ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

食料安全保障にとって漁業は欠かせない

狭い国土に1億2千万人もの国民が暮らす日本。

農地や牧場を作っても、それだけの胃袋を満足させられるほどの食料を確保するのは困難です。食料自給率が低い状態が続いているのは不思議なことではありません。

しかし、今よりも食料自給率を上げる方法はあります。それは漁業に力を入れることです。

リスクが高い漁業

水産資源の減少や日本人の魚離れから、漁業に力を入れるのは食料自給率を上げるのに役立たないと感じている人は多いと思います。でも、日本で水揚げされた魚が、海外に輸出されているのですから、漁業によって食料自給率を上げることは可能です。

水産経済学を専門とする佐野雅昭さんは、著書の『日本人が知らない漁業の大問題』で、日本の漁業の実態を伝え、どこに問題があるのかを教えてくれています。

漁業は、海に出れば必ず決まった漁獲量が得られるわけではありません。豊漁の時もあれば、漁獲量が少ない時もあります。リスクが高い事業です。一方で、漁業者は、漁業権という権利を持っており、漁業者以外の人が好き勝手に魚を捕まえられないように保護されています。この漁業権が認められているから、サーファーやダイバーが海で遊ぶことよりも、漁業が優先されます。

漁業権という既得権を認めるのはおかしいという意見もあるでしょうが、日本国民の食の安全を守るためにリスクをとっている漁業者に一定の権利を与えることは当然です。もしも、漁業権が認められないのなら、乱獲や輸出により、日本国民が魚を食べる機会が大幅に減少してしまいます。

輸出が輸入を増やす悪循環

漁業を活性化させて食料自給率を上げ、国内で消費されない余った魚を海外へ輸出すれば儲かりそうですが、そう簡単な話ではないようです。

佐野さんは、「輸出拡大は、水産業や地域社会に大きな歪みをもたらす」と指摘しています。

例えば、北海道産のアキサケは、海外での人気が高まり価格が上昇したことから、大手水産会社が買い占めて輸出しています。その影響で、地元加工業者は原材料が不足するようになり、サンマやホッケに転換したり廃業に追い込まれるようになりました。また、北海道のコンビニでは、サケ弁当に地元のアキサケを使えず、輸入品に変更したとのこと。

なんと無駄なことか。輸送のために不必要にエネルギーを使うだけです。

これでは、実質的な食料自給率を引き下げることになります。儲かるから輸出するというのは、食料安全保障の観点からも好ましくありません。

日本の食料自給率は、カロリーを基準にすると約40%、生産額を基準にすると約67%です。

この数字を見たら、日本は、海外に食料を輸出できるだけの余裕がないことがわかります。「日本の魚は儲かる」という理由で輸出することには規制が必要でしょう。

魚を生で食べられるのは当たり前ではない

日本の水産物の流通の仕組みは、時代遅れだとの考えを持っている人がいます。

日本の水産物は、漁業者→産地卸売市場→消費地卸売市場→小売市場→消費者というように流通しています。産地卸売市場には産地仲買人、消費地卸売市場には仲卸がおり、これらの卸には一定の手数料が入るようになっています。

確かにこんなに流通経路が長いと消費者に魚が届くまでに多くの費用がかかり、割高な買い物をさせられてしまうように思えます。

では、小売業者が卸を省いて漁業者から直接魚を仕入れると、どれくらい安くなるのでしょうか。佐野さんの試算では、消費者が1,000円で魚を買っていたとすると、卸を省けば900円になるようです。あまり安くならないですね。

卸中抜きをしたところで、小売業者の費用負担が増えるだけなので、消費者が思うほど安くで魚を買うことはできないのです。それどころか、公開のセリを通さすに漁業者と小売店が相対で取引すると、恣意的なつり上げや買い叩きなどで価格操作が行われる余地があります。

何より困るのが、卸を通さない取引が当たり前になると、生で食べられる安全な魚を消費者が買えなくなることです。卸売市場では、プロによって日常的にサンプル検査が行われ、刺身で食べることを前提とした適切な品質管理が行われています。卸売市場がなければ、食中毒の危険を冒して魚を生で食べなければならないのです。

魚の安全性に関しては、複数の認証制度がありますが、日本の流通システムを介していれば、これらの認証を受けなくても安全な魚を食べることができます。

安全な魚の流通を維持するためには

佐野さんは、日本特有の「生産・流通・消費」の構造は、意識して守ろうとしないと簡単に壊れてしまうと警告しています。

この流通システムを守るのは、他でもない日本の消費者です。消費者が国産魚を買うことで、漁業者に十分な所得を保障することになります。食料を輸入にばかり頼っていると、為替相場やエネルギー価格の変動で、食費が大幅に増える可能性があります。

また、漁業者の所得を保障するために補助金をじゃぶじゃぶ使う必要もあります。安い輸入品が入ってきたときには、国産品の価格を引き下げるために漁業者に補助金を支払うくらいのことはした方が良いでしょう。

インターネットがなくても、キャッシュレス決済ができなくても死ぬことはありません。しかし、食料がなくなれば、人は生きていけません。金を出せば、どこからでも簡単に食料を買えると安易に考えてはいけません。

輸入で食料を賄うことは、サステナブル(持続可能)なことではないのです。

日本の水産資源は豊富です。国産の魚を日本の消費者に行き渡るようにすれば、食料自給率を上げていくことは可能です。土地が狭い日本では、肉だけでなく魚も食べなければ、生きていくために必要なタンパク質を補給できません。

従来の日本の魚の流通システムを守り発展させることが、我が国の食料安全保障につながるのです。