ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

為政者は移ろいやすい群衆の声に耳を傾けるべきではない

1789年。

フランスの財政が逼迫し、国民の暮らしがさらに苦しくなり、遂に暴動が起こります。いや、それは暴動ではなく革命でした。バスチーユを市民軍が陥落させたとの情報はフランス全土に広まり、農民たちが貴族を襲撃し始めます。

狩りの最中だったルイ16世は、ことの重大さに気づき直ちにヴェルサイユ宮殿に戻りました。

押し寄せる群衆

遠藤周作さんの「王妃 マリー・アントワネット 下」では、フランス革命からマリー・アントワネットが革命裁判で有罪になるまでが描かれています。

いつも、人民の前では盛大な拍手で讃えられていたマリー・アントワネット。しかし、ある時期から、群衆の拍手の中に怨嗟の声が混ざっているのに気づきます。フランス財政と庶民の生活の悪化に対する不平不満が彼女に向かい始めたのです。

バスチーユを陥落させた群衆は、ヴェルサイユ宮殿に向かいます。

宮殿を取り囲んだ群衆たちの前に姿を現したマリー・アントワネット。これまで多くの人々から讃えられてきた彼女が見たものは、自分を非難する群衆たち。この時、彼女は群衆の心が移ろいやすいことに気づきます。

マリー・アントワネットは夫ルイ16世とともにヴェルサイユを去り、廃屋と化したチュイルリー宮殿に住むことになりました。

チュイルリー宮殿で、しばらくは平穏な日々が続いたものの、群衆たちは彼女たちの権利や財産を奪い始めます。温和なルイ16世も、いずれは自分たちの居場所も奪われるのではないかと恐れます。

その恐れは現実のものとなり、国王一家は、タンプルの塔に幽閉され外界との連絡も取れなくなりました。

夫の優しさに気づく

国王としては頼りなかったルイ16世でしたが、彼は誰よりも優しく家族だけでなく人民も愛していました、修道女アニエルヴェルサイユ宮殿に人々のためにパンを提供してくれるように願い出ると、その願いを聞き届けます。

裁判で処刑が決まった後も、マリー・アントワネットや子供たちに人民に復讐をしてはいけないと諭します。人民の幸せを願っていた国王は、その人民によって断頭台へと歩を進めさせられ、最期の時を迎えました。

マリー・アントワネットは、革命後にルイ16世の優しさに気づくことができましたが、それから彼と過ごした時間はあまりにも短いものでした。しかし、それに気付けたことが残り少なくなったマリー・アントワネットの心を浄化していきます。

子供たちからも引き離された彼女は、裁判の日が来るのを待つだけの日々を過ごします。

裁判と言っても、死刑宣告は決まっており、マリー・アントワネットをただ群衆の前に連れ出すだけの儀式でしかありません。しかし、彼女は、いついかなる場合もエレガンスであり続けることを誓い、群衆の罵声を浴びても気品を損なうことはありませんでした。

マリー・アントワネットは処刑されたのか

マリー・アントワネットは処刑されます。

それは歴史の事実です。

でも、本作を読んでいると、マリー・アントワネットは助かるのではないかと思えてきます。彼女に無償の愛を捧げるフェルセンが、読者にそう思わせるのです。チュイルリー宮殿からの脱出に失敗しても、フェルセンがいる限り、必ずマリー・アントワネットは助かるはずだと期待しながらページをめくっていきます。

マリー・アントワネットが断頭台に颯爽と上った後も、そして、ギロチンが落ちた後も、まだ助かるのではないかと期待させます。


本作では、マリー・アントワネットと同世代の貧しい女性マルグリットの視点からも物語は進んでいきます。

群衆に混ざってデモに参加するマルグリットは、マリー・アントワネットが没落していく様を見届けます。

この世に不平等があるのは、マリー・アントワネットがいるからだ。そして、マリー・アントワネットこそ不平等の象徴なのだ。

だから、マルグリットは、マリー・アントワネットが処刑されれば、この世から不平等はなくなると思い続けていたのでしょう。でも、マリー・アントワネットの死後、本当に不平等はなくなったのか、そして、マルグリットのような女性が革命後に幸せになったのか、本作からは、そこまではわかりません。

為政者と群衆

どの国でも、いつの時代でも、群衆は愚かなものです。

少しでも優しさを見せれば、群衆はつけあがり、さらなる要求をします。マリー・アントワネットはそれに気づいていましたが、優しきルイ16世は、人民を軍隊を使って鎮圧することはできませんでした。

群衆の心を味方に着けたのが、革命の中心にいたロベスピエールでした。

貴族や反革命派を次々に処刑することで、彼は群衆の人気を得ます。そして、群衆の声を大きくしていくことで、ルイ16世マリー・アントワネットの処刑を正当化していきました。

群衆の人気を得れば、政権を維持しやすくなります。しかし、それが真に国民のためになるとは言えません。

群衆は自分たちの欲の実現のために結集した人々です。もちろん、群衆は自分たちの要求を為政者に飲ますことで社会が良くなると考えています。しかし、群衆は、目先の自分の利益の獲得や自分たちの要求を為政者に飲ますことに快感を覚えているだけです。

為政者が、群衆の要求を飲むことと国民の声を聞くことは別物です。

群衆の気持ちは移ろいやすく変わりやすいもの。

そのような不確かな群衆に媚を売るのは、為政者として失格です。

王妃マリーアントワネット(下) (新潮文庫)

王妃マリーアントワネット(下) (新潮文庫)