時代が変われば人々の考え方も変わってゆくもの。
乗り物ひとつをとっても、人力車と電車では速度が全く違うので、昔と今とで時間感覚が異なっています。今なら50kmの距離の移動に2時間かかれば遅いと感じます。でも、人力車の時代に50kmを2時間で移動できれば、とても速いと感じたことでしょう。
人の考え方は、その時代の技術や風潮に影響を受けそうですが、昔から現在まで大して変わっていないと思うのがオヤジの考え方です。
オヤジの言うことはいつも同じ
遠藤周作さんの「古今百馬鹿」を読むと、今も昔もオヤジと呼ばれる種族は対して進化していないと感じます。同書は昭和47年(1972年)に発刊されたものですが、その10年ほど前にオール読物で連載されていました。東京オリンピックがまだ開催されていない頃ですね。
2回目の東京オリンピックの開催が決まったというのに世のオヤジたちは、1回目の東京オリンピックの頃から進歩しているようには思えません。
古今百馬鹿に文化人のウソについて書かれていました。これは遠藤さんが勝手に想像して書いたことだと思うのですが、文化人の思考が昔と今でほとんど変わっていないことに気付かされます。
近頃、一流会社などで女子学生を決して採用しないという話をきく。その理由は女子社員は就職しても、そこを一時の腰かけとしてしか考えていないし、やがては結婚にはいるからだという。(中略)結果的に言えば、この処置は、戦後我々がかちとった民主主義と女性の社会的位置の復権を、もう一度戦前時代に引き戻そうとすることである。
(70ページ)
現在では、女性の社会進出を積極的に進めて行こうと主張する人たちが増えているので、当時よりも、女性は結婚後に仕事がしやすい環境になっているのかもしれません。でも、遠藤さんが想定する文化人の発言を読むと、やっぱり今も昔と変わっていないように感じますね。
女性が就職後、結婚してもなお、社会人として働くことができるように、託児所の設備を政府が作らないからである。つまり政治の貧困が女子学生の就職問題にも大きな影響を与えているのではあるまいか。
(71ページ)
昔から子育て支援は大切だと考えている人は多かったのでしょう。それなのに今も子育て支援が問題になっているのですから、時代背景とは違ったところに原因がありそうです。
オヤジの本音
遠藤さんの妄想が続きます。
遠藤さんが想定する文化人は、口では女性の社会進出が重要だと言っていますが本心はそうではないはず。その文化人の本心はこうです。
一流会社が女の子を採用せんのは、あいつらがすぐ結婚するからではなく、女の子が使いにくいせいじゃなかろうか。
叱れば泣く、ヒスをおこす、ユウズウもきかん、安心して大きな仕事も任せられん。そのくせ文句だけは一人前に言うからだ。うちの女房をみれば、女という奴がどんなに使いにくいか、よくわかるな。しかしそれを書きゃあ、こっちは反動とみられるな。主婦連や若い女性から文句が出るからな、損はよす方が合理的だな。
それにムツカシい言葉や外国の言葉を文章に入れれば、いかにも知性的にみえるから、そういう文章で書くことだな。ワケがワカらんむつかしい文章ほど、女性読者は高尚で立派なことが書いてあると思うからな。(中略)マルクスも同じことを考えていたんじゃなかろうかね。しかしマルクスも本音をはくのがこわかったから書かなかったのではなかろうかね。
(71ページ)
子育て支援を口にするオヤジは昔からいたのです。それなのにお母さん方が働きやすい環境が整備されていないのは、世のオヤジたちが遠藤さんが想定する文化人と同じ思考回路だからでしょう。子供の頃はそうでなくとも、親父と呼ばれる年齢になると、男性は遠藤さんが想定する文化人と同じ思考回路に変化するのかもしれません。
一部のオヤジの発言は大勢のオヤジの本音
それにしても遠藤さんは、好き勝手なことを書きますね。遠藤さんだけでなく、昭和のオヤジは皆好き勝手なことを言っていたように思います。
最近では、オヤジが本音を言うことが少なくなっているのではないでしょうか。オヤジの本音は、上の文化人の本心と同じようなものですから言えば終わり。合理性を追求するオヤジなら絶対に口に出しません。むしろ、自分の本音と真逆のことを言っておいた方が好感度が上がるのですから、賢いオヤジは本音を隠し思ってもいないことを口にするのです。
加えてインターネットの普及も、オヤジが本音を言わなくなった原因の一つでしょう。本音を言おうものなら炎上しますからね。自分の発言で炎上しているオヤジはいますが、よく見ると、いつも同じオヤジが炎上しています。
「あれは、一部の変なオヤジの発言だから、その他大勢のオヤジを同じように思わないでほしい」
そういう声が多くのオヤジから聞こえてきそうですが、そう言うあなたの本音も遠藤さんが想定する文化人の本心と同じなのではないですか?
- 作者:遠藤 周作
- メディア: 文庫