リベラルという言葉をよく聞くようになって、どれくらいの年月が経っているでしょうか。
リベラルは、自由主義や自由主義者といった意味ですが、世間で使われているリベラルには、もっと多くの意味が含まれているように感じます。はっきり言って、リベラルの意味はよくわかりません。
リベラルの意味がわかりにくくなっているのは、その言葉を使う人に寛容さが失われてきているからなのかもしれません。
合理的で強い個人
リベラルの意味がわかりにくくなっているのは、まず、リベラルの出発点が現実の社会とかけ離れていたことが原因と言えそうです。
弁護士の倉持麟太郎さんの著書『リベラルの敵はリベラルにあり』では、「リベラルはその初期設定において『合理的で強い個人』を前提とした」と述べられています。この「合理的で強い個人」概念から構築された社会は、現実の「個人」との間にギャップが発生し、法制度や国家像に歪みをもたらしてきました。
自由な生き方を実現するためには、多くの選択肢が必要です。例えば、職業で見ると、農業、工業、サービス業など様々な職種が用意されており、人々は、その中から自分の生き方にあったものを選択できます。しかし、自分に合った職業を選択できるのは、合理的で強い個人です。現実の個人は、必ずしも合理的に物事を考えられませんし、その時の感情に行動が左右されることはいくらでもあります。
リベラルは、初期設定時に現実の弱い個人を想定していなかったため、その言葉が持つ自由の意味がよくわからなくなっているのでしょう。生き方を自由に選んで良いと言われても、何をどう選んで良いのか個人では判断できない状況のまま、決断を迫られているのが現実ではないでしょうか。
自分で選択したはずが
ほとんどの人が、「合理的で強い個人」ではありません。だから、現実の弱い個人にとっては、選択肢が狭められている方が、むしろ決断しやくなります。
例えば、現政権を支持するかしないかの2択であれば簡単にどちらかを決められます。しかし、数ある政党の中から、どの政党を支持するかを問われると答えにくくなります。すべての政党の代表者なんか知りませんし、そもそも、各党がどのような政策を実現しようとしているのかもわかっていない状況では、選択も何もありません。
このような状況で、現政権を支持するかしないかを問われた時、支持する側の声が大きければ支持すると答えてしまいますし、支持しない側の声が大きければ支持しないと答えてしまいます。
現政権を支持するかしないかの選択は、自分自身が行ったものですが、どうもしっくりこない。多くの人が、この違和感を生活の様々な場面で感じているのではないでしょうか。
行動を操作される社会の到来
リベラルは、人々に自由と選択を与えるという考え方ですが、テクノロジーの進歩により、選択権を他者にあずける場面が多くなってきています。
例えば、ネットショッピングをしている時に自分におすすめの商品が画面に表示される場面に出くわした人は多いはずです。あのおすすめ商品は、ネットストアでの顧客の行動履歴を参照して、興味がありそうなものを一覧表示しているので、顧客の過去の選択の履歴が反映されていると言えます。
つまり、過去の自分が自由に選んだ結果、その商品がおすすめされているのです。
おすすめ商品が表示されるのは便利ではあるものの、それは、自分が本当に望んでいる商品なのでしょうか。自分の過去の選択の結果、表示されている商品とは言え、自分の意思でその商品のことを知りたいと思って表示させているのではないですよね。ただ、AIが勝手にこちらの行動を先回りして選択肢を提示しているにすぎません。
これは、現政権を支持するかしないかの2択と仕組みはほとんど同じです。リベラルの初期設定概念である合理的で強い個人なら、ネットショッピングでおすすめ商品を表示されなくても、自分が望む商品を選び買い物できるはずです。しかし、おすすめ商品が表示される機能を多くのネットストアが採用しているのを見ると、そのセールス効果が高いことがうかがえますし、そして、顧客は合理的に商品を選べないことを物語っていると言えそうです。
AIに選択権を握られると、人々は本当の自由を失ってしまう危険があります。政府や大企業がAIを巧みに使って、国民を政府や大企業の都合の良い方に行動させることもできそうです。
リベラルは、自由と選択を重視することです。そして、多様性を認めるのもリベラルの特徴です。自分がどのような思想を持っていても良いけども、それを他人に押し付けるとリベラルとは言えません。考え方が両極に分かれ寛容さが失われた社会は、リベラルとは言えないのではないでしょうか。
これからAIが進化し、人の行動がAIによって操作されるようになると、人々の考え方が分極し、真のリベラルは消滅するかもしれません。人々の分断を防ぐ寛容さのある社会でなければリベラルは生き残れないでしょう。