最近、少しずつ景気が上向いています。景気が良くなれば給料が増えて嬉しいですし、雇用が安定するので将来に対する不安も軽減されます。
国や自治体にとっては、税収が増えるので行政サービスの質を高めることができます。そうすると、住みやすい社会となるので、納税した国民にとっても良いことですよね。
ところで、景気が良いとはどういうことでしょうか?
これについては、消費が増えることと答える人が多いと思いますが、では、自分がたくさんお金を使ったらどうなるでしょうか?当たり前ですが、貯金が減りますよね。自分のお金が減っているのに景気が良くなるというのは変ではないでしょうか。
好景気はお金が回ること
明治大学の教授の野田稔さんは、「『景気が悪い』とは、おカネが回らない状態のこと」と著書の「ポン!とわかる日本経済」の中で述べています。
これは、好景気とはお金が回っている状態と言い換えることができます。消費が増えるということとは、どうも意味合いが違っていますよね。
景気を良くするんだと言って、大型テレビを購入するだけでは、一時的に消費が増えるだけなので、景気が良くなったとは言えないでしょう。景気が良いと言えるためには、使ったお金が再び自分の財布の中に戻って来なければいけません。それも、できるだけ早く。
野田さんは、経済の仕組みをサッカーに例えています。あるサッカーチームは、調子の良いときは、パスがよく回りますが、調子が悪いときはパスが回りません。このサッカーのパスをお金と読み替えると、景気が良いとか悪いの意味が、とてもわかりやすくなるんですよね。
たとえば「パス1回が10万円」としますね。1本パスをもらったら10万円もらったと考え、反対に1本パスを出したら、10万円使ったことにするわけです。
あるプレーヤーが1試合で100本パスをもらい、100本パスを出したとしたら、その人は1000万円稼いで1000万円使った計算になります。
1試合で1本しかパスがもらえなかったら、その人は10万円しか稼ぎがなく、10万円しか使っていないわけです。
景気もこれと似ています。(29ページ)
大型テレビを1回購入しただけでは、景気が良くならないというのは、こういうことです。使ったお金が、再び自分の懐に入って来なければ、次の消費活動ができません。だから、お金を使ってもすぐにそれが財布の中に戻って来れば、短期間に何度も買い物できます。でも、使ったお金が再び財布に戻ってくるのに長期間を要する場合、お金を待っている間は消費活動を行えません。
だから、好景気とは、単発的な消費活動ではなく、何度も何度も消費活動を繰り返すことであり、しかも、それを繰り返すために何度も何度もお金が入ってくる状態であると言えます。
銀行が貸し出しをすればするほどお金が増える
景気が良くなるためには、サッカーに例えるとパスがよく通る状態を作り出すこと、つまり、お金が回る状態を作り出すことですね。
でも、誰かが財布に入ってきたお金をそのまま使わずに持っていると、お金が回りません。サッカーで例えると、一人のプレーヤーがボールをもって突っ立っている状態ですね。だから、ボールをもらったプレーヤーは、できるだけ早く次のプレーヤーにボールを回して、ゴールに結びつけなければなりません。
しかし、もしも、ボールを持っているプレーヤーがチームメイトを信用せず、パスを回さなければ点を入れることができません。経済もこれと同じで、ある人が、将来に不安があるからお金を貯め込んでおこうと思ってしまったら、その分、世の中に流通するお金の量が減ります。
そういう人が増えていくと、消費活動が活発に行われなくなり、やがて、景気が後退し始めます。
「景気はよくなって欲しいけど、自分のお金が無くなるのは困る」
きっと、誰もがこのように思っていることでしょう。
そう考えている人は、手許にお金を置いておくのではなく、銀行に預金しておきましょう。そうすると、世の中にお金が増えていくんですよね。
いったいどういうことでしょうか?野田さんに聞いてみましょう。
もし銀行に1000万円を預けた由起夫さん自身が、その預金を定期口座に入れ、それを担保として同じ銀行から1000万円を借りたとしましょう。
すると定期口座の1000万円とは別に新たな1000万円が普通口座に入金され、由起夫さん名義のおカネは2000万円になります。別にそのぶん、どこかの口座のおカネが減るわけではありません。おカネは、由起夫さんが借りなかった時の2倍にふえるのです。
こんな魔法のようなことが起きるのは、おカネが貸し出されたときだけです。(134ページ)
何を言ってるのか、よくわからないという人もいることでしょう。
例えば、由起夫さんが、1000万円で高級外車を購入した場合、由起夫さんの財布からは1000万円が無くなりますが、高級外車を販売したディーラーの財布には1000万円が入ってきます。すなわち、世の中に出回っているお金は1000万円で変わらず、それが誰の財布の中に入っているのかということでしかないんですね。
由起夫さんが、自分が経営する会社の従業員に特別ボーナスとして1000万円を支給したとしても、その行為は、1000万円が由起夫さんから従業員に移動しただけで、世の中のお金が増えるということではありません。
でも、銀行に1000万円を預け、さらに銀行からもう1000万円借入れた場合には、由起夫さんの所持金は倍の2000万円に増えるのです。こういうことが起こるのは、銀行口座を介してお金が貸し出しに回った時だけなんですね。
このようにあたかも無から有のものが作り出されたように見える金融機関の貸し出しという行為は、経済学では、銀行の信用創造機能と呼ばれています。
だから、将来に不安があるから手元にお金を持っておきたいと思っている方は、とりあえず、それをタンスの中にしまいこんでおくのではなく、銀行に預けておきましょう。そうすれば、それが貸し出しに回って、世の中のお金の循環がよくなり、そして、景気が上向いて、将来への不安も薄らいでいくはずです。
元気な国は人口が少ない
そうは言っても、日本は少子化で、この先、人口が減少していくから景気も良くならないのではないかと思い、どうしても、不安を拭い去ることができないとおっしゃる方もいることでしょう。
でも、経済が元気な国は、多くの場合、人口が少ないんですね。
例えば、世界経済フォーラムの2010年版ランキングでは、首位がスイス、2位がスウェーデン、3位がシンガポール、4位がアメリカ、5位がドイツとなっています。アメリカをのぞけば、どこも人口が少ない国です。
アメリカにしても、人口は3億人以上いますが、50の州が集まった合衆国です。各州ごとの人口をみると、カリフォルニア州が3600万人、テキサス州が2400万人と多めですが、多くの州が1000万人以下です。
野田さんは、人口1000万人くらいの規模が、国として統治しやすいのではないかと述べています。そして、日本の場合は、統治の単位を国にすると規模が大きすぎるので、道州制を採用し、地域ごとに産業を育てるのが良いのではないかと考えています。
国際競争力があるとされる国をみても、別にそれほどたくさんの強い産業をもっているわけではありません。
スイスは金融と観光業があるほかは、大きな産業としては時計などの精密機械、「ネスレ」のような食品があるぐらいです。でもスイスぐらいの人口であれば、それで食べていけるんですね。(245~246ページ)
スイスの人口は800万人です。その程度であれば、たくさんの産業を育てる必要はなさそうです。
だから、日本も道州制を採用して、各州ごとに地域主導のもと、産業を育てていけば、人口が少ないとか、少子化といったことは、デメリットにならないのかもしれませんね。
日本が経済的に元気な国になるには、パスを回すようにお金を回すこと。自分にパスが回ってこないのではないかと不安を持っている方は、とりあえず銀行にお金を預けておけば、代わりに良い具合にパスを出してくれるでしょう。
ポン!とわかる日本経済 (宝島SUGOI文庫) (宝島SUGOI文庫 D の 2-1)
- 発売日: 2010/10/07
- メディア: 文庫