ウェブ1丁目図書館

読書で得ること感じること。ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。

世界は無秩序へ向かうエントロピー増大の法則

秩序ある状態は、放っておけば、やがて無秩序な状態へと変わります。

無秩序な状態は、乱雑さとも言うことができ、物理学ではエントロピーと言われています。そして、放っておけば秩序が保たれなくなっていくことをエントロピー増大の法則といい、物理学では熱力学の第2法則と呼ばれています。

部屋の掃除をしないでいると、雑誌や服などで部屋が散らかり、さらに放置した状態が長く続くとゴミ屋敷になってしまうのも、エントロピー増大の法則が働いていると言えます。園児の集団を保育士がみている状態だと、園児は保育士の言うことを聞き列を作って散歩をしますが、保育士がいなくなると好き勝手し始めます。これも、エントロピー増大の法則が働いていると言えます。

個体、液体、気体

分子は、個体、液体、気体の3つの状態をとることができます。

この個体、液体、気体という3つの状態もまたエントロピーと関係があります。

理学博士の平山令明さんの著書「熱力学で理解する化学反応のしくみ」では、化学反応がどのように起こるのか、熱力学の視点から初学者に分かりやすく解説されています。

個体は、分子が縦横高さの方向に完璧に整列した状態です。そのため、分子同士は身動きができません。その場で振動したり回転したりするだけです。したがって、個体では、各分子の位置が完全に決まっているので位置エントロピーは0になります。

では、液体だと、どうでしょうか。液体は個体よりも、分子の動きに自由度があります。そのため、液体中で分子同士が取りうる状態は、個体よりも、ずっと大きくなります。つまり、位置エントロピーは個体よりも液体の方が大きくなります。しかし、液体でも、分子同士は、ある範囲以上離れることができません。

液体よりも分子同士の自由度が高いのが気体です。気体分子は、原則的に空いている空間があればどこにでも侵入できます。したがって、気体は液体よりも位置エントロピーが大きくなります。

個体の時は秩序整然と並んでいた分子が、液体になるとちょこちょこと動きだし、気体になった時には手に負えないほど自由に動き回ります。個体から液体、液体から気体に変化するにしたがって秩序を保てなくなります。すなわち、エントロピーが増大して行っているのです。

エネルギーをお金に例える

氷という個体を液体にする、あるいは水という液体を気体にするにはどうすれば良いでしょうか。

ほとんどの人が知っているように熱を加えれば、氷は液体の水になり、水は気体になります。

では、個体から液体にするのと、液体から気体にするのとでは、どちらの方が多くの熱エネルギーを必要とするでしょうか。

これは、なかなか難しい問題です。

平山さんは、エネルギーをお金に例えて、この問題をわかりやすく教えてくれています。

今、20万円を持っているAさんと2千円を持っているBさんがいたとします。この2人に1千円をあげるとすると、どちらの方が喜ぶでしょうか?

20万円持っているAさんにとって1千円は所持金の200分の1でしかないので、それほど喜ばないでしょう。一方、2千円しか持っていないBさんにとって、1千円は所持金の2分の1の金額ですから、それをもらうことで所持金が現在よりも1.5倍に増えます。だから、喜びの度合いは、AさんよりもBさんの方が遥かに大きいでしょう。

反対に1千円を税金として納めなければならないとした場合でも、Aさんの場合は所持金の200分の1がなくなるだけなのであまり痛くないですが、Bさんだと所持金の半分がなくなるので痛い支出と感じるはずです。

お金をたくさん持っていることを「懐が暖かい」と表現し、逆の場合を「懐が寒い」と表現します。

化学反応も、実はこれと同じです。持ちエネルギーが多い状態は高温、つまり懐が暖かい状態です。一方、持ちエネルギーが少ない状態は低温、つまり懐が寒い状態です。

同じお金をあげた時に喜びの度合いが大きいのは懐が寒い人です。したがって、熱エネルギーを加えた時に乱雑さが、より増すのは、懐が寒い状態、すなわち低温状態となりますから、同じ1単位のエネルギーを個体の氷と液体の水に与えた場合、熱エントロピーの影響は低温状態の氷、すなわち個体の方が大きくなります。

化学反応って、よくわからないなと思っている人は多いと思います。でも、エネルギーをお金に例えると、化学反応のしくみがわかりやすくなり、多くの人が理解できるのではないでしょうか。

生物は熱エントロピーを外界に放出する

地球温暖化が、環境に悪影響を与えていると言われるようになって久しいです。

地球温暖化は、人類が排出する二酸化炭素(CO₂)が原因だとされていますが、そもそも生物が活動している限り、外界に熱エントロピーを放出していることを忘れてはいけません。

生物が生きていくためには、生体内で様々な化学反応を起こし、その過程で熱を排出します。つまり、生物が生きていくための活動を行っている限り、外界に熱エントロピーが捨てられることを避けることはできないのです。そして、現在よりも環境への負荷が少ないクリーンエネルギーを利用したとしても、熱エントロピーが外界に排出されることを防ぐことはできません。エントロピーが増大していくことに例外はないのです。

私たちが現在直面している地球温暖化の問題は規模が大きく、速度が大きいので、非常に特殊な問題と考えられることが多いのですが、生物が地球で繁栄していけば、いずれは起こる問題と考えることもできます。(168ページ)

年を取り、体が衰え、顔にしわができるのもエントロピー(乱雑さ)の増大です。そして、エントロピー増大の法則に誰も抗えないので、生物はやがて死を迎えます。いや、万物にエントロピー増大の法則が働いているのです。


平山さんは、科学を学ぶ大きな理由は「自然科学の法則の意味することを理解する」ことだと述べています。

自然科学の法則の前では、宗教も政治も関係ありません。そこには真実があるだけです。自然の真理を説明するのにどれだけ論理的かが重要であり、これまでの説よりも、もっと論理的な説が出てくれば、そちらを採るのが科学的な態度と言えます。

権威の言葉を鵜呑みにするのは科学的態度ではありません。「偉い先生が言っている」とか「教祖が言っている」というだけで、それが真実だと思わないこと。

彼らの言葉が自然の真理を論理的に説明できているか。

それを考え、様々な事象を観察することが科学的な態度と言えるでしょう。脳内だけで結論を出すことは、単なる妄想です。

熱力学で理解する化学反応のしくみ―変化に潜む根本原理を知ろう (ブルーバックス)

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