ウェブ1丁目図書館

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異なる2つの視点から読むフランス革命

フランス国王ルイ15世の孫にオーストリア女帝マリア・テレジアの末娘が嫁ぐのをストラスブールのパン屋で働く少女マルグリットが、妬ましく見つめるところから物語が始まります。

遠藤周作さんの「王妃 マリー・アントワネット 上巻」の出だしです。

オーストリアからフランスにやって来たのは、マリー・アントワネット。まだ14歳だった彼女は、両国が手を握り、イギリスやプロイセンの脅威を抑える重要な役割を担わされます。人々は彼女を祝福し、彼女もまた群衆に微笑みを返します。しかし、同じ年頃のマルグリットは、彼女に嫉妬し、「早く死んじゃえばいい」と思います。

高所からフランスを見下ろすマリー・アントワネット

フランス皇太子に嫁いだマリー・アントワネットは、誰からもその美貌を賞嘆されます。

どこに行っても、ちやほやされる彼女は、気の弱そうな皇太子には多少の不満はあるものの、豪華に飾られたヴェルサイユ宮殿には魅力を感じていました。

しかし、宮殿内は、出世や財を成すことばかりを考える貴族たちの巣窟であり、自らの欲のために彼女に接近し、ライバルを貶める告げ口をします。

ルイ15世の愛妾デュ・バリー夫人の存在を知ったマリー・アントワネットは、宮殿内で彼女が権力を持っていることに不満を感じます。マリー・アントワネットは、デュ・バリー夫人を徹底的に無視しますが、そう仕向けたのは、皇太子の叔母である内親王たちでした。マリー・アントワネットは、デュ・バリー夫人を邪魔に思っていた内親王たちに利用されたのです。

マリー・アントワネットは、皇太子妃であるがために宮殿内で出世を目論む者たちにすり寄られます。でも、そのような存在であるからこそ、マリー・アントワネットは贅沢な暮らしができ、自分の望みを次々と叶えることができました。

また、宮殿から外に出れば、パリ市民に讃えられ、自分は人々から好かれているのだと感じましたし、自分がエレガンスであればあるほどパリ市民の喜びになると思っていました。しかし、彼女が市民たちを見るのは、常に高い場所からであり、彼らの表情までは捉えることができませんでした。圧政に苦しむ人々は、革命の時を辛抱強く待っていたのです。

世界が変わることなどあり得ないと思うマルグリット

パン屋の女中として働いていたマルグリットは、今の生活が嫌になり逃げだします。

何も食べるものがなくさまようマルグリットは、ある食堂で男性がおいしそうに食事をしているのを目にします。それに気付いた男性は、彼女にパンを与え、一緒にパリに行くことを提案します。パリに行って働けば、好きなものを何でも買えると教えられたマルグリットは、パリに行くことを決心し、男性についていくことにしました。

マルグリットがパリで働くことになったのは、兎のおばさんが経営する旅館。兎のおあばさんは、マルグリットに親切であり、パン屋の時のような重労働をさせませんでした。

パリでのマルグリットの生活は、パン屋時代とは異なり充実したものでした。でも、時折耳にするマリー・アントワネットの噂は、マルグリットを不快にさせます。

マルグリットの平穏な生活は、ある時終わりを告げます。この世の中は、贅沢をできる者と貧しい者がおり、貧しい者が贅沢をできることなどありはしないのだと再確認させられました。カフェで革命の話をしている男たちを見ても、空しさしか感じません。

接点

いつもパリ市民の祝福を受けるマリー・アントワネット。しかし、彼女の耳には、祝福の歓声に混ざって、王権の打倒を叫ぶ声が入ってきます。

その声を聞くと、いつしか自分が宮殿を追い出されるのではないかと不安になることがあるものの、実現することはないと思い直します。

王妃になった彼女は、さらに宮殿内の権力争いに利用されます。欲望に満ち溢れたヴェルサイユ宮殿が嫌になった彼女は、やがて、宮殿の外で暮らすようになります。しかし、エレガンスであることを信条とする彼女は、贅沢を止めることはありませんでした。どんなに財務官が財政の悪化を説いても彼女は聞く耳を持ちませんでした。

パリ市民の怨嗟の声は大きくなるものの、その声は彼女には届きません。マルグリットのように貧しい生活を強いられる者たちがいることにもまったく気づきません。

マリー・アントワネットとマルグリットでは、住む世界がまるで違いますから仕方ないことです。

しかし、この世で交わることのない2人が、首飾を軸にして接点を持ちます。

時折耳にする不満の声はあるものの庶民から祝福されていると思っているマリーアントワネット。どんなに革命と叫んでも上下が逆転することがないと信じているマルグリット。

2人が思いもよらなかった革命が、1つの首飾から動き始めます。