ウェブ1丁目図書館

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オリジナルな情報発信は問いから始まる

新聞記者や小説家など、文章を書くことを仕事にしている人はたくさんいます。最近では、インターネットを使って情報発信をする仕事も増えていますが、それも誰かに情報を伝える手段として文章を使うことが多いです。

研究者も、自分の研究内容を誰かに伝えるために論文を書きます。視野を広げれば、営業マンの方もその日の仕事内容を日報に記す際文章を使いますし、日常的に使っているファックスやメールも相手に伝えたいことを文章にしています。

よくよく考えてみると、現代日本人の生活と文章は密接に関係しているのだとわかります。

オリジナルな情報生産

文章を書く、特に仕事で文章を書く場合は、自分が発信する情報が読み手に伝わるようにしなければなりません。そのためには、一定のルールに則って文章を書いた方が、自分が伝えたいことを読み手に理解してもらいやすくなります。

以前にシロッコ手習鑑さんが、「社会心理学教授が教える『レポート・卒論のテーマの決め方』」の記事で、文章を書くのに参考となる書籍を紹介していました。良さげな本だなと思い、大きな書店に見に行ったのですが、取り扱いがなく買うことができませんでした。

それからしばらく経ち、再び書店に行くと、社会学者の上野千鶴子さんの「情報生産者になる」という本を見つけました。情報生産者とはどういう人なのか、気になって中を軽く読んでみると、研究者がどのように論文を書いたら良いのかを解説した内容で、付加価値のある情報を発信する人を情報生産者と呼んでいるようです。

これは、研究者でなくても、日常的に文章を書くことが多い現代人なら読んでおいて損はないだろうと思い、すぐに購入しました。


上野さんによると、情報はノイズから生まれるとのこと。ノイズとは違和感であり、何も疑問に感じないところからはノイズは発生しません。すなわち、情報は何か疑問に感じることがなければ生み出されることはなく、ノイズを感知することから情報生産は始まると言えます。

ただし、疑問を感じたとしても、すでに誰かがその疑問の答えを提示していれば、本を読むなりインターネットで検索するなりして疑問を解決できます。だから、すでに解決している疑問に対する答えは、オリジナルな情報とはなりません。情報生産は、オリジナルな情報を生み出すことであり、そのとっかかりは誰もこれまでに立てたことのない問いを立てることにあります。

考えたことを書くのではない

情報生産は、自分が考えたことを書くのではありません。

小学校の授業では、感じたことをありのままに書くように言われることがあります。しかし、上野さんは、このような文章の書かせ方は困った教育だと思っており、「考えたことを、データをもとに、論拠を示し、他人に伝わるように書きなさい」という文章教育が大切だと述べています。

頭の中で考えて書く行為は、根拠のない思い込み、つまり、空想や妄想を語っているだけです。それでは、自分で立てた問いに対する答えを見つけ出し、他者に伝えることはできません。フィクションの物語を書くのなら、空想する力は大切かも知れませんが、それだけでは論理的な文章を書くことはできません。下手をすると、誰にも読まれない文章を書いて終わることにもなりかねません。

上野さんは、情報は消費されることに価値があると指摘します。「文章は読まれてなんぼ」であり、共有されない情報は価値がないと言いきっています。

自ら問いを立て、結論を導きだし、他者に伝えるための研究の流れは、「情報生産者になる」の33ページに以下のように記されています。

  1. 問いを立てる
  2. 先行研究を検討する
    (対象/方法、理論/実証)
  3. 対象を設定する
  4. 理論仮説を立てる
  5. データを収集する
    (1次情報/2次情報)
  6. データを分析する
  7. 仮説を検証する
    (検証/反証)
  8. モデルを構築する
  9. 発見と意義を主張する
  10. 限界と課題を自覚する


この流れは、そのまま研究計画書にもなりますし、論文の構成にもなりますね。

引用のルール

論文を書く場合、他者の論文や本を参考にすることはよくあります。上の研究の流れを見ても、先行研究を検討しなければならないことはわかりますから、他者の成果物を借りて文章を書くことが必要になる場面が出てきます。

他者の文章を借りる場合、自分の書いた本文と明確に区別しないと剽窃だと疑われます。剽窃とは、つまり、パクリのことです。パクリは研究者として致命的ですから絶対にやってはいけません。

文章を書くとき、論文に限らず、本文と引用は明確に区別するため、引用した文章には「」を付けなければなりません。また、その直後には、[ ]のなかに著者名、西暦年、ページも記載します。

長い文章を引用する場合は、また違った書き方があります。引用の様式については、同書で、社会学評論スタイルガイドというウェブサイトが紹介されていましたので、適宜、参照すると良いでしょう。

引用については、上野さんは、本文中で「ここぞ」というところで1回だけ使うことを推奨しています。引用を繰り返すと自分の主張が弱くなります。また、引用に自分のアイディアを代弁させることはできませんから、引用の多用は文章のオリジナリティを損なうことにもなりかねません。

一次情報の発信は、それ自体がオリジナルです。すでに誰かが加工した情報は、二次情報(second hand/セコンドハンド)、つまり、セコハンの中古情報です。セコハンだけで組み立てられた文章ではオリジナルとは言えません。

このブログは、読んだ本の感想を書いているので、セコハンブログです。そのセコハンブログから情報を集めてきて書いた文章はセコハンのセコハンですから、どこにもオリジナルがありません。他者の情報を参考にし引用することは悪いことではありませんが、研究者が論文を書いたり、仕事で文章を書く場合には、一次情報を入れるべきです。セコハン情報では、自分の問いに答えることはできませんし、読み手にも自分が伝えたいことをを伝えることはできません。


「情報生産者になる」は、学部生が卒業論文を書く場合や研究者が論文を書く場合の参考書のような本です。論文を書く前の準備、必要な情報を調べる方法、集めた情報の整理の仕方が解説されていますし、事例も多く紹介されています。

学生や研究者だけでなく、文章を書くことが多い仕事をされている方にも参考になる部分が多いです。

セコハン情報のツギハギではなく、オリジナルな情報を作って発信したい方は読むことをおすすめします。