ウェブ1丁目図書館

ここはウェブ1丁目にある小さな図書館です。本の魅力をブログ形式でお伝えしています。なお、当ブログはアフィリエイト広告を利用しています。

ねこと協調してきた人類

近年の日本社会は、空前のねこブームとなっています。テレビもインターネットも、ねこが大人気で、メディアでねこを見ない日はないほどです。

それにしても、なぜ、人はねこに惹きつけられるのでしょうか。人に従順ないぬの方がペットとしては好まれそうで、実際、かつてはいぬがねこより人気でした。

それが、いつの間にか、ねこがブームとなり、いぬよりもメディアでの露出が増えだしました。人を魅了するねこ。その理由は、どこにあるのでしょうか。

人と同じく出アフリカしたねこ

動物の生態学と集団遺伝学を専門とする山根明弘さんは、北部九州の相の島で7年間、200匹のノラネコを観察し、その生態を研究してきました。著書の『ねこの秘密』では、その時の研究内容やねこの特性が紹介されています。

人もねこも、出身はアフリカです。アフリカで誕生した人類は、やがて世界中に拡散し現在にいたっています。ねこもまた、1万年前に現在のイエネコが誕生し、その後、世界中に拡散していきました。

ねこの祖先は、アフリカに棲むリビアヤマネコと考えられています。人は、リビアヤマネコを家畜化し、現在のイエネコとしたわけですが、なかなか人に慣れないリビアヤマネコを人の一方的な意思で家畜化することは難しかったようです。

当時は、人の生活の中でネズミが邪魔な存在でした。そのネズミを退治するリビアヤマネコが、自然と人に接近し、彼らの子供の中で比較的人になつきやすい個体同士を掛け合わせて、イエネコとしたのではないかと推測されています。

そうやって誕生したイエネコが、平安時代にすでに日本にやって来ており、今にいたっています。

人がねこに惹かれるのは、ねこが人と同じように出アフリカしたことと何か関係があるのかもしれません。

狩りの特性ときまぐれな性格

ねこに魅力を感じる理由として、そのきまぐれな性格を挙げる人もいます。従順ないぬを好む人は、ねこの素っ気ない性格が合わないと感じるかもしれませんね。

ねこの気まぐれな性格は、狩りの特性と関係があります。

ねこは、獲物を見つけると忍び足で近づきます。そして、射程圏に入ると瞬発力を発揮して一気に飛びかかり、獲物を捕らえます。この時、見事に獲物を捕らえることができれば良いのですが、失敗した場合は、すぐに次の獲物を追いかけることができません。

ねこの筋肉は白筋が多く、短距離を素早く走るような瞬発力を発揮するのは得意ですが、長時間動き続けるのは苦手です。だから、ねこは、獲物を逃すとすぐに次の獲物を狙うことができず、じっくりと休んで体力を回復させる必要があります。ねこがきまぐれに見えるのは、生理的な理由で持続的に動けないからであり、ねこが飽きっぽく見えるのは、単に人の思い込みなのかもしれません。

最近は、筋トレをする人が増えています。筋トレで鍛えるのは、主に白筋です。筋トレをしている人は、白筋を使って狩りをするねこに自然と魅力を感じている可能性がありますね。この辺りも、ねこブームと関係がありそうです。

ねこの共同保育

ねこは、1回の出産で5匹ほどの仔ねこを生みます。メスのねこは、交尾後24~48時間後に排卵が起こることから妊娠率はほぼ100%です。しかも、交尾後に別のオスと交尾をすれば、1回の出産で父親違いの仔ねこを生むこともできます。

生まれた仔ねこを育てるのは、母ねこの仕事であり、父親は一切子育てをしません。母ねこにとって子育ては、人間社会よりも厳しいです。その理由もあり、仔ねこが大人になるのは20%の確率だとされています。

一般にねこは、共同生活をせず1匹で生きているように思われがちですが、ノラネコの世界では共同生活をすることもあります。また、子育てに関しても共同保育がみられるそうです。

ただし、共同保育は、メスの血縁関係にあるメスが同じ場所に住み着いている場合に限られるようです。血縁関係にあるメス同士は、発情の時期を同調させることで、出産の時期も同調させます。そして、同じ時期に生まれた仔ねこを血縁個体同士が助け合いながら一緒に仔育てを行います。エサを取りに行っている間は、他の血縁個体が仔ねこに乳をあげたり、外敵から守ったりします。

メスねこは同じ場所にとどまりやすいと言われますが、そこには、共同保育が可能となるといった利点があるんですね。

意外にも、ねこは現代人以上に共同して生きている面があるのです。

ねこは変わらない

約1万年前に誕生したイエネコは、これまで大きな変化を見せることなく現在にいたっています。

一方で、人がねこに接する態度は時代によって変化しています。ねこを不吉な動物として殺していた時代もありましたし、現代日本のようにねこをかわいがる時代もありました。しかし、ねこ自身は、時代によって変わることはありませんでした。

彼らの生活に影響を与えているのは人です。人の都合で、ねこたちの生活は大きく変化するのです。

年間、何万匹ものねこが殺処分されるのも、人の都合でしかありません。年に1回しか出産しないのが本来のねこの姿です。しかし、都会に棲むノラネコは、人からエサをもらい栄養過多となって、年に複数回の出産を経験します。それが理由で、ねこが増え、近隣住民が迷惑に感じ殺処分となることもあります。

最近では、ねこの去勢や不妊手術の費用の一部を負担する自治体が出てきています。それにより、住民がノラネコを去勢や不妊手術をして、地域ねことして接するようになっている地域が増えつつあります。殺処分を減らすためには、このような地域ねこ活動が日本社会で広まっていくことが必要です。


人がねこに惹かれるのは、1万年前に農耕が発達して以降、定住生活が当たり前となったことで両者に親密な関係が築かれたからかもしれません。

しかし、一方でねこは、時代により人の都合で邪魔者扱いされることがありました。ねこにとって、人の志向の変化こそが最大の天敵なのでしょう。