ウェブ1丁目図書館

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菌類との共生が人類が直面する課題を解決させる

菌は、何か汚いイメージがあり、人を病気にする悪い生物と思われがちです。

確かに細菌やウイルスは、時に人を病気にしますが、菌類には、シイタケなどのキノコに代表される真菌もおり、すべてが悪者というわけではありません。菌類をひとくくりにして悪いヤツと決めつけるのは早計です。

人だけでなく生態系にとっても好ましい菌はたくさんおり、菌なくしては地球環境は維持されないと言っても過言ではありません。

真菌はどこからやって来るのか

菌類の多様性や生態を研究している白水貴さんの著書『奇妙な菌類』では、キノコやカビといった真菌の生態について一般向けに解説されています。本書を読むと、これまで毛嫌いしていた菌類に対して、少しは親近感が出てくることでしょう。

キノコやカビは、気づかない間に発生しているもの。浴室がいつの間にかカビだらけになっているといった経験をした人もいるかと思います。

真菌は、目に見えないほど小さな菌糸の集合体です。シイタケを縦に裂くと細い糸状のものが見えますが、これが菌糸です。ある程度まとまった菌糸は可視化できますが、個々の菌糸は、あまりに小さすぎて肉眼では見ることができません。それが、カビやキノコといった真菌が、いったいどこからやって来るのか、疑問に感じる理由です。風に飛ばされて室内に入って来ても、気づくことはできないでしょう。

突如現れるキノコたちを見て、昔の人は、「菌類は悪魔が土を腐敗させたもの」や「キノコは雷によってつくられる」といった珍妙な説を唱えていました。でも、電気ショックを与えるとキノコの発生が促進されるという研究報告もあるので、あながち間違っていないのがおもしろいところです。

真菌がどこからやって来たかという説には、植物と一緒に海から上陸したとするもの、藻類と一緒に海から上陸したとするものがありますが、どちらの説にしても、真菌は海で誕生し上陸したようです。我々人類も、海で誕生し上陸した生物ですから、故郷は真菌と同じです。

分解者としての菌類

菌類は、生物の教科書では、生態系における分解者と紹介されています。

倒木、落ち葉、動物の排泄部などの有機物の中から必要な養分を取り出し、無機物へと変換することで、生態系の物質循環に関わっています。もしも、菌類が地球上にいなければ、どこもかしこも汚物だらけ。我々は、悪臭をかぎながら、生活しなければなりません。菌類は、お金を払わなくても清掃活動をしてくれるクリーニング業者のようなものなのです。

菌類によって分解された有機物は、さらに細菌によってミネラルに変えられ土壌中に放出されます。植物は、このミネラルを根から吸い上げており、生態系の物質循環がスムーズに行われています。

菌類は、人類が生み出した有毒物質まで分解する能力を持っているというのですから驚きです。ファネロケーテ・クリソスポリウムという担子菌は、DDTダイオキシン、PAHなどの汚染物質を処理できます。原発から出た放射性廃棄物を分解する菌類が、やがて発見されるかもしれいませんね。

さすがに放射性廃棄物は処理できないだろうと思うでしょうが、プラスチックや飛行機のジェット燃料をエサにする菌類がいるくらいですから、放射性廃棄物をムシャムシャと食べる菌類がいたって不思議ではないでしょう。

多様な菌類

菌類には、多くの種類があり、それぞれが変わった特徴を有しています。

菌類は、何かに寄生して栄養素を補給しなければ生きていけませんが、プクシニカ・モノイカという菌は、ヤマハダザオ属の草本植物に寄生します。このプクシニカ・モノイカというさび菌に寄生されたヤマハダザオ属の草本植物は、本来の花とは全く違った黄色い花を咲かせます。しかし、この花は、本物の花ではなく、さび菌によって誘導された疑似花です。

疑似花には、さび菌精子をつくる器官があり、本物の花と間違えてやってきた昆虫に精子を付着させ、それを別の疑似花に運ばせ、菌同士の授受精が行われています。

他にも、アリに寄生してゾンビ化させ、自由に操る菌類もいるとか。目に見えない小さな菌類ですが、その生存戦略は巧みです。

一方で、菌糸が集合し、巨大化した菌もいます。最も大きく育ったのはオニナラタケで、最大幅3810メートル、9.65平方メートルにもなったというのですから驚きです。実に東京ドームの206倍。

人間にとって役立つ菌は、先ほど述べた汚染物質を処理する菌などがいますが、花粉症を減らせる可能性を持った菌も存在しています。シドウィア・ジャポニカという菌で、スギに寄生すると、花粉の飛散量を減らせるとのこと。しかも、寄生されたスギが枯死することはありません。

「早速全国のスギにこいつを寄生させてしまえ」と思うところですが、生態系への影響がまだわかっていないので、いつ実用化されるのかは不明です。


人間は、菌をやたらと毛嫌いしますが、多くの生物が菌類と共生しています。中には、宿主を病気にする菌類もいますが、すべてが悪い奴らというわけではありません。人類は、菌類と上手に付き合うことで、多くの恩恵を受けられるはずです。