ウェブ1丁目図書館

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円安一辺倒の為替介入で肥大化していく外為特会は運用に成功しても使えないお金

2013年6月に安倍内閣は、今後10年間の平均で名目GDP成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度の成長を実現することを宣言しました。また、日銀も2年程度の期間を念頭に早期にインフレ率を年率2%に引き上げると宣言しました。

もう遠い昔のように思え、「そんなこと言っていたか」と覚えていない人も多そうです。そして、2013年から毎年暮らしが楽になっていったと感じている人は少なそうです。

果たして、第二次安倍内閣のマクロ経済政策は、うまくいっていたのでしょうか。

円安一辺倒の通貨政策が財政に悪影響を与える

政府が行うマクロ経済政策の中に通貨政策があります。

日本の通貨政策と言えば、外国為替市場介入(為替介入)がよく知られています。ところで、なぜ、為替介入をしなければならないのでしょうか。それは、円高になると日本経済に悪影響を与えるからです。円安になれば、日本の景気が良くなると多くの人が思い込んでいるから、政府や日銀は、これまで何度も為替介入を行い、円を売って外貨を獲得し、それにより円安を誘導しようとしてきました。

しかし、このような円安誘導の通貨政策は、日本の財政に悪影響をもたらすと、国際経済学、統計経済論、日本経済論を専門とする熊倉正修さんは、著書の『日本のマクロ経済政策』の中で指摘しています。

円安を誘導した第二次安倍内閣の支持率は悪くなく、特に経済界から高い評価を受けていました。輸出企業の影響力が強い経済団体連合会経団連)などは、安倍政権の経済政策「アベノミクス」に歓迎的でした。

ところが、政府や日銀が為替相場を円安に誘導しようとすればするほど、政府の財政が危険な状態になっていくことはあまり指摘されていないように思います。

政府の財布には、一般会計と特別会計があり、国民がよく知っているのは一般会計です。国家予算100兆円といった場合、それは、一般会計を指しています。

政府が為替介入用に持っている財布は、外国為替資金特別会計(外為特会)と呼ばれるものです。政府が為替相場を円安にしようとする場合、円を売って外貨を買うことになります。そして、外貨を買うための円は、外国為替資金証券(為券)を発行して調達したものです。為券の発行は、短期の借入なので、円安誘導は、借金をして外貨を買っていることになります。

これは、個人でいうと、借金をして得た円でドルなどの外貨預金をしているのと同じです。政府が円安誘導を行えば行うほど、外貨建資産が増えていきますが、一方で借金も増えていきます。借金をどうやって返すんだという問題に対して、外貨を売れば良いという人がいます、しかし、外貨は常に相場が変動するリスクにさらされているので、借金を返済したい時に円高になっていたら、借金返済に必要なだけの円を手にすることはできないかもしれません。

このように円安一辺倒の為替介入は、財政を悪化させる原因となるのです。

21世紀になって為替介入をする国は少なくなっている

20世紀までは、先進国で為替介入が行われていましたが、諸外国は、効果が不明確な為替介入は副作用が大きいため、為替介入に頼らない経済運営に移行していきました。21世紀になってからは、日本と韓国くらいしか為替介入を行っていません。

政府が為替介入を行って均衡為替レートへの回帰を促すことが肯定され得るためには、以下の条件が満たされている必要があると熊倉さんは述べています。

  1. 現実の為替レートが均衡水準からいちじるしく乖離し、そのことに議論の余地がほとんどない場合
  2. 自国通貨が均衡為替レートに比べて高くなった時も安くなったときも同じように介入する
  3. 為替介入が望ましくない場合には、為替相場が均衡為替レートから相当乖離していても介入しない
  4. 相場が動くまで無制限に介入するのを防ぐために事前の歯止めをかけておく


このような条件なく円安一辺倒の為替介入が行われ続けるのは、先に述べた経団連の発言力もありますが、他に国内の製造業、非製造業とも不採算企業や低利企業が多く、外的なショックに対して脆弱だからだと、熊倉さんは考えています。価格競争力を失っている多くの日本企業は、円高になっても価格を上げられず、利益を削られます。そうした企業の声が、政府を円安誘導に向かわせてしまうのだと。

しかし、戦後の高度成長期から現在まで、日本の輸出依存度は高くなく、世界の国々の中でもっとも低い部類に属します。日本の景気は、内需の影響を受けやすいのです。

外貨の運用益はどうなる?

外為特会で運用された外貨建資産が値上がりすれば、つまり円安になれば運用益が出ます。その運用益は一体どうなるのでしょうか。

外為特会からは、一般会計に繰り入れが行われているので、普通に考えれば運用益を一般会計に回していると考えられそうです。しかし、実際には運用益は、外貨に再投資されるので一般会計に繰り入れられていません。

では、一般会計に繰り入れているお金は、どこから入ったきたものなのでしょうか。

実は、これも、為券を発行することで得た円なのです。外貨を売って円に替えることは行われないので、運用益が円に変わることはありません。どんなに儲かっても使えないお金、それが外為特会と言えそうです。

外為特会が一般会計に繰り入れるたびに借金をしているのですから、外為特会はいつまでも膨れ上がったままです。もしも、政府が均衡為替レートから実際の為替相場が乖離しているときに為替介入を行っていれば、円安の場合は外貨を買い、円高の場合は外貨を売ることになるので、外為特会の外貨建資産は増えたり減ったりします。ところが、円安一辺倒の為替介入なので、外貨建資産を売って円に替え外為特会を縮小させることができません。しかも、運用益も円に交換できないので、それも一般会計に繰り入れることができません。

円に交換できない外貨を買い続けるために借金をし続ける行為が果たして健全なことなのでしょうか。

新型コロナが福音になった?

第二次安倍内閣は、2020年ごろまでに名目GDP600兆円という目標を掲げていました。

どうも、この目標は、最初から達成がほぼ不可能だったようです。ただ、2020年の東京オリンピックの開催で、瞬間的に目標を達成できた可能性はあります。しかし、そんな一時的な目標達成は国民の暮らしを豊かにするものではないでしょう。

どうやら、第二次安倍内閣のマクロ経済政策は、うまくいっていなかったみたいですね。しかし、今となっては評価のしようがありません。2020年以降の新型コロナウイルスの蔓延により、日本経済は大きな打撃を受けました。


「あれがなければ、名目GDP600兆円を達成できたのに」


自民党政権の中からこんな声が聞こえてきそうです。

コロナのせいにしておけば良いだろう。もっと過剰に感染対策をして経済に打撃を与えた方がウソがばれないだろう。

自民党政権にとって新型コロナウイルスの蔓延が福音になったのではないかと詮索するのは考えすぎでしょうか。