ウェブ1丁目図書館

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産業革命と戦争の大規模化

現在の資本主義社会は、18世紀後半のイギリスで起こった産業革命から発展しました。

産業革命以降、仕事の機械化が進み、これまでとは違った働き方が広がっていきました。今日の社会の発展も、産業革命がなければあり得なかったでしょう。

一方で、産業革命以降の社会は、世界規模での争いも多くなりました。産業革命は、人々を豊かにしたはずなのに不思議です。

産業革命の要因

文藝春秋編「世界史の新常識」では、古代から近現代まで、複数の著者のコラムがまとめられています。産業革命についての記述も端的でわかりやすいです。

従来は、産業革命の要因を以下のように説明していました。

近代初期のイギリスでは、旧来のギルド制にしばられない問屋制や工場制手工業が発達し、大量の資本が蓄積されていた。また、大地主が効率的な大規模農場を営むべく、囲い込みを行ったため、多くの農民が土地を失い、豊富な労働力として潜在していた。十七世紀以来、自然科学と技術が進歩していた。石炭や鉄といった資源にも恵まれていた。こうした諸条件が結びついて、十八世紀後半のイギリスに産業革命をもたらしたのだ(168ページ)

ところが、近年、主流経済学において、所有権など制度やルールの安定性を確保することが経済成長にとって重要だとの理論が流行すると、歴史解釈に影響を与えました。産業革命の解釈にも、この理論が影響を与え、「市場のルールを整備し、国家による裁量的な介入を排除すれば、経済的な繁栄が約束される」とする経済自由主義産業革命の要因だと考えられるようになっています。

しかし、この考え方も、名誉革命以後にイギリスの資本コストが下がっていないことから否定されつつあります。

戦費調達の重要性

パトリック・オブライエンは、産業革命の要因を近代初期のイギリスを巡る地政学的・軍事的な状況にあると考えます。

17~19世紀初頭のヨーロッパでは、大国間の覇権争いが繰り広げられ不安定な状況にありました。そのため、各国は度重なる戦争遂行のため、税、負債、信用によって戦費を調達する必要に迫られていました。

そこでイギリスが選んだのは、財政軍事国家の道でした。

まず、イギリスでは金融革命が先行して産業革命が準備されました。1694年に創設されたイングランド銀行は、対仏戦争の戦費を調達しなければならない政府に120万ポンドを8%の金利で貸し付ける代わりに資本金の範囲内で銀行券を発行する権利を得ます。これによりイングランド銀行を頂点に信用貨幣による全国的な支払決済システムが構築されました。

次に相次ぐ戦争によって膨張した軍事需要が工業化の触媒になります。軍による画一的な軍服の調達は繊維産業を発達させました。製鉄と石炭は、特に軍事的戦略的に重要な産業であり、イギリスは製鉄業に対して特別な許認可を与えこれを振興しました。

さらにイギリスは、財政機構が可能にした強大な海軍力によって、海外の市場や植民地を獲得し、そこからも資金を調達できるようになりました。

産業革命には、このような背景があったんですね。

産業革命からアヘン戦争

19世紀半ばにイギリスと清国との間で起こったアヘン戦争は、イギリスの産業革命自由貿易の進展と関係があります。

アヘン戦争は、イギリスが清国にアヘンを売りつけ、怒った清国がイギリスと戦端を開いたとされています。アヘンは戦争の直接の要因ですが、その背景にはイギリスの産業革命自由貿易の進展がありました。

自由貿易をすすめたいイギリスとしては、清国にも同じように自由貿易を奨励して欲しいと考えていました。イギリスは、清国を征服し支配するよりも、清国が自由貿易を奨励するように要求して関与する立場を選びます。

アヘン戦争後も、イギリスは清国の貿易と近代化に寄与し、清国は軍事面での近代化に着手し始めました。

一方で、日本、フランス、ロシアは、清国の周辺環境をかきみだし、やがて、清国は滅びることになります。

現代の中国が、イギリスにアヘン戦争に関して文句を言わないのは、その前後にイギリスが清国の近代化に寄与した事実があります。


産業革命の背景にあったものはなんだったのか。

その解釈は、時代によって変わっています。今後も、新たな解釈が誕生するかもしれません。

産業の発展には、どこかに需要がなければなりません。イギリスで製鉄産業が発達した背景には戦争があり、武器の需要が高まっていたと考えられます。産業革命は、資本主義を発展させましたが、戦争を大規模化しことも忘れてはなりません。

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