事業は生まれては消え、消えては生まれるもの。
戦後、日本では多くの事業が生まれ、起業数が廃業数を上回る状況が長年続いていました。しかし、近年は、その傾向が逆転し、廃業数が企業数を上回る状況になっています。特に中小企業の廃業が増えており、これからも消えていく企業が増えていきそうです。
製造業での起業は難しい
かつては、モノづくり大国日本と呼ばれ、その土台を支えていたのは中小企業でした。有名な大企業も、下請企業が多く存在していたことから数々の製品を生み出すことができました。
しかし、人件費の高騰から生産部門を海外の賃金が安い国に移転する大企業が増え、これまで国内で下請けをしていた中小企業の廃業が目立つようになっています。
経済学博士の関満博さんの著書『日本の中小企業』では、現代日本の事業承継や起業の難しさについて解説されています。
近年、日本国内での起業は、ITや介護の分野が選ばれやすい傾向にあります。時代によって起業しやすい分野は変化するもので、これから製造分野で起業することは非常に厳しい状況となっています。その理由として挙げられるのが資金不足です。例えば金型工業だと、初期投資に少なくとも1億円が必要とされています。1億円もの大金を30歳前後で用意して起業することは極めて困難と言えるでしょう。
それなら、今現在、廃業を考えている工場を引き継ぐことで、若者の起業を後押しできそうですが、そう簡単にいかない現実があります。
個人保証が必要
以前から、中小企業の事業承継は親族に限る必要はないと言われてきました。中小企業も社会的存在なのだから、存続するためには、親族だけでなく広く後継者を募るべきだと。
引退を考えている経営者の中には、社内の従業員から次期社長を育てようと努力している方がいるかもしれません。しかし、時間をかけて次期社長を育ててきたにも関わらず、最終的には身内を経営者にせざるを得ない現実があります。
従業員が、自分が社長になって会社を引き継ごうと思っていても、家族の反対にあい、社長になることを断念するのだとか。銀行に個人保証をしなければならず、自宅を担保として差し出さなければならないことに妻が反対するからです。従業員として働いていれば、安定した給料ももらえ、老後も年金で暮らしていけるのに社長になったのでは、今の生活も老後もどうなるかわかりません。
だから、事業承継は、現在の経営者の息子、娘、娘婿が第一順位となることが多いのです。
このような状況から、中小企業の3分の1には承継の候補者がいないと言われています。
身内が承継しない場合には、第三者承継が不可避になります。第三者承継には、親族以外の経営陣に会社を譲渡するMBOや従業員に譲渡するEBOがありますが、他の会社に譲渡するM&Aも事業承継の手段となります。
金融機関のあり方
関さんは、事業承継をスムーズに行うためには、今後個人保証に頼る金融ではなく、事業を見極めるという金融本来のあり方に返ることが必要だと述べます。さらにクラウトファンディングのような柔らかい投資手段の普及も必要だと。
事業の将来性を金融機関が適切に評価できれば、個人保証なく事業承継を行うことが可能になるはずです。これまで、個人保証をためらっていた家族の理解も得やすいでしょう。また、金型工業のような初期投資が莫大な分野での起業を望んでいる若者にとっても、事業承継によって、その実現可能性が高くなるはずです。
社会的に意義のある中小企業が、後継者難で廃業しなければならないのは非常にもったいないことです。
中小企業の承継には、金融機関が原点回帰することが大切です。