ウェブ1丁目図書館

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リテラシーは感情を制御できるか

最近、リテラシーという言葉をネット上で目にする機会が多くなりました。科学リテラシー、金融リテラシーなど。

リテラシーとは何ぞや。一般的に解釈されているのは、ある分野の正しい知識を持っており、その知識を場面に応じて活用したり応用したりできる能力といったところでしょう。教養に近い意味合いを持っていそうですが、リテラシーと言った方が、もっと実践的で具体的な感じがします。

また、特定分野のリテラシーが高いと、その分野で論理的かつ合理的な判断や行動をできるようになりそうです。単に情報を詰め込むだけの勉強では、知識を有効活用できないので、リテラシー教育が重要だと聞くことも多くなっています。

利用可能な情報には限界がある

リテラシー教育は確かに重要だと思います。

しかし、人間が入手できる情報には限界があるので、何かを解決しなければならない場面に遭遇した時、現時点の知識をもとに問題の解決を試みなければなりません。リテラシー教育に力を入れても、あらゆる情報を必要な時に必要な分だけ入手するのは難しいので、人間の論理性や合理性は、ある程度、制約された条件の中でのもっともらしさと言えなくもありません。

行動経済学ミクロ経済学を専門とする友野典男さんの著書「行動経済学」では、経済が感情で動いていることが解説されています。

ある選択肢を選ぶ際、どちらが自分にとって好ましい結果となるかを事前に検討することでしょう。例えば、A社の株式とB社の株式のどちらに投資した方が儲かりやすいかを検討して、株式投資をするといった具合に。そして、多くの人が、値上がりしそうな会社の株式を買うべきだと結論を出しますが、値上がりする確率を比較して、A社の株式、またはB社の株式を買うと決められる人は少ないのではないでしょうか。

株式投資リテラシーが高ければ、値上がりする株式を選べるはずです。しかし、それが難しいことは多くの人がわかっているはずです。なぜなら、株式投資に関わる全ての情報を集めることは不可能だからです。

そうすると、A社とB社のどちらの株式が値上がりするかは、確率で判断しなければなりません。しかし、確率を計算するにしても、やはり入手できる情報には限界があるので、不正確な確率を計算してどちらの株式に投資するかを決めざるを得ません。

また、株式投資の格言めいたものを思い出して、どちらの株式に投資するかを決めることもあるでしょう。このような方法で結論を出すことをヒューリスティクスといいます。

ヒューリスティクスは、問題を解決したり、不確実なことがらに対して判断を下す必要があるけれども、そのための明確な手掛かりがない場合に用いる便宜的あるいは発見的な方法のことであり、日本語では方略、簡便法、発見法、目の子算、さらには近道などど言われる。(66ページ)

確率を計算するのも難しい場合、このようなヒューリスティクスに頼る面が人にはあります。

「同一厩舎の2頭出しは、人気のない方を買え」とは、競馬の格言ですが、困った時の神頼みのようなもので、あまり当てにはできません。しかし、最後は、その格言に託してしまうのが人の性なのでしょう。

確証バイアスと現状維持バイアス

誰もが、意思決定に必要なすべての情報を取得できて、しかも、合理的に判断できるのなら、世の中から多くの失敗をなくすことができます。

しかし、仮に意思決定に必要なすべての情報を得られたとしても、誰もが合理的な判断をできるわけではありません。なぜなら、確証バイアスや現状維持バイアスがあるからです。

何か疑問に思ったことがあった時、頭の中であれやこれやと考えていると、突然、答えに気づくことがあります。ひらめきですね。

ひらめきが正しいかどうかは、書籍で調べたり実験したりしなければ確かめられません。しかし、そのひらめきが、我ながら素晴らしいと思ってしまったら、もう、これが答えに違いないと思い込んでしまうことがあります。そうすると、そのひらめきを裏付ける情報ばかり集めて反対の情報を無視したり、ある情報を自分のひらめきを補強する情報だと解釈したりします。これを確証バイアスといいます。

また、現状がとりわけいやな状態でない限り、現状の変化は、良くなるかもしれないし悪くなるかもしれません。このような場合、損失回避的傾向が働き、現状維持に対する志向が強くなります。これを現状維持バイアスといいます。

確証バイアスも現状維持バイアスも、どちらも、人が合理的判断をするのを妨げることがあります。

確証バイアスは、思い込みが強くなりすぎて周りが見えなくなり、好ましくない結果を招きやすいことは想像できるでしょう。

一方の現状維持バイアスには、気づきにくい面があると思います。現状に不満がないのなら、そのままで良いだろうと考えるのは合理的な判断のように思えますからね。

他に保有効果も、論理的な判断をできなくさせます。

あるグループに事故に遭う確率が0.5%から1%に上がる代償として700ドルを支払うと提示したところ、61%の人が拒否しました。一方、別のグループには、事故に遭う確率が1%から0.5%に減少するなら700ドル減ってもよいか質問したところ、受け入れたのは27%でした。

前者も後者も、確率と代償が同じ値にも関わらず真逆の結果となっています。

もしも、同じ人に上の質問をした場合、どうなるでしょうか。

論理的に考えれば、前者を拒否した場合、後者を受け入れるはずです。前者を受け入れたならば、後者を拒否するのが合理的な判断なはずです。質問された時にどうしても700ドルが必要な状況なら、前者を受け入れ、後者を拒否すると回答するかもしれません。お金に余裕があれば、前者を拒否し、後者を受け入れるかもしれません。事故に遭いたくないし、お金も減って欲しくないと考える人は、どっちも拒否しそうです。


リテラシーを身に着けることは、必要なことではあります。

しかし、リテラシーを身に着けても、合理的行動をできるかどうかはわかりません。我々人間には感情があります。どんなに論理的に合理的に行動しようと思っても、感情に流されて不合理な行動をしてしまうことは誰にでもあるはずです。

リテラシーが低い」と他人を批判している人でも、別の場面では、自分が不合理な選択をするかもしれません。自分が得意だと思っている分野でさえ、論理的におかしい選択をする可能性だってあるのです。

リテラシーも大切ですが、誰だって感情に流されて行動する危険があることを知ることの方が、日常生活の様々な場面で役立つのではないでしょうか。

行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)

行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)

  • 作者:友野 典男
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/05/17
  • メディア: 新書