ウェブ1丁目図書館

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ケトン体は無実だ!なぜアシドーシスの犯人に仕立て上げられたのか?

人間の体液は、pHが7.35~7.45の弱アルカリ性に保たれています。

7.35以下、つまり酸性に傾いた場合をアシドーシス、7.45以上のアルカリ性に傾いた場合をアルカローシスといいます。

アシドーシスには、二酸化炭素が体外にうまく排泄されずに血液のpHが低下する呼吸性アシドーシスの他に、腎機能の低下で酸が尿中に排泄されなかったり、アルカリ性の腸液が下痢で多く失われたり、糖尿病でケトン体が多く産生されたりした時に起こる代謝性アシドーシスがあります。

特に糖尿病によるアシドーシスのことを糖尿病性ケトアシドーシスと言います。この言葉から、糖尿病の方がアシドーシスになる原因は、ケトン体にあると考えられてきたのですが、近年、これが冤罪であることが分かってきています。

胎児や新生児は低血糖

人間の血糖値は、血液1デシリットルあたり80mg~100mgです。この範囲よりも血糖値が低くなれば低血糖で、あくびが出たり、冷や汗をかいたり、重篤な場合には意識障害も起こします。

しかし、胎児や新生児の血糖値は、なんと35mg/dlしかないのですが、低血糖の症状が起こりません。なぜ、このような低血糖状態でも、胎児や新生児が低血糖症にならないのでしょうか?

その答えは、ケトン体にあると、産科医の宗田哲男さんが、著書の「ケトン体が人類を救う」で述べています。


ケトン体は、肝臓で主に脂肪酸から作られる物質です。各組織の細胞内では、ミトコンドリアがケトン体を利用してエネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)を生み出します。

よく脳の唯一のエネルギー源はブドウ糖(血糖)だと言われますが、これは間違いで、脳はケトン体をエネルギー源とできます。だから、胎児や新生児は、血糖値が低くてもケトン体を利用してエネルギーを生み出せるので低血糖の各種症状が出ないのです。

妊婦のは血中ケトン体濃度は高値

ケトン体とは、β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンの総称です。

宗田さんが、ケトン体の測定器を使い妊婦416人の分娩時臍帯血のケトン体濃度を測定したところ、ケトン体値の範囲は16~1980μ㏖/L、平均254.4μ㏖/Lでした。基準値が76μ㏖/Lですから、平均値は3倍から4倍高いことが分かります。

糖質制限をすれば、ケトン体は高くなります。しかし、それをしていない普通食の妊婦の場合でも、ケトン体が高いのです。中には、糖質制限をしていなくても、ケトン体が7000を超える妊婦さんもいました(この方は、お産が長引いていて、何日かあまり食事ができなかったのでした)。
(50ページ)

これだけケトン体が高値であっても、アシドーシスは起こっていません。また、糖質摂取量を減らすとケトン体濃度が高くなるとされていますが、妊婦の場合は、糖質摂取量に関わらずケトン体値が基準値よりもはるかに高くなるのです。

さらに新生児99人の生後4日目の血液を調べたところ、ケトン体値が平均で246.5でした。これだけケトン体値が高値でも、乳児にアシドーシスは見られません。

これまで胎児のエネルギー源はブドウ糖だと信じられていましたが、新生児の血糖値の低さ、そして、ケトン体濃度の高さから考えれば、新生児はケトン体で生きていることは明らかです。胎児や新生児のエネルギー源がブドウ糖だという説は、血中のケトン体値を調べずに導き出した結論だということが想像できます。

妊娠の早い段階から胎児は高ケトン血症

さらに驚くべきことは、胎児は母親が妊娠して間もない時期でも、高ケトン血症であるということです。

宗田さんは、母体と胎児とを結ぶ血液の通り道である絨毛(じゅうもう)を調べました。調べた絨毛は中絶された方のもので、98の検体のケトン体値の範囲は、600~4500、平均1930.1と極めて高いものでした。また、自然流産された方の絨毛についても調べてみたところ、37の検体でケトン体値が600~3600、平均1643.2でした。

このケトン体値は、妊娠6週から20週の間に調べたものであり、胎児のケトン体値は基準値の20倍を超える非常に高いものだったのです。

ケトン体が高いと知能指数が下がると言われていますが、我々人間は、母親の胎内にいるときは皆、高ケトン血症なのですから、知能指数とケトン体との間に因果関係がないことがわかります。

妊娠糖尿病にインスリンは効かない

妊婦は、妊娠中に糖尿病を発症することがあります。これを妊娠糖尿病といいます。

糖尿病は、上がった血糖値を下げることができなくなる病気で、進行すると失明、足の壊疽など様々な合併症を引き起こします。血糖値を下げる方法には、運動もありますが、最も重要なのが、すい臓のβ細胞から分泌されるインスリンです。

しかし、すい臓のβ細胞が何らかの理由で壊れるとインスリンが分泌されなくなり糖尿病を発症します。これが1型糖尿病です。また、インスリンを分泌できるけども、その量が少なかったり、効き目が悪かったりする状態を2型糖尿病といいます。

1型糖尿病であればインスリン注射で血糖管理を行います。2型糖尿病では他に薬を使って血糖値を下げることもあります。


妊娠糖尿病が、これらの糖尿病と異なっているのは、インスリンが十分に分泌されているということです。インスリンは健康な人の場合、2~30μU/mlなのですが、妊娠糖尿病の方は、正常値の数十倍から百数十倍のインスリンを分泌しています。それなのに高血糖の状態が続くのです。つまり、妊娠糖尿病にはインスリンが効かないのです。

ここから導き出した宗田さんの結論は以下のとおりです。

妊娠糖尿病は、妊娠母体が「糖質を拒否」している病態である。
同時に「タンパク質と脂肪」を要求している。
これに気づかずに、妊婦が糖質過多の食生活を送るために、病気が発症してしまう。
(196ページ)

糖尿病性ケトアシドーシス高血糖が原因

さて、糖尿病性ケトアシドーシスは、本当にケトン体が原因なのでしょうか?

胎児のケトン体値が基準値よりもはるかに高いことから考えると、ケトン体は無実でしょう。

糖尿病性ケトアシドーシスになるとケトン体値は高くなります。しかし、ケトン体はエネルギー不足に陥った体を助けるために登場しただけなのです。

インスリンが不足してブドウ糖をエネルギーにできない火事の現場で、ケトン体は自らエネルギーとなって、必死に体を助けていました。ケトン体は火事を消そうとしていた消防士だったにもかかわらず、その後もずっと犯人にされてしまったのです。「糖尿病性ケトアシドーシス」とは、本来「インスリン不足高血糖制御不能状態」というべきであって、ケトン体には何も関係ないのです。ですから、「ケト」の字を抜いて、「糖尿病性アシドーシス」と呼ぶべきなのです(これは重要です!)。
インスリンを投与して高血糖を抑えればケトン体は消えますが、これは消防士が引き上げて、正常任務に戻ったのであり、「ケトン体さんご苦労様でした」というべきところです。
(132ページ)

ケトン体は、飢餓状態になった時に肝臓で作られると言われています。つまり、血中のブドウ糖(血糖)が少なくなった時にその代替として利用されるのだと。

胎児の血糖値が低く、ケトン体値が高いことを考えると、この説明は一理あるとも言えます。

しかし、糖尿病性ケトアシドーシス高血糖の状態で起こるのですから、飢餓状態に陥ってケトン体が作られたのではないと想像できます。余分な血糖は、インスリンによって筋肉や脂肪組織に取り込まれエネルギーとして利用されますが、インスリンの効き目が悪くなれば、エネルギーとしてブドウ糖を利用するのが難しくなります。だから、血糖管理が困難になった糖尿病の方の血中にたくさんのケトン体が登場するのでしょう。


そもそも、人は胎児のときと同じように糖質の摂取を控えケトン体を利用すれば、血糖値は上がりません。もちろん、事故を除けば、糖尿病の発症も予防できます。

酸性のケトン体がアシドーシスの原因だというのは、包丁を持っている人が事件現場を通りかかっただけで犯人にされるのと同じです。

裁判のやり直しが必要ですが、無罪を勝ち取る道は険しそうです。