僕の家には、忘れた頃に不動産屋から電話がかかってきます。
受話器に耳を傾けた時、相手の第一声で「またか」とうんざりするんですよね。その内容は、「白兎さんに紹介したい新宿一等地のワンルームマンションがあります。借手もすでにいるので、白兎さんは、ローンの手続きだけで、すぐに家賃収入を受け取れますよ」というもの。
そして、「不動産投資をすると、所得税が戻ってくるのでお得ですよ」なんてことを言ってきます。そもそも、所得税が戻ってくるということは、その不動産投資で損をしているからなんですよね。「その手には引っかかりませんよ」と思いながら、話の途中でブチっと電話を切るのがいつものパターン。
専業主婦の鈴木ゆり子さんも、不動産投資を始めた当初は、契約や物件の管理を他人に任せっぱなしにして大損したことがあるとのこと。その苦い経験を活かし、自分で物件を管理する大家業に変えたところ、利回り32%、年収1億円の大家さんに大変身しました。
中卒で仕事がないから始めた不動産投資
鈴木さんは、著書の「専業主婦が年収1億のカリスマ大家さんに変わる方法」で、不動産投資を始めたきっかけを中卒で仕事がなかったからだと述べています。
1998年にお子さんが大学を卒業し、手が空いたので、働きに出ようと思ったのですが、ハローワークで中卒だと仕事がないかもしれないと言われます。そこで、仕事がないなら自分で仕事をはじめようと不動産投資をすることにしました。
鈴木さんは、もともとアパートを保有しており、家賃収入があったのですが、本格的には大家業をしていなかったそうです。なので、本格的に不動産投資を始めたのは、この時が初めてということになります。
同じ不動産屋に3回も騙される
鈴木さんは、2000年10月に知人の紹介でアパートを買いました。そして、ある不動産屋にアパートの仲介を頼むと、すぐに数名のお客さんをつけてくれました。
それが縁となり、その不動産屋に「もう少しアパートを買いたいと思っている」と話すと、後日、本店の幹部クラスの男性にある物件を紹介されました。その物件はアパート2棟。築12年で2DKの部屋が12室と10室です。
12室の方は空きはなかったのですが、10室の方は7室が空室状態。「空いている部屋もすぐに埋まりますよ」なんて言われながら、空室のうちの2室を確認すると、特に問題はありません。なので、鈴木さんは、そのアパートの購入を決めました。
ところが、そのアパートは実は欠陥だらけ。見学した2室だけがまともな状態で、ドアを開けると目の前に便器がゴロンと転がっている部屋、猫が爪を研いだと思われるボロボロの柱など、見学しなかった残りの5室は、どれも欠陥だらけ。
さらに入居者がいた部屋も次から次に解約されていきます。購入前は、派遣会社が定期借家契約をしていたので、契約満了まで家賃収入が保証されている状態だったのですが、鈴木さんが購入する時に普通借家契約に変更されていたため、解約が発生したのです。
そう、鈴木さんは、不動産屋にだまされたのです。
その後も、同じ不動産屋から2度欠陥物件を買わされることになり、鈴木さんは大きな損をしました。そして、その時に鈴木さんは、「不動産取引で一番いけないのは、不動産業者に丸投げすること」ということに気づきました。これまでの3度の失敗は、いずれも、不動産屋の言うとおりに各種の手続きを任せていたことが原因だったのです。
週末に泊まり込みでリフォーム
最初に購入した欠陥アパートは、便器については不動産屋に修繕費用を出してもらいましたが、それ以外は、自費でのリフォームとなりました。
通常なら、工務店にリフォームを依頼することになるのですが、リフォームは大家業にとって大きな出費です。なので、鈴木さんは、ご主人と一緒に週末に自分たちでリフォームすることにしました。これは、不動産業者に丸投げしないという教訓からの決断です。
工務店にリフォームを依頼したら、結構な費用がかかります。業者任せにしたらさらに高くなります。不動産業者は取引のある内装業者に依頼し、業者は「言い値」で工事をし、それを支払うのはオーナーというケースもあります。(58ページ)
鈴木さんのリフォームは、「お泊りリフォーム」です。つまり、週末にアパートの空き部屋に泊まり込んで、不具合がある箇所を自分たちで修繕していくということです。
このお泊りリフォームは、鈴木さんに様々なことを教えてくれました。
- 寝ていると隣の部屋を誰かが歩くたびに震動が気になる
- 2階でお手洗いを使うと流れる水の音が気になる
- 夜遅くに帰宅する人や朝早くに仕事に出かけていく人がいること
こういった情報を知っていると、入居者から苦情が来た時に対処法を教えることができます。トイレの音がうるさいという苦情には押入れを閉めておくと良いこと、頭を窓側に向けて寝ると音があまり気にならないことなど、実際に住んでみないと気づかないことがありました。
少しずつの気持ちが大事
とは言え、欠陥だらけのアパートを素人が、全て修繕するのは大変なことです。
鈴木さんも、ボロアパート全体を見ると、修繕なんて無理と思ったそうです。それでも、少しずつ直しているうちに気付いたことがあります。
修繕すべき箇所一つひとつに注目して、それを少しずつ直していこうと思うと、日曜大工でもできるのです。ペンキのはがれたところを塗り直す、壊れたドアノブを取り替えるなどの作業は、誰でも日曜大工でやるでしょう。これを積み重ねていくと、家一軒のリフォームもできるのです。
「ここが悪いからここだけ直そう」
「次はこっちが壊れたからここだけ直そう」
そうやって直していったら、やがては一軒になるのです。(62ページ)
これは、どんなことにでも言えるのではないでしょうか?
全体を見ると、手のつけようがないと思えることでも、細部をじっくりと見れば、自分でもなんとかできることって、たくさんあると思います。例えば、料理をしたことがない人が、ラーメンを全て手作りしようとするのは困難です。でも、お湯くらいなら誰でも沸かせるので、麺を買えば、茹でることはできます。そうすると、白菜やネギも茹でることはできますよね。ただ、スープを作るのは素人では難しいので、買ってくるしかありません。
今までなら、ラーメンは外食しか選択肢がなかったのが、麺と野菜を茹でるだけで自宅で食べれるようになることを思うと、小さなことだけでも自分ですることで、視野が広がっていくんですね。そして、そういった経験を少しずつ重ねていけば、そのうち、ラーメンを手作りすることも可能です。
ただ、鈴木さんは、どうしても手におえないことは、専門家に頼むようにしているそうです。
建物はいつかは朽ちる
このように鈴木さんは、購入した物件をできるだけ自分でリフォームすることで費用を抑えました。それにより、年収は1億円、利回り32%という普通の不動産投資では考えられない高収益を生み出すことに成功しました。
鈴木さんは、自分がリフォームした物件は、自分の子供のようにかわいいと述べています。
でも、鈴木さんは、そんな我が子のようにかわいい物件を売却するとのこと。不動産の師匠から言われた次の言葉が、その理由です。
私は不動産の師匠から、
「不動産はいつか売らなくてはいけない。ババをつかんではいけない」
「アパートにしろ、一戸建てにしろ、いつかは必ず朽ちる。そのことを肝に銘じなさい」
と言われ続けました。
いまある物件も、古い順番に売っていこうと思っています。(201ページ)
所有している物件の売却時期を判断するのは難しいと思います。
でも、鈴木さんのように自らリフォームをしているオーナーなら、その時期を見極めることが可能なのでしょう。しかし、不動産投資を業者任せにしている場合には、売却時期を逃してしまう危険性が高そうです。不動産投資をしている人の中には、入居者と会ったことがないという人も多いでしょうし、それどころか所有している物件を見たことがないという人もいるのではないでしょうか?
きっと、そういう人が、ある時、自宅にかかってきた不動産業者の口車に乗ってババを引いてしまうのでしょう。
自分の目で確認し、自分でできることは自分でする。
投資だけでなく、仕事や私生活でも、こういった意識を持つことで、不測の事態を回避できるのではないでしょうか?
- 作者:鈴木 ゆり子
- 発売日: 2007/08/31
- メディア: 単行本