ウェブ1丁目図書館

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現場で培った知識と経験を活かして上場会社の社長となったパート主婦の仕事術

2006年6月24日に東京証券取引所一部上場企業の社長にパート出身の主婦が就任しました。

主婦が社長となったのは、ブックオフコーポレーションで、社長の名は橋本真由美さんです。

ブックオフは、古本の販売と買取を主に手掛けている会社で、全国に800店以上も展開していることから、ご存知の方も多いことでしょう。古本屋さんが、上場することは珍しいことのように思います。パート出身の主婦の方が上場会社の社長になるというのは、さらに珍しいことではないでしょうか?

ブックオフが全国に数百店舗も展開する基礎を作ったのは、橋本真由美さんですから、その実績を考えると社長となってもおかしくありません。でも、パートからスタートして社長ですから、仕事に対する姿勢が違っていたはずです。

作家順に本を並べる

ブックオフに行ったことがある方なら、ご存知でしょうが、文庫本は、作家順に本棚に並んでいます。

そんなのは、どこの本屋でも当たり前と思うでしょうが、新品を販売している本屋の場合、そうなっていないお店もあります。作家順に並んでいることは並んでいるのですが、並べ方が角川文庫、文春文庫、新潮文庫といったように出版社ごとの棚に作家順で並んでいることがよくあります。

こういう置き方でも、問題ないと言えば問題ないのですが、特定の作家の作品を探したい時には、本棚を行ったり来たりしないといけないので、手間がかかります。なので、ブックオフでは、出版社ごとに分けず、作家ごとに分けて本を棚に並べることで、お客さんが、特定の作家の本を探しやすくしています。

でも、ブックオフも最初からこのような並べ方をしていたわけではありません。

失敗だった本の並べ方

橋本さんの著書「お母さん社長が行く!」によると、ブックオフでは、派手な色のカバーがかかっている文庫本を選んで目立つように陳列していたそうです。

このような陳列方法を採用したのは、ブックオフ2号店で、そこを任された橋本さんのアイディアでした。

ブックオフの創業者の坂本孝さんは、「とにかく周りのいろいろなお店より明るくなるように」という考え方を持っていました。今までの古書店の薄暗い雰囲気を変えて、お客さんが入店しやすいお店にしようとしたのです。この考え方がうまく行き、1号店では、お店の明るさが集客に役立ちました。

だから、2号店でも同じように蛍光灯をたくさんつけて明るくしました。そして、派手な装丁の本ばかりを本棚に並べれば、さらに店内が明るくなって集客できるはずと考えたのです。


しかし、この橋本さんの考えは失敗に終わりました。

そもそも、本を読む人は、その本の外見のデザインなどはどうでもよくて、中身の方が重要なのです。それを教えてくれたのが、近所の開業医の初老の先生でした。

「角川文庫は、ないのかな」
「ございます」
私はささっとストッカーの中にずらりと並んだ角川文庫をお見せしました。院長先生はじっとタイトルを眺め、2、3冊を手に取って、仰いました。
「いい本あるのにな」
頭を殴られたようでした。このときようやく気がついたのです。私が作ろうとしていたのは、本の中身より見かけで商品価値を判断する、自分たち売り手目線の棚でした。(26ページ)

閉店の危機を救ったアルバイトたち

パートの立場でありながら2号店の店長を任された橋本さんは、1人で躍起になって店内の棚作りに精を出していました。

でも、アルバイトで働いている若者たちは、必死の橋本さんとは違い、仕事へのやる気がありません。特に橋本さんが帰宅した夕方以降になると、タバコを吸いながら仕事をするようないい加減さ。彼らは、ただ、バイト代欲しさに働いていただけだったので、橋本さんとは、仕事に対する温度差があったのです。

当然、このようなお店が儲かるはずはありません。売上は少しずつ落ちていき、終いには1日の売上が3万円を切るところまで業績は悪化していました。そのため、創業者の坂本さんは2号店の閉店を決意し、それを橋本さんに告げました。


落ち込む橋本さん。それを見たバイトのスタッフたちは意識が変わりました。

2号店の閉店を防ぐためには、少しでも売上を上げなければなりません。今までなら、お客さんに仏像の本があるか聞かれても、「本は、店内に出ているだけです。見当たらないんだったら、申し訳ありません」と返事をするだけだったのが、閉店が決まった後では、「少々お待ちください!店内と在庫、見て回りますので」と店内を駆け回って、お客さんが探している本を集めるようになりました。

また、コミックを1巻から5巻まで揃いでレジに持ってきたお客さんには、まだ本棚に陳列が終わっていない6巻以降もあることをお知らせして、追加で購入してもらうなどの工夫もするようになりました。


アルバイトたちの仕事への意識が変わったことで、10日前までは3万円程度だった日版が、なんと20万円にまで伸びたのです。そして、その後の2号店の売上は好調で、閉店は撤回となりました。

仕事での体験を語り継ぐ

2号店の業績回復の理由は、アルバイトたちがやる気を出したことにありますが、そのやる気を引き出し、持続させたのは、成功体験です。

ちょっとの工夫、頭や体を使う、それで結果が出ると気分が良くなるものです。その成功体験が「お店を変えることができるんだ!」という意識を生み出し、さらなる工夫をはじめます。

そして、個々のスタッフの成功体験が共有されることで、店全体、会社全体の売上が増えていきます。


ブックオフの多くのスタッフが「語り部」となって成功体験や失敗談を語ります。

この「語り」が若い人の成長のスピードを早める。立地や環境は異なれど、ブックオフの店作りの基本は同じです。ブックオフコーポレーションという会社が個々のお店の集合体である以上、必ず、みなが陥りかける共通の落とし穴があり、こうすればうまくいくという共通の秘策があるのです。(中略)
失敗をいくつしてもいい。大切なのは失敗の経験、そしてもちろん成功の経験を「語り継ぐ」ことで、会社のみんなで共有すれば、ブックオフという組織の財産になるのです。(30~31ページ)

失敗したことは、誰にも話したくないものです。でも、自分の胸の内にしまっておいたのでは、また、他のスタッフが同じ失敗をするかもしれません。失敗談を事前に語り、それを共有すれば、2度、3度と同じ失敗をしなくて済みます。当然、成功体験の共有も大切です。


業績が悪くなると、企業外部のコンサルタントなんかにどうすれば売上が伸びるのか、利益が増えるのかといったアドバイスを聞きたくなります。でも、会社の外にいる人が、会社の中にいる人よりも、内部事情に詳しいということはありません。企業外部の人たちが、アドバイスできる内容は、他社事例程度でしかないでしょう。

それよりも、会社やお店の中をもう一度見回して、問題がありそうなものを列挙していき、一つずつ検証していく方が良いのではないでしょうか?

問題の解決策は、案外、外よりも中にあるかもしれませんよ。

お母さん社長が行く! (NB Online book)

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  • 作者:橋本 真由美
  • 発売日: 2007/04/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)