ウェブ1丁目図書館

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身近な疑問や噂話の真偽は行動経済学で確かめられる

経済学に持つイメージは、どのようなものでしょうか。

あんなものは机上の空論で現実世界と乖離した理屈だと思う人もいれば、しっかりと勉強すれば、将来、どのように株価が動くかを予測できる学問と捉える人もいることでしょう。あと、やたらと数字が出てきて何を言いたいのかよくわからないという人もいると思います。

また、経済学の知識を役立てられるのは、日本銀行財務省などで働いている一部の人だけと思われがちなのも、経済学の特徴ではないでしょうか。

でも、経済学は、実はもっと身近な存在であり、多くの人の生活と密着した側面も持っているのです。

人は合理的に行動できないもの

古典的な経済学には、人が合理的に行動することを前提としている考え方が多いです。

しかし、人は間違いを犯しますし、感情で行動することもよくあります。A案よりもB案の方が儲かるという分析結果が出ても、A案を選ぶ人はいます。それは、計算ミスでA案を選んだ可能性もありますし、なんとなくB案はやりたくないと思ってA案を選ぶことだってあります。

他にも、古典的な経済学では、情報は瞬時に広まるという前提で議論が行われます。ある企業が新技術を開発したという情報は、一瞬にして世の中の人が知るところとなるので、その情報に基づいて株式の売買を行っても、すでにその情報は株価に織り込まれており、利益を得ることはできないと考えられています。

ところが、現実社会では、そのようなことはありません。いち早く情報を入手した人が株式取引で利益を得ることはあります。

このような前提を知ると、やっぱり経済学は机上の空論だと思ってしまいます。でも、経済学には、もっと身近な事柄を扱った行動経済学という分野があります。この行動経済学をちょっと勉強すると、「経済学も意外と生活に役立つものだな」と感じるはずです。

大阪大学社会経済研究所に所属歴のある経済学者の方が集まって執筆した「こんなに使える経済学」は、身近な問題を行動経済学を使って初学者向けに分かりやすく解説してくれています。

喫煙は損

喫煙の話。

ほとんどの人が、喫煙は、将来的に病気になる可能性が高まり、場合によっては高額な医療費を負担しなければならないので損だと思っているはずです。

では、喫煙を行動経済学の視点で見ると、どうなるでしょうか。

幸福度を10段階評価でアンケート調査したところ、非喫煙者の幸福度の平均は6.55だったのに対し、1日にタバコ1箱を吸う喫煙者の幸福度の平均は6.06だったそうです。

人が幸福を感じる要素には様々ありますが、年収などの所得要因も幸福度と関係しています。もちろん、年収が多い方が幸福だと感じやすい傾向があります。

もしも、喫煙者が非喫煙者と同じくらいの幸福度を感じようと思ったら、年収を基準にすると今よりも200万円多くなる必要があるとのこと。今の職場の給料が変わらなければ、200万円多い職場に転職するか、副業で200万円多く稼がなければ、喫煙者は非喫煙者と同じ幸福感を持てないことになります。

また、喫煙に限らずギャンブルや飲酒といった中毒性があるモノに手を出しても、幸福度は下がるようです。

年収200万円増やすことと禁煙することは、幸福度という視点では実は同じなのです。どちらを選ぶかは、あなた次第。

セット販売は得か?

多くのお店で、最近はセット販売をよく行っています。

例えば、ハンバーガーショップ

単品で150円のハンバーガーと単品で150円のコーヒーがセットになった商品を250円で販売していたとしましょう。この場合、単品買いだと2つで300円になるのに対して、セットだと250円で買えますから、セットの方が50円お得と誰もが考えます。

ところが、行動経済学の視点では、セットで買うと損することになります。

今、ハンバーガーは150円で買っても良いけど、コーヒーには100円しか出せないと思っている山田君がいます。

一方、コーヒーには150円を出せても、ハンバーガーには100円しか出せないと思っている鈴木君もいます。

2人が一緒にハンバーガーショップに行けば、ハンバーガーとコーヒーのセットが250円であれば、2人で同じセットを買って食べることでしょう。

でも、単品売りしかしてなかった場合は、そうはなりませんよね。山田君はコーヒーは買わず、150円のハンバーガーだけを買います。鈴木君はハンバーガーを買わず150円のコーヒーだけを買います。

そうすると、ハンバーガーショップは、セット販売の時は2人分の500円の売上を上げることができるのに対して、単品売りでは2人分で300円の売上しか上げることができなくなります。

ハンバーガーショップが、単品売りで、2人ともにハンバーガーとコーヒーの両方を注文してもらいたいと思うなら、どちらも100円で販売する必要があります。この場合、2人分の売上合計は400円になります。

そう、セット販売で得しているのは、実はハンバーガーショップであり、山田君と鈴木君はそれぞれ50円余分にお金を支払う結果となり損をしているのです。

お店でセット販売されている商品を見つけた時は、単品買いでも安くならないか交渉してみるのもありですね。

日本人は貯金が好きか?

長らく、日本人は貯金が好きな国民だと言われてきました。

最近では、日本人1人当たりの貯蓄額が減ってきているので、以前よりも貯金が好きな人が減ってきていると言われることが多くなっていますね。

日本人が貯蓄好きかどうかも、行動分析学の視点で確かめることができます。

日本人の貯蓄好きは、リスクを嫌う国民性や儒教の影響などが、その理由として考えられてきました。もしも、このような国民性が、日本人の貯蓄好きの理由であれば、どの時代でも家計貯蓄率は、大きくは変動しないでしょう。

ところが、日本の家計貯蓄率は1960年から1980年代半ばに限って15%を超えていただけで、2000年代の家計貯蓄率は2~3%と大幅に低下しています。

日本人の貯蓄好きは21世紀になって変わったのでしょうか。

いや、そもそも日本人は貯蓄好きだったとは言えなかったのです。

1960年から1980年代半ばの高い家計貯蓄率は、単に人口に占める働き盛りの世代の割合が高かったから、そうなっただけの話です。15~64歳の生産年齢人口が多いほど収入の多くが貯蓄に回る傾向があります。老後の備えのためというのは、容易に想像できると思います。

21世紀に入ると、日本では高齢化が進みました。定年退職して、その後に働かなければ、貯金は徐々に減っていきます。そう、家計貯蓄率が低下しているのは、一言で言うと高齢化が原因なのです。

「最近の若者は、だらしないから貯金もできない」と言うのは、的外れな批判ということですね。もちろん、若者の給料が増えないと貯金は難しいですが。


「こんなに使える経済学」では、他にも多くの事例を経済学の視点で解説してくれています。どれもわかりやすく書かれているので、気楽に読むことができます。一読すれば、経済学が机上の空論ではないとわかりますよ。

でも、経済学を勉強して、大金持ちになれるかどうかは、また別の話です。