稲荷神でしたが、室町時代になると商人が勢力を拡大するようになると、稲荷神が本来の農耕神としての性格の他に商売繁盛の神としての性格を持つようになりました。
さらに江戸時代になると、稲荷信仰をもつ商人が何人も成功者となったことから、江戸の庶民も稲荷神を祀るようになったそうです。
商売繁盛や仕事がうまくいくようにという願い事がある人は、稲荷神社に参拝すると良いということですね。
家運隆盛なら八幡神社
稲荷神社と同じくらい数が多いといわれているのが八幡神社です。八幡信仰は九州の宇佐八幡から全国各地に広まっていきました。
昔は、瀬戸内海や大陸に向かう航路の中継地点として宇佐は重んじられてきました。その宇佐に勢力を持っていたのが宇佐氏です。宇佐氏は、自分たちの祖先神を海神として祀っており、それがやがて八幡(やわた)の神と呼ばれるようになりました。
八幡というのは、船にたくさんの大漁旗が掲げられた景色をあらわす言葉だったそうです。
4世紀になると朝廷は宇佐氏の力を借りて九州の支配に成功します。そのため、皇室も八幡神に対する崇敬が篤くなったということです。現在では、八幡神は応神天皇とされていますが、これは6世紀に宇佐八幡の神職に「われは応神天皇である」という宇佐神のお告げがあったことが由来とされています。
時代が下ると、八幡神は源氏に崇敬されるようになります。特に源頼朝が幕府を開いて以降は、全国の武士たちにも信仰されるようになり、やがて、国家鎮護や家運隆盛の神様として崇められるようになりました。
なので、家運隆盛のご利益を授かりたいなら八幡神社にお参りするのが良いでしょう。
合格祈願は天神社へ
毎年受験シーズンになると、多くの受験生が神社に合格祈願に訪れます。志望校に合格するためには、学問の神様を祀っている天神社にお参りすると良いでしょう。
天神社に祀られているのは菅原道真です。菅原道真は秀才で知られる平安時代の人物です。彼は、その才能を活かして朝廷で働いていましたが、藤原氏の嫉妬により、九州の大宰府に左遷されてしまいます。
その後、菅原道真は九州で亡くなり、その怨霊が都で天変地異を起こしました。
これを鎮めようと思った都の人々は、菅原道真の怨霊を天満宮に祀ることにします。こうしてできたのが、京都の北野天満宮です。
その後、地方にあった嵐や雷の神を祀っていた神社が、次々と北野社の保護下に入り天神社となっていき、全国的に天神信仰が広がっていったそうです。さらに江戸時代に朱子学が盛んになると、高名な朱子学者が何人も天神信仰をもつようになったことから、天神が学業成就の神様となり、さらに現代では受験の神様として崇められるようになりました。
「知っておきたい日本の神様」では、他にもさまざまな日本の神様が紹介されています。自分が叶えたい願い事がある場合は、それにあった神様を祀っている神社に参拝すると良いでしょう。
なお、冒頭で著者の武光さんの言葉を引用しましたが、これには続きがあります。
人間は神社に参拝して、願いごとを唱えることによって、その願望を実現するための努力をはじめるのである。(12ページ)
ただ、神社に行って、願い事が叶いますようにと参拝すれば願望が実現するわけではありません。神社にお参りをする行為というのは、自分が目標に向かって一生懸命努力することを誓う行為なのです。