ウェブ1丁目図書館

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大人の勉強はエピソード記憶を利用する方法が効果的

「大人になると、記憶力が悪くなってきて、勉強をしても全然身にならない」

これってよく聞きますよね。大人になると、脳細胞が死んでいくとか脳の神経が死んでいくとか、そういったことが原因で記憶力が低下し、勉強してもなかなか覚えられないということを聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?

でも、歳をとると物覚えが悪くなるということはないようです。むしろ、大人になった方が論理的に物事を記憶することが可能なのだとか。

短期記憶と長期記憶

脳の中で記憶をつかさどる海馬では、神経細胞が減ることもあれば増えることもあります。したがって、歳をとっても海馬の神経細胞が増殖するので、記憶力の低下を加齢のせいにするのは違っています。

神経生理学を専門とする池谷裕二さんの著書「記憶力を強くする」では、歳をとっても勉強の成果を上げていく方法が紹介されています。勉強法を解説した本では、著者の経験が中心となっていることが多いのですが、この本では脳科学の視点から、大人にとって効果的な勉強方法を解説してくれています。


どんな勉強でもそうですが、物事を記憶しなければ成果を上げることはできません。僕のような一般人からすると、記憶は覚えることとしか思っていませんが、記憶は保たれている時間を基準に短期記憶と長期記憶に分類できます。

短期記憶は、一時的に物事を覚えることです。例えば、市役所に問い合わせをしなければならない場合に一時的に市役所の電話番号を覚えるといったことが短期記憶です。市役所に電話をかけ終われば、その電話番号はすぐに忘れてしまうので、記憶している時間はほんの少しの間です。

一方の長期記憶は、長い期間、記憶が保持される記憶のことです。市役所に電話をかけるのが一度だけなら、すぐに電話番号を忘れるでしょうが、毎日何度も仕事などで電話をしなければならない状況が続けば、いつの間にか市役所の電話番号を覚えてしまいます。


誰でも、1回だけしかかけない電話番号を覚えるのは苦手でしょう。だから、その電話番号を覚えれなかったとしても、記憶力が悪くなったとは思わないはずです。でも、過去に何度も電話して覚えた電話番号が、ある時、思い出せなくなると記憶力が悪くなったと感じるのではないでしょうか?

長期記憶の4分類

長期記憶には、大きく4つあります。

エピソード記憶意味記憶、手続き記憶、プライミング記憶です。

エピソード記憶は、個人の思い出のことです。卒業旅行に友人3人とディズニーランドに行ったというのが、エピソード記憶の具体例です。

意味記憶は、知識のことです。例えば、大化の改新は645年に起こったといった記憶は意味記憶に該当します。

手続き記憶は、体が覚えるものごとの手順のことです。シャツのボタンの付け方、靴ひもの結び方を覚えているのは、手続き記憶です。

ライミング記憶は、勘違いのことです。例えば、ある文章の中に「ほうれんそう」という言葉が何度も出てきたとします。その文章の中に1ヶ所だけ「ほうれそんう」と誤植があったとしても、「ほうれんそう」と読んでしまう場合がこの記憶に当てはまります。プライミング記憶は、一見、無駄な記憶に思えますが、1文字ずつ文字を認識して読まなくても、すんなりと単語が頭に入ってくるので、迅速な判断をするために大切な記憶です。パソコンの予測変換機能のようなものですね。

記憶の階層システム

記憶を時間を基準に短期記憶と長期記憶に分類しました。さらに長期記憶は、エピソード記憶意味記憶、手続き記憶、プライミング記憶に分けました。

これら5つの記憶は、以下のように5段階の階層に分けることもできます。

  1. 最上層:エピソード記憶
  2. 2層目:短期記憶
  3. 3層目:意味記憶
  4. 4層目:プライミング記憶
  5. 最下層:手続き記憶


これは、下の階層にある記憶ほど、生命の維持にとって重要であり、上に行くほど高度な内容の記憶であることを意味しています。

下等な生物ほど下層の記憶が発達しており、高等な動物ほど上層の記憶が発達しています。そして、人間は最上層のエピソード記憶を蓄える能力が優れています。


記憶の階層は、人間の成長過程にも当てはまります。子供から大人になるにつれて最初に発達するのが手続き記憶で、成長に従って、プライミング記憶、意味記憶、短期記憶、エピソード記憶と順に発達していきます。

成長過程とは反対に歳をとって認知症になると、最上層のエピソード記憶から失われていきます。

年齢に合わせて記憶法を変える

人間の記憶は、成長過程に従って変化することから、勉強の仕方もこれに合わせていかなければ、なかなか学習した内容を覚えることができません。

聴いた音の音程を正確に判断できる絶対音感の能力は、3歳から4歳の頃にしか体得できません。10歳頃になると意味記憶が発達するので、この頃に九九を覚えさせるのは非常に効果的です。そして、大人になるとエピソード記憶が発達しているので、論理的に物事を覚えることが得意となるのです。

こうして考えると、記憶するときにはその年齢に見合った記憶の仕方があることが分かります。もちろん、勉学においても、これはとても重要なポイントです。たとえば、中学生のころまでは、意味記憶の能力がまだ高いですから、試験内容を「丸暗記」してテストに臨むという無謀な作戦でもなんとかなります。しかし、この年齢を超えたころから、少しずつエピソード記憶が優勢になっていきますので、これまでのような丸暗記作戦では、いずれ通用しなくなります。
(189~190ページ)

大人になってから勉強しても、全然覚えられないというのは、中学時代とおなじ意味記憶に頼った勉強をやろうとしているからです。大人には大人にあった勉強法、つまり、エピソード記憶を最大限に生かして学習するのが効果的です。

大人は論理や法則性を見つけ出しながら学習する

大人は、がむしゃらに暗記するのが苦手である以上、論理的に物事を覚えようとしなければなりません。例えば、以下のように数字が羅列してあり、これを覚えなければならなかったとします。


14671573


この数字を力技でそのまま暗記したとしても、その記憶は定着しないでしょう。それどころか暗記もできないかもしれません。こういった何の法則性もなく並んでいる数字に何らかの意味を持たせたり、強引に法則性を見つけてしまえば記憶しやすくなります。

例えば、上記の数字を前半の「1467」と後半の「1573」に分解し、無理やり理屈をくっつけます。「1467」を西暦1467年と置き換えれば応仁の乱が起こった年となります。「1573」を同じように西暦1573年と置き換えれば室町幕府が滅亡した年になります。

室町幕府の滅亡は、応仁の乱の勃発で100年間の戦国時代に突入したことが遠因です。だから、「1467」と「1573」には関連があると覚えるのです。

さらに語呂合わせも用いれば、記憶が定着しやすくなります。

「1467」は、「人よむな(1467)しい応仁の乱」と覚えます。
「1573」は、「以後涙(1573)の室町幕府」と覚えます。


そして、仕上げはエピソード記憶を作ることです。最も簡単なエピソード記憶の作り方は、覚えた内容を友人や家族に説明することです。こうすることで、後から「あのとき教えたところだ」「そういえば、こういう図を描いて説明したかな」といった具合にエピソード記憶になります。

記憶力の累積効果

エピソード記憶を上手く使って勉強をしていても、なかなか成績が伸びてきません。

その理由には、記憶力の累積効果が関係しています。

一生懸命勉強して1のことを覚えました。さらに一生懸命勉強して2のことを覚えました。もう一度、一生懸命に勉強すると、3のことを覚えるのではなく、4のことを覚えます。

そう、記憶は1ずつ積み上がっていくのではありません。勉強の効果は幾何級数的に上昇していくのです。


コツコツと勉強して64のことまで覚えました。目標を1000だとすると、まだまだ勉強の効果は現れません。さらに勉強して、128、256、512と記憶を積み上げていっても目標の半分ほどでしかありません。こんなに勉強したのにまだ目標の半分しか到達していないとくじけてしまいそうになりますが、次、一生懸命勉強すれば1024のことを記憶できるので、見事目標達成となります。

この勉強の累積効果を事前に知っているかどうかで、学習のやる気は大きく違ってくるでしょう。

勉強を続けていると、突然目の前に大海がひろがるように急に視界が開かれて、ものごとがよく理解できるようになったと感じる瞬間があります。ある意味「悟り」にも似た体験ですが、こうした現象はまさに勉学の累積効果によるものなのです。
(221ページ)

大人が勉強するときは、理詰めで覚えようとしなければ、学習内容を記憶できません。

そして、勉強の効果は、幾何級数的に現れることを知っていれば、努力の継続も辛くなくなるでしょう。