ウェブ1丁目図書館

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メタバースは秘密基地かソビエト連邦か

子どものときに秘密基地を作って遊んだ人は多いのではないでしょうか。

大人に知られることのない自由な空間。そこにいることが許されるのは、自分の他に仲の良い友達だけ。何をやっても否定されることはありません。快適な空間で、好きなことをして過ごすことができます。

しかし、秘密基地は、いずれ誰かに見つかってしまい、自分以外の誰かに占領されることがあります。土地開発で消滅することもあります。何より、大人になると、秘密基地で過ごす時間がなくなり、いつしか自分自身もその存在を忘れてしまいます。

その忘れてしまった秘密基地を大人になってから再び作れるようになるかもしれません。メタバースによって。

自分にとって快適なサイバー空間

メタバースという言葉を聞いたことがあっても、それを具体的にイメージできる人は少数派だと思います。僕も、はっきり言ってよくわかっていません。2000年代にインターネット上に登場したセカンドライフのようなものだろうという認識でしかありません。

セカンドライフは、インターネット上に作られた仮想の街のようなもので、そこに建物を建てたり、店を出すこともできました。そして、商売をして稼ぐことも可能でしたが、所詮は仮想空間であり、支払ったお金に対して実物を手に入れることなんてできません。セカンドライフが登場した時は、期待感が高かったのですが、今では細々とサービスが提供されているだけで、その存在を知らない人の方が圧倒的に多い状況です。

メタバースセカンドライフのようにインターネット上に仮想世界を作るものですが、中央大学国際情報学部教授の岡嶋裕史さんの著書『メタバースとは何か』では、「サイバー空間における仮想世界」と定義されています。サイバー空間とは、要するにインターネットであり、その中に現実世界とは異なるもう一つの世界を作るのがメタバースです。

メタバースは、現実世界と同じものをインターネット上に作るのではなく、「現実とは少し異なる理で作られ、自分にとって都合がいい快適な世界」を作るものです。そう、インターネット上に作る秘密基地。それがメタバースなのです。

メタバースが注目されるのは、これまでのように多くの人が同じ価値観を共有していた社会から、様々な価値観を持つことが認められなければならないとする社会に移行したことと無関係ではないでしょう。誰もが同じ価値観を共有していれば、現実世界とは別の世界を作る必要はありません。

SNSの先にあるもの

インターネット上の快適な空間として、現在はSNSが主流です。

SNSは、自分と同じ趣味嗜好を持った人と繋がれるサービスであり、自分が求めていない情報や人と関わらないようにできます。インターネット上に囲い(フィルターバブル)を作り、その囲いの中には、自分と同じ価値観を持った人しか入れないようにでき、SNSにログインした時は、いつも快適な話題で盛り上がれます。

SNSを運営する企業は、フィルターバブルの中で広告を表示して利益を得るというのが現在のSNSの主流となっています。

SNSを利用している間は、秘密基地で仲の良い友人と過ごしているのと同じ感覚になります。しかし、夕方になれば帰宅しなければならず、いつまでも秘密基地にいられないのと同じように、SNSも、ずっとその中で過ごせません。現実世界では、やらなければならない仕事がありますから、SNSから離脱する時が必ず訪れます。

このSNSから現実世界に戻らなくても生活できるようになるのが、メタバースの特徴と言えます。現実世界とは異なる仮想世界でお金を稼ぎ、仮想世界でお金を使い生きていくことが可能になった世界。それがメタバースなのです。

そんなことできるのかと思ってしまいますが、フェイスブックなど巨大IT企業は、メタバースで主導権を握ろうと覇権争いを始めていますから、現実に仮想世界だけで生きていく時代が訪れるかもしれません。

サイバー空間にでき上がるのはソビエト連邦

仮想世界に没入して生きていける社会は、自分にとって都合の良いものだけを見て生きていける社会になりそうですが、果たしてそうでしょうか。

仮にメタバースが実現できたとして、そこに待っているのは、巨大な権力を握ったIT企業が支配する社会なのではないでしょうか。ルールはすべてIT企業が作り、ユーザーは、そのルールに従わなければなりません。メタバースの普及で、現実世界の経済が衰退すれば、人々は仮想世界でIT企業の言いなりになって生きていくしかないでしょう。

メタバースは、独裁と抑圧で国民を支配する共産主義スターリンが支配するソビエト連邦をインターネット上に作りだすことになるかもしれません。

国家や村社会から逃れ、自由の荒野からも逃れた先は、IT巨人が用意した快適な犬小屋だったのかもしれない。(167ページ)

インターネットが登場した当初は、これで世界中の人と繋がれるフラットな時代が来たと思われていましたが、現在では、IT企業による囲い込みが加速し、見つけたい情報を見つけ出せない状況になりつつあります。SNSの中にどれだけ長く滞在させるか、そして、引き込んだユーザーをどうやってWEBの大海に逃がさないようにするかに血道を上げているIT企業が増えています。

インターネット上には、いくつものソ連が存在し、どこに行っても、その支配から逃れられなくなってきています。メタバースが、インターネットのソ連化に拍車をかけるか、使い勝手の良い秘密基地にするかは、これからのユーザーの選択にかかっているでしょう。