ウェブ1丁目図書館

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競争社会は人々の互恵性や利他性を養う

競争が社会にとって必要なことかどうかは、常に議論になっています。

競争には、必ず勝者と敗者が出ます。そして、勝者が富み、敗者が貧するのであれば、競争社会は経済格差を生み出すと考えられます。

それなら、競争がない社会にすれば、経済格差は生じず、誰もが平等になるのでしょうか。勝者も敗者も出ない社会では、努力をしただけ報われるように思えます。

競争で得するのは誰か

競争で得するのは、誰でしょうか。

多くの人は、競争に勝った人が得をすると考えるのではないでしょうか。しかし、市場経済において競争がもたらすメリットは、勝者が享受するのではありません。そのメリットは、より良いサービスや商品を手にできる消費者が享受するのです。

労働経済学、行動経済学を専門とする大竹文雄さんは、この経済学の常識はなかなか直感的に理解されないと著書の「競争社会の歩き方」で述べています。

競争社会は、弱肉強食の社会だと思われがちです。そして、格差の原因を作っているのも競争だと。確かに敗者は、経済的な打撃を受けることがあり、多額の借金を背負うことだってあります。破産すれば、債権者にも不利益を与えます。

しかし、敗者がいたおかげで、商品やサービスの質が向上したのですから、敗者が社会的に無意味な存在だとは言えません。むしろ社会が今より良くなるためには、どうしても敗者が必要になるのです。

反競争的教育が格差を縮小するか

競争社会が格差を作るのであれば、その反対に人々が協力し合う競争のない社会を築くことで格差を解消できそうです。

学校教育の現場で、徒競走であえて順位をつけないようにしたり、最後は手をつないで全員でゴールするといった方法が採用されていることがあります。

この方法は、児童や生徒がお互いに助けあい、協力しあう関係を築くのに効果がありそうです。そして、大人になっても、差をつけるような競争をしないことが期待できそうです。

しかし、このような教育は、予想に反する分析結果を示しています。

反競争的な教育を受けた人たちは、利他性が低く、協力に否定的で、互恵的ではないが、やられたらやり返すという価値観をもつ傾向が高く、再分配政策にも否定的な可能性が高い。(143ページ)

競争をしなければ、思いやりのある大人になる、困っている人を助けるようになる、と思われていたでしょう。

ところが、競争がなくなれば、困っている人がいても助けない大人が増えるのです。その背景には、皆、努力をすれば100点を取れる素質を備えているのに100点を取れないのは、その人が努力をしていないからだとの考え方があるとの指摘があります。


「生まれた時に持っている能力は同じなのに差がつくのは努力不足だ」


と、考える人が多ければ、貧困は努力不足によってもたらされた結果だから助ける必要はないとの価値観が社会に広まるでしょう。競争を排除した結果、助け合いの大切さを子供たちに教えることができなくなるのです。

無計画が貧困を招くのか

貧困者が、生活保護などの金銭的な援助を受けた場合、お金が支給されたらすぐに消費してしまう傾向があります。

無計画に消費するから、お金が足りなくなるのだから、お金が支給されたら次の支給まで計画を立てて使うようにしなければなりません。これは、誰だってわかっています。貧困者も同じです。

現在、年金の支給は2ヶ月に1回のまとめ支給です。したがって、年金を受け取ったら向こう2ヶ月の消費計画を立てて、お金を使わなければなりません。しかし、貯蓄がなくぎりぎりで生活している人にとって、これは難しいことです。

今を生きるためには、支給されてすぐにお金を使わざるを得ないのです。そのため、支給されてすぐは消費が多く、支給前になると消費が減るという状況になってしまいます。

誰だって、長期的な視野を持って貯蓄をすることの重要性はわかっています。しかし、ぎりぎりの生活を強いられている状況では、意思決定が短期的となります。これは、誰だって同じで、今、裕福な人でも、会社の倒産などの理由で収入が激減すると、短期的な視野になります。

無計画な人が貧困になるのではなく、貧しい生活の中では、長期的な計画を立てるのが困難になるのです。

競争を経験するから所得再分配の重要性がわかる

所得格差の拡大は、社会的な問題だと認識するのであれば、高所得者から低所得者への所得の移転、つまり所得の再分配が重要と考えるはずです。

しかし、全ての人が所得再分配に賛成するわけではありません。

大金持ちは反対するはずだと思う人が多いかもしれませんが、所得が低い人でも、「将来、大物になって巨万の富を得てみせる」と考えていれば所得再分配に反対します。また、先ほども述べたように人は皆同じ能力を持って生まれてきているのだから、貧しい人は努力不足だと考える人も所得再分配に反対します。

一方で、大金持ちでも、所得はできる限り平等だと考える人はいますし、利他性が高い人も所得再分配に賛成します。

また、今は裕福であっても、将来は技術革新によって職を奪われ貧困に陥るかもしれないと考えている人は、所得再分配に賛成するでしょう。格差の拡大によって治安が悪くなれば、高所得者である自分の身に危険が及ぶかもしれないと考える人も、所得再分配に賛成の立場をとるでしょう。このようなものの見方ができるのは、競争を経験した人なのではないでしょうか。


互恵性や利他性は、競争を知った人に宿りやすいのかもしれません。競争から生まれた敗者をどう救うべきかを考えられるのも、競争社会で生きている人でしょう。